家族信託の契約書だけでは、預貯金を移せない。必要な手段は?
家族信託のコンサルタントとして実績がある宮田浩志司法書士が、初めて家族信託を考える読者にも分かりやすく制度について解説します。今回のテーマは、預貯金の信託です。
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家族信託の際、契約書の一部をなす信託財産目録に、「○○銀行○○支店 口座番号 ×××の普通預金及び定期預金」や「○○銀行○○支店に対する一切の預金債権」と記載された信託契約書を見かけます。
結論からいうと、このような記載は実務上正しいとは言えません。家族信託の実務・金融実務に精通していない法律専門家が関与して作成した信託契約書には、実務上使えない契約条項が盛り込まれることがあります。
そもそも金融機関に預けているお金は、法律上「現金」ではなく、「預貯金債権」という財産になります。そして、この債権は、各金融機関が定める規定や約款で「譲渡禁止特約」が付いています。金融機関の承諾がなければ、預金名義人以外の財産として取り扱うこと(受託者への信託による譲渡も含め)はできません。
つまり、信託契約書に冒頭のような預金口座・預金債権を信託財産とする旨を記載しても、その契約書を金融機関の窓口に持ち込んで、口座の名義人を受託者に変える名義変更や受託者名義の信託専用口座への送金手続きはできません。
日本の金融機関は相続の場合も含め、口座番号をそのままにして、名義を別の人に変更することはできません。従って、親(委託者)名義の口座番号を維持したまま、「信託」を契機に名義だけを変更して受託者が引き継ぐことは事実上不可能なのです。
それを踏まえると、信託契約書の信託財産目録に記載すべき金銭としての資産は、「現金 金○○円」と記載するのが正解です。
つまり、どの預金口座からお金を移そうが、複数の口座からお金をかき集めようが、信託財産である現金の出どころは実務上問題になりません。信託財産として現金をいくら受託者に移動させるかがポイントになります。
なお、信託契約を交わしても、受託者が自動的に親の預貯金口座から自由に下ろせるようにはならないことに注意すべきです。
家族信託の実務としては、信託契約公正証書の作成後、それだけで安心せず、なるべく早く親子で銀行窓口に行き、親の口座から受託者たる子の管理する信託専用の口座に、信託目録記載の現金額を実際に移動させること(送金や預入れ)を忘れないでください。
(記事は2020年2月1日時点の情報に基づいています)
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