家族信託の契約書、ひな型に頼っていい? トラブルを避けるための書き方や注意点を解説
家族信託での対策は契約書を作成する必要があります。家族の状況や家族信託する目的などによって契約書の内容は変わります。あとから親族間のトラブルになる事態を避けるためにも、専門家に作成してもらうと安心です。ネットで検索してみると、契約書のひな型がいくつか出てきますが、参考程度にすることを強くお勧めしています。今回は、信託契約書を作成する場合のポイントや注意点についてお伝えをしていきます。
家族信託での対策は契約書を作成する必要があります。家族の状況や家族信託する目的などによって契約書の内容は変わります。あとから親族間のトラブルになる事態を避けるためにも、専門家に作成してもらうと安心です。ネットで検索してみると、契約書のひな型がいくつか出てきますが、参考程度にすることを強くお勧めしています。今回は、信託契約書を作成する場合のポイントや注意点についてお伝えをしていきます。
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家族信託の契約書を作成するのに特別な資格は必要はありません。自分でも作成することができます。
しかし、家族信託の契約書は非常に複雑です。家族構成や資産についてはもちろんのこと、あとあとの親族間のトラブルを想定して作成する必要があります。安心して対策するためにも、家族信託に詳しい弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に契約書の作成を依頼することをおすすめします。
実際の家族信託契約書の作成は専門家に依頼する場合でも、契約書に盛り込むべき内容などについては、家族信託を利用するにあたって理解しておくと安心です。
家族信託契約書の作成の中で、以下の項目については専門家に相談しながら、家族で決めて、盛込んでいくことが必要になります。
それぞれ説明していきます。
まずは、家族信託をする趣旨や目的です。たとえば、以下のようなものが挙げられるでしょう。
これらのうち一つを選択しなければいけないわけではなく、複数であることも可能です。目的により、契約書に盛り込むべき内容も変わってきます。
次に、信託する財産です。信託契約書に記載のない財産は、受託者が管理・処分することができません。
とくに注意しておきたいのが、不動産を信託財産とする場合です。不動産の固定資産税や修繕費・管理費などについては受託者に請求が来ます。金銭も信託財産としておかないと、いざ出費する際に、受託者の負担で対応する危険性が出てきます。そのため、不動産を信託財産とする場合には、併せて不動産管理費用として金銭も、信託財産としておくと良いでしょう。
家族信託では、財産を信託する「委託者」、その財産の管理運用を任される「受託者」、その財産から発生した利益を受ける「受益者」の3人が主な登場人物です。契約書には3者をそれぞれを記載する必要があります。また、信託監督人や受益者代理人をつける場合には、それらの記載もしておく必要があります。
財産を管理する受託者が、具体的にどこまで管理・処分をすることができるのか、契約書に定めておく必要があります。
不動産であれば、通常の管理以外に、売買や担保の設定までおこなえるのかなどをあらかじめ定めておくことで、のちのちのトラブルを回避することができます。
いつまで財産を信託しておくのか、終了事由も定めておきましょう。「受益者の死亡」「受益者と受託者との合意」などがあります。複数記載することも可能です。
個人的には、「受益者の死亡」により終了とすると、税務上の特例などが利用できない可能性もあるため、「受益者の死亡」は盛り込まず、「受益者と受託者との合意」を盛込むことをお勧めしています。
また、上記の他にも信託法にある終了事由が発生した時にも信託は終了します。
信託の終了事由が発生し、信託契約が終了した場合、誰が財産を取得するのかを定めておくことは非常に重要です。
帰属先の定めがない場合には、信託の終了事由が発生すると委託者または委託者の相続人が帰属先となり複雑化します。そのため、信託終了後の財産の帰属先は明確に定めておきましょう。
この他に、任意の項目として、下記のような項目があります。
これらは、あくまで一例で、相談者の方の要望や家族状況により、適切な契約事項を盛り込んでいきます。
ネット上にも、家族信託の契約書ひな形は出てきますが、鵜呑みにしてすすめるのは危険です。
たとえば、受益者代理人の項目がない契約書の場合、それだけで無効ということではないのですが、委託者兼受益者である親の判断能力が無くなると、信託契約の内容を変更したくても変更できなくなってしまいます。もしも、変更できる仕掛けにしておきたければ、あらかじめ受益者代理人を置いておくなど信託契約に工夫が必要です。
その他にも、財産権(受益権)を承継する受益者がいなくなってしまう可能性のある家族信託契約書も見かけましたが、万が一、受益者が存在しないとなると、受託者に課税が発生する危険性があります。
