準確定申告でも医療費控除は可能 対象範囲や計算方法、手続きや注意点などを解説
亡くなった人が支出した医療費については、亡くなった人の代わりに相続人が済ませる「準確定申告」の際に医療費控除を受けられる可能性があります。税理士が、準確定申告における医療費控除について、対象範囲や計算方法、手続きや注意点などを解説します。
亡くなった人が支出した医療費については、亡くなった人の代わりに相続人が済ませる「準確定申告」の際に医療費控除を受けられる可能性があります。税理士が、準確定申告における医療費控除について、対象範囲や計算方法、手続きや注意点などを解説します。
目次
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所得税の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に生じた所得から所得税を計算して、翌年2月16日から3月15日までに納税者自身で申告と納税をします。
ただし、年の途中で亡くなった場合は納税者自身で申告と納税をすることができないため、1月1日から亡くなった日までに確定した所得から所得税を計算して、相続人(財産内容を指定されず、プラスの資産もマイナスの負債もまとめて遺贈された包括受遺者を含みます)が代わりに亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内に申告と納税をしなければなりません。これを準確定申告と言います。
なお、包括受遺者を含む相続人が複数いる場合は連署により準確定申告書を提出することになりますが、各相続人が別々に提出することもできます。
所得税は所得金額から所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用して税額を算出しますが、医療費控除はその所得控除の一つになります。
医療費控除は、納税者本人が自分自身または納税者本人と生計を一にする配偶者やその親族のために医療費を支払った場合において、1月1日から12月31日までの一年間に支払った医療費が一定額を上回ったときに医療費控除の対象になります。
すべての医療費が対象になるわけではありませんが、たとえば以下のような医療費は医療費控除の対象になります。
医療費控除の対象
医療費控除の金額は次の算式で計算した金額(最高200万円)になります。
算式
(実際に支払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額 ※1)-10万円 ※2
※1:生命保険契約などで支給される入院給付金や健康保険などで支給される高額療養費や出産育児一時金など
※2:その年の所得の合計額が200万円未満の場合は、所得の合計額の5%
計算例
公的年金による雑所得:150万円
不動産所得:60万円
医療費:75万円(入院給付金を20万円受け取っている)
計算式
(75万円-20万円)-10万円 ※=45万円(医療費控除の金額)
※:所得の合計額が210万円(=150万円+60万円)で200万円以上のため10万円
所得税の確定申告は前述したとおり医療費控除を受けることができますが、準確定申告においても医療費控除を受けることができます。
ただし、準確定申告における医療費控除は亡くなった日までに被相続人(以下「亡くなった人」)が支払った医療費であり、死亡後に相続人などが支払った医療費は亡くなった人の準確定申告における医療費控除の対象に含めることができません。
亡くなった人から引き継いだ債務は、相続税の計算において財産額から差し引くことができます。そのため、亡くなった日までに支払わなかった医療費の債務は相続人に引き継がれ、相続税の債務控除の対象になります。
所得税の医療費控除と相続税の債務は重複して適用できないため、亡くなった日までに支払った費用は準確定申告の医療費控除、未払いの費用は相続税の債務控除になります。
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相続の相談が出来る税理士を探す医療費控除を受けるためには、準確定申告書に医療費控除の事項を記載するとともに医療費の額などを記載した「医療費控除の明細書」を添付する必要があります。なお、「医療費控除の明細書」は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
医療費の領収書は準確定申告書に添付する必要がありませんが、税務署から医療費の記入内容を確認するため領収書の提示や提出を求められる可能性があるため、5年間保存する必要があります。なお、医療保険者などから交付を受けた「医療費通知」がある場合は、医療費通知を添付することにより明細書の記入を省略することができます。
