目次

  1. 1. 家族信託の契約書を作るために
    1. 1-1. 家族信託の契約書は法律家に作成を依頼する
    2. 1-2. 家族信託の契約書に必要項目を記載する
    3. 1-3. 家族信託の契約書のひな形は参考程度にとどめる
  2. 2. 家族信託の契約書は公正証書がおすすめ
    1. 2-1. 公正証書は契約内容でトラブルが起きにくい
    2. 2-2. 公正証書を作成するには身分証明を用意する
  3. 3. 家族信託の契約書作成にかかる費用
    1. 3-1. 専門家の報酬は100万円前後かかる場合も
  4. 4. 個人で契約書を作成しても良いか
    1. 4-1. 個人での契約書の作成は避けたほうが無難
    2. 4-2. 個人作成で起こったトラブル例
  5. 5. 家族信託には専門家のサポートが必要

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普段、司法書士として家族信託に関する相談に応じていると、すべての希望に対応できる契約書ひな形を作成することは不可能であることを痛感します。各相談者の家族状況や家族信託をする目的、頼れる人が1人なのか2人以上なのか、誰に受け継いでいきたいか等により、契約書ごとに条文が変わってきており、全く同じ契約書にはならないからです。

家族信託の契約書の作成を依頼する専門家は、法律の知識に秀でた人に頼む必要があります。具体的には、民法や信託法などに詳しい専門家です。
それ以外に、税金のこと、不動産のこと、実務のことも知っている方が望ましく、また人の心が分かることも欠かせない要素です。

法律の知識がない人が家族信託契約書を作るのは、ルールを知らないで野球の試合をするようなものです。そして、家族信託契約書は法律文書です。家族信託契約書を締結することで、法律効果が発生し、財産管理や亡くなったときの相続にまで影響を及ぼします。内容を理解しておらず、そんなつもりではなかったとなっても取り返しがつきません。
そのため、自分達の意図がちゃんと反映をされているかどうかを、しっかりと理解して調印する必要があります。

また、契約書に込めた想いを実現するためには、人の心にも配慮することが必須です。
信託契約は、日常の生活や財産管理、相続にまで影響をします。相続のときなど、もらえる兄弟姉妹と、もらえない兄弟姉妹がいるときには、もらえない兄弟姉妹が遺留分を主張して来て、争いに発展する可能性があります。

親としては、子ども同士が相続で争うことなど願っているわけはありません。そして、争いに発展したことで、家族信託で叶えたかった目的が達成できなくなることもあります。人の心に配慮して、縁を繋げればもしかしたら敵ではなく味方になって、協力してくれていたかも知れません。なので、人の心に配慮できることは相談すべき法律家の欠かせない要素だと考えています。

家族信託契約にも必要項目があります。

例えば
・契約の目的
・信託の対象財産
・受託者、受益者は誰か
・信託の終わり方のルール
・信託が終わったときには、誰が所有者になるのか など

※財産の管理を任される人を『受託者』、信託財産の「財産権」を持つ人を『受益者』と呼びます。

この他に、任意の項目として、下記のような項目があります。
・受益者が亡くなったときに、財産権は誰に承継されるのか
・受託者が辞任したくなったときの手順と、次の受託者を決める手順
・受益者である親の判断能力が無くなった場合でも、信託契約の内容を変更できるように受益者代理人の指定
などもあります。あくまで一例で、相談者の方の要望や状況などにより、盛り込んでいきます。

ネット上にも、家族信託の契約書ひな形は出てきますが、鵜呑みにしてすすめるのは危険です。

例えば、受益者代理人の項目がない契約書も見かけました。無効ということではないのですが、委託者兼受益者である親の判断能力が無くなると、信託契約の内容を変更したくても変更をできなくなってしまいます。もしも、変更できる仕掛けにしておきたければ、受益者代理人を置いておく必要があります。委託者兼受益者である親の判断能力が無くなってから追加しようとしても、手遅れになります。

その他にも、財産権を承継する受益者がいなくなってしまう家族信託契約書も見かけました。この場合に、受託者が承継したものとみなして、受託者に税金が発生してしまいます。

また、内容を理解していなくても調印した契約書は有効です。これによりトラブルになったとしても、自己責任になってしまいます。専門家が作ってきた契約書についても、鵜呑みにせず、しつこいぐらい確認した方が良いと思います。そして、納得をした上で手続きを進めていくことをお勧めします。

