相続税の取得費加算 相続不動産を売却する際に使える特例の注意点
相続した実家や土地などの財産を売却して利益をあげた場合、譲渡所得として所得税や住民税がかかります。ただし、その財産について相続税を支払っていた場合、「取得費加算の特例」を使って税負担を軽減できる可能性があります。元東京国税局国税専門官のライターが注意点とともに解説します。
相続した実家や土地などの財産を売却して利益をあげた場合、譲渡所得として所得税や住民税がかかります。ただし、その財産について相続税を支払っていた場合、「取得費加算の特例」を使って税負担を軽減できる可能性があります。元東京国税局国税専門官のライターが注意点とともに解説します。
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相続財産のなかに、相続人は利用しない財産が含まれている場合があります。たとえば、被相続人が集めていた貴金属や、1人で住んでいた土地家屋などが挙げられます。このような相続財産は、売却すればお金になりますが、「譲渡所得」として所得税や住民税がかかる可能性がある点に注意が必要です。税金がかかるのは、土地建物や株式、貴金属、書画骨董など。一方、家具やプライベートで利用する自動車のような「生活に通常必要な動産」については、売却しても課税されません。
譲渡所得は、売却によって得た「収入金額」から、その財産を取得した際の「取得費」、売却に要した「譲渡費用」を差し引いて計算します。この計算結果がプラスになれば税金がかかります。
なお、相続財産を売却する場合の取得費は、原則として被相続人が購入したときの価額を引き継ぎます。たとえば被相続人が1000万円で購入した土地を、相続人が1200万円で売却したのであれば、1200万円から取得費1000万円を引き、さらに譲渡費用を差し引いて譲渡所得を計算します。この取得費に、支払った相続税額の一部を加算できる特例が、「取得費加算の特例」と呼ばれるものです。特例のしくみについて詳しく見ていきましょう。
取得費加算の特例を適用することによる節税効果は後ほど説明しますが、その前に、特例を使うための条件を解説します。
上記の条件のとおり、たとえ相続人が相続財産を売却しても、相続税がかかっていなければ取得費加算の特例を使うことはできません。とくに気をつけるべき条件は3です。相続税の申告期限は、相続開始日(通常は死亡日)から10カ月以内と定められているため、ここから3年が経過する日までに、相続財産を売却する必要があります。
取得費加算の特例の節税効果について検証します。平成26年度の税制改正が行われるまでは、「土地等」と「その他の財産」で取得費加算の特例の計算式が異なっていましたが、今は以下の計算式に統一されています。この計算式により、その人に課税された相続税額のうち、譲渡した財産に対応する金額を割り出すことができ、この金額が取得費加算額になります。
上記の算式に具体的な数字を当てはめて計算をした結果は以下のとおりです。計算をシンプルにするため、相続人は子ども1人としています。
土地などの不動産を売却すると、所得税(復興特別所得税を含む)15.315%、住民税5%がかかります(長期譲渡所得の場合)。この税率に、上記のシミュレーションで求めた取得費加算額460万円を当てはめると、所得税70万4000円、住民税23万円に相当します。取得費加算の特例を使うかどうかで、税負担にこれだけの差が出てくるのです。
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相続の相談が出来る税理士を探す取得費加算の特例を受けるためには、相続財産を売却した翌年に確定申告をしなくてはなりません。この確定申告書に、次の書面に記入したものを添付する必要があります。いずれの書面も、税務署でもらうことができ、国税庁ホームページからプリントアウトすることも可能です。
このうち、内訳書は譲渡所得の計算に使用し、計算明細書は取得費加算額の計算に使用します。たとえば、さきほどシミュレーションした結果を計算明細書に当てはめると、次のように取得費加算額を求めることができます。
なお、相続税を申告したときに「贈与税額控除」または「相次相続控除」を受けている場合、特別な計算をする必要がありますので、注意しましょう。計算明細書の下部の欄も使って計算してください。
最後に、取得費加算の特例とともに検討したい特例について説明します。こちらは被相続人が居住していた家屋や敷地を売却したときに使えるもので、本記事では「空き家特例」と呼びます。
空き家特例は、相続や遺贈により取得した被相続人の居住用家屋や敷地を、相続があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売った場合、譲渡所得から最高3000万円まで控除することができるというものです。
取得費加算の特例と比較すると、空き家特例は条件が細かく、被相続人の居住用不動産に限定される点がネックですが、譲渡所得を最大3000万円下げられる節税効果は見逃せません。取得費加算の特例と空き家特例の両方の条件を満たした場合は、いずれか一方を選択することになりますので、有利なほうを選択しましょう。
なお、空き家特例の法律は、現状の法律では令和5年12月31日までに売却をした場合の特例措置となっています。令和6年以降にも空き家特例が延長されるかは不明ですので、相続財産の売却を考えるときは、法改正についても確認してください。
(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)
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