また、令和4年1月1日以降に令和3年分以降の確定申告書をe-Taxにて送信する場合は、「医療費通知」に記載されている事項を「医療費控除の明細書」に入力して送信することにより、「医療費通知」の添付に代えることができます。
準確定申告書に添付する「医療費控除の明細書」の書き方は、国税庁の「医療費控除を受ける方の記載例」で紹介されています。
医療費控除の明細書の書き方における注意点を以下で詳しく説明します。
医療保険者などから交付を受けた「医療費通知」を添付して医療費控除を受ける場合は、「医療費控除の明細書」の「1 医療費通知に関する事項」の指定欄に、通知書に記載された自己負担額の合計額を記載して医療費控除を受けることができます。
「医療費通知」は年をまたがって支払った医療費の明細が届きます。医療費控除の対象になるのは準確定申告の対象となる期間に支払った医療費のみが対象になりますので「医療費通知」の対象期間に注意が必要になります。
準確定申告書に添付する「医療費控除の明細書」は、医療を受けた人の氏名、病院や薬局などの支払先の名称、医療費の区分、支払った医療費、通院などにかかった交通費、保険会社などから補填された金額を、「医療費控除の明細書」の「2 医療費(上記1以外)の明細」の指定欄に記入します。5-1を記入する場合は5-2と重複しないように記入をする必要があります。
控除額の計算は「医療費控除の明細書」の左下部分にある「3 控除額の計算」の欄で行います。A〜Gの欄まで指定の数字が示されているので、確定申告書の記載とずれがないように注意しながらその欄を埋めていきます。
A欄(支払った医療費)及びB欄(保険金などで補てんされる金額)
支払った医療費の合計額、保険会社などから補てんされた金額の合計額を記入します。
C欄(差引金額)
A欄からB欄を差し引いた金額を記入します。差し引いた金額がマイナスになる場合は医療費控除を受けることができません。
D欄(所得金額の合計額)
所得金額の合計額を記入します。
E欄(D×0.05)
D欄の5%の金額を記入します。なお、所得金額の合計額が赤字の場合は0円になります。
F欄(E欄と10万円のいずれか少ないほうの金額)
E欄と10万円のいずれか少ない金額を記入します。F欄はD欄の所得金額の合計額が200万円以上の場合は10万円、200万円未満の場合はD欄の5%の金額になります。
G欄(医療費控除額:C−F)
C欄からF欄を差し引いた金額が医療費控除の金額になります。上限は200万円、差し引いた金額がマイナスである場合は0円になります。つまり、マイナスになる場合は医療費控除を受けることができません。
準確定申告は亡くなったことを知った日の翌日から4カ月以内に相続人などが申告と納税をしなければなりませんが、準確定申告において医療費控除を受け忘れた場合や、準確定申告そのものを失念していた場合は、その年の翌年から5年間はさかのぼって医療費控除を受けることができます。ただし、準確定申告の提出を怠ってしまうと無申告加算税や延滞税が発生する可能性があるため注意が必要になります。
準確定申告で医療費控除を適用すると所得税が還付されるわけではありません。あくまでも「所得控除」である点で注意が必要です。所得税を計算した結果、源泉所得税など払いすぎた所得税がある場合は還付されますが、不足分があれば逆に所得税を納付しなければなりません。
具体例①
所得金額300万円、医療費控除を含めた所得控除350万円、すでに支払った源泉所得税30万円の場合
所得金額300万円-所得控除350万円<0円のため所得税は課税されませんが、すでに支払った源泉所得税が30万円あるため30万円の還付になります。
具体例②
所得金額300万円、医療費控除を含めた所得控除350万円、すでに支払った源泉所得税0円の場合
所得金額300万円-所得控除350万円<0円のため所得税は課税されません。すでに支払った源泉所得税はないため還付はありません。
生前に亡くなった人が長く病院に入院していた場合は、準確定申告の医療費控除で所得税が軽減される可能性が高くなります。ただし、準確定申告は医療費控除を含めて他人の申告をしなければならないため、手続きが煩雑になりがちです。
また、亡くなった場合は準確定申告のほかにもさまざまな書類を税務署へ提出しなければならない場合もありますので、準確定申告や医療費控除などの不明点があれば税理士に相談してみてください。
(記事は2023年5月1日時点の情報に基づいています)
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