家族信託契約は公正証書で作ったほうが安心です。公正証書とは、全国各地にある公証役場で、公証人という法律の専門家が作成した法律文書になります。公証人は、法務大臣が任命しています。

公正証書で作成をするメリットの1つは、公証人にも家族信託契約書についてチェックをしてもらえることです。法律的なチェックだけでなく、公正証書を作成するときには本人に内容を確認して進めるため、本人の意思で作成した文書と言えるようになります。

そのため、後から「本人に黙って勝手に契約書を作った」などのクレームを受けることを防ぐことができます。

また、原本が公証役場に保管をされます。そのため、自分で保管をしていた契約書を失くしてしまったとしても、再発行を求めることができます。

公正証書の作成のためには、自分が本人であることを証明するものが必要になります。
一般的なものは、「実印と印鑑証明書」です。それに代わるものとして、「運転免許証等の写真付きの身分証と認印」でも手続きをできることがあります。

公証人の先生からも、本人確認を強化する方針のため、「実印と印鑑証明書」だけでなく「運転免許証等の写真付きの身分証」を求められたこともありました。

その他に信託契約書の内容によって、住民票や戸籍、不動産に関する情報、受益権を承継する人の書類も求められることがあります。

専門家に家族信託のサポートを依頼した場合に、かかる報酬について、統一の報酬基準はありません。目的と財産の内容については、100万円を超えてくることもあります。但し、私は高いとは思っていません。

家族信託契約は終わりではなく、スタートになります。関わった専門家としては、自分が設計した家族信託の利用者と関係を維持できるよう連絡を取り合い、予想外の事態が生じた時にも連絡をもらい対応していくことが求められます。しかも何年も続く可能性があります。

その手続き後のサポートも元の報酬に含んでいると考えているからです。目の前の専門家が契約後もサポートをしてくれるのかを確認して進めていく必要があります。

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家族信託の契約書には、契約当事者だけでなく、家族外の方も関係してきます。
例えば、不動産が信託財産に含まれる場合には、登記の手続きをする必要もあります。

登記官が、不動産登記の内容を変更するためには、法律的な根拠が必要になります。信託の登記をすること、内容を変更すること、信託を終わらせて登記を抹消することなども契約書がどのような内容になっているかに影響を受けます。

一度契約書を作って、登記手続きをしてしまったら、その契約書の内容に不備があった場合に、取り返しがつかないことになってしまう可能性があります。

信託契約書を作るきっかけには、親が認知症になっても子どもが財産を管理して、安心して暮らしていく仕組みにしたいなど何かしらの目的があるはずです。
そうであるならば、その願いをしっかりと実現できるように、専門家を頼る方がベターだと思います。

実際に、私が所属する事務所に相談に来たトラブル事例を2つ紹介します。

1つ目は、信託契約を実行するために、不動産登記の名義が所有者である親から、受託者である子どもの名義に変わることをしっかりと説明していなかったケースです。親が銀行に行って手続きを申し出たときに、「この状態だと手続きができない、なぜなら不動産の名義は子どもに変わっているためです」と言われて問題になりました。
これは、信託契約の内容のことではありませんが、信託契約に関連して行う手続きについてしっかりと理解をしないまま、手続きを進めてしまったために生じたと考えられます。

2つ目は、相続争いにつながる恐れのある承継となっていたケースです。
親は関西の方に住んでおり、次男が同居をし、大家業を営んでいました。そして、長男は東京に暮らしているという家族構成でした。

親の認知症対策のために家族信託契約を結んでいました。しかし、財産権(受益権)の承継を見ると、長男が承継することになっていて、次男が承継をしない記載になっていました。再度、要望を聞いてみると、兄弟2人で承継することを望んでいました。

どうやら、契約書ひな形に名前を当てはめただけで、内容を理解していなかったようです。しかし、もしも親が亡くなったときにはその内容通り、長男が承継をし次男には承継されないということになり、兄弟間で争いの火種が起こっていたと思うとぞっとします。

家族信託は、2007年に信託法が改正されてできるようになってから、まだ13年ほどしか経っておらず、明確になっていないルールもある制度です。そのため、専門家でさえ、断言できないところもあります。明確になっている部分となっていない部分とを理解して、契約書を作っていくことが必要になります。

家族信託は、家族間で長く続く契約です。そのため、契約書を作ったときの内容が、その後もの長い間ずっと影響してきます。将来のトラブルを避けるためにも、頼れる専門家に協力してもらったほうがベターだと感じています。

(記事は2020年6月1日現在の情報に基づきます)

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