また、契約書の内容を理解していなかったとしても、署名押印した契約書は有効と判断されてしまうため、これによりトラブルになったとしても、自己責任になってしまいます。そのため、専門家が作ってきた契約書についても、鵜呑みにせず、しつこいぐらい内容を確認した方が良いと思います。そして、納得をした上で手続きを進めていくことをおすすめします。
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相続の相談が出来る司法書士を探す家族信託契約は公正証書で作ったほうが安心です。公正証書とは、全国各地にある公証役場で、公証人という法律の専門家が作成した法律文書になります。公正証書で作成した文書は公的な書面になるので、当事者同士で作成した私的な文書よりも、信用力が格段に上がります。
また、公正証書で作成をするメリットの1つは、公証人にも家族信託契約書についてチェックをしてもらえることです。法律的なチェックだけでなく、公正証書を作成するときには本人に内容を確認して進めるため、本人の意思で作成した文書と示せるようになります。
そのため、後から「本人に黙って勝手に契約書を作った」などのクレームを受けることを防ぐことができます。
なお、契約書の原本は公証役場に保管されるため、自分で保管をしていた契約書を失くしてしまったとしても、再発行を求めることができます。
契約書作成も含めて専門家に家族信託のサポートを依頼した場合、統一の報酬基準はありませんが、目的と財産の内容によっては、100万円を超えてくることもあります。しかし、必ずしも割高とはいえません。
家族信託は、契約書を作成しては終わりではなく、それがスタートになります。契約書の作成だけで終わるのではなく、今後も信託契約の手続きを進めていく上で、何か困ったことがあれば関わった専門家としては、自分が設計した家族信託の利用者と関係を維持できるよう連絡を取り合い、予想外の事態が生じた時にも連絡をもらい、今後も対応していくことが求められます。
家族信託は長期間にわたる契約なので、アフターフォローの期間も、何年も続く可能性があります。このようなアフターフォローのサポート費用も初めの報酬に含んでいると考えているからです。
専門家に頼めば、必ずしも安心というわけではありません。専門家の中にも、経験の少ない専門家もいるためです。信託契約締結後に、セカンドオピニオンの相談があった事例を2つ紹介します。
1つ目は、信託契約を実行するために、不動産登記の名義が所有者である親から、受託者である子どもの名義に変わることを専門家がしっかりと説明していなかったケースです。信託契約を締結し登記完了後に親が銀行に行ってリバースモーゲージの手続きを申し出たところ、「この状態だと手続きができない、なぜなら不動産の名義は親から子どもに変わっているためです」と言われて問題になりました。
これは、信託契約及び信託契約に関連して行う手続きについてしっかりと理解をしないまま、手続きを進めてしまったために生じたと考えられます。
2つ目は、相続争いにつながる恐れのある承継となっていたケースです。親は関西に住んでおり、次男が同居をし、不動産賃貸業を営んでいました。そして、長男は東京に暮らしているという家族構成でした。親の認知症対策のために家族信託契約を結んでいました。しかし、財産権(受益権)の承継を見ると、長男が承継することになっていて、次男が全く承継をしない記載になっていました。再度、要望を聞いてみると、兄弟2人で承継することを望んでいました。
どうやら、契約書ひな型に名前を当てはめただけで、内容を理解していなかったようです。しかし、もしも親が亡くなったときにはその内容通り、長男が承継をし次男には承継されないということになり、兄弟間で争いの火種が起こっていたと思うとぞっとします。
可能です。内容を変更することについて、契約書に定めることで受益者と受託者との合意で、契約内容を変更することができます。
家族信託の場合、必ずしも金銭を信託銀行に預ける必要はありませんが、のちのちのトラブルを避けるためにも、できれば信託銀行で信託口口座を作って預け入れ、自己の財産と分けて管理することを推奨します。
家族信託契約書が優先されます。なお、信託財産以外の財産については、遺言書で指定された通りに相続人に分配されることになります。
家族信託は、2007年に信託法が改正されてできるようになってから、まだ16年しか経っておらず、明確になっていないルールもある制度です。そのため、専門家でさえ、断言できないところもあります。明確になっている部分となっていない部分とを理解して、契約書を作っていくことが必要になります。
家族信託は、家族間で長く続く契約です。そのため、契約書を作ったときの内容が、その後も長い間ずっと影響してきます。将来のトラブルを避けるためにも、頼れる専門家に協力してもらったほうがベターだと言えるでしょう。
(記事は2023年6月1日時点の情報に基づいています)
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