相続税が高い……抜け道はあるか? 相続税対策のメリット・デメリット
高い相続税を考えると気が重くなるものです。「抜け道はないか」と考えるのも無理はありませんが、残念ながら抜け道はありません。下手にすり抜けようとすると痛い目にあうこともあります。安易な相続税対策のリスクを、元国税専門官のライターが解説します。
高い相続税を考えると気が重くなるものです。「抜け道はないか」と考えるのも無理はありませんが、残念ながら抜け道はありません。下手にすり抜けようとすると痛い目にあうこともあります。安易な相続税対策のリスクを、元国税専門官のライターが解説します。
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相続税の負担が重いと言われる理由は複数あります。まずは税率の問題です。
相続税の税率は10%〜55%の範囲で、法定相続分に応じた各相続人の取得金額によって決まります。簡単に言えば、相続財産が多いほど、そして法定相続人の数が少ないほど税率は高くなる仕組みです。
例えば法定相続人が子1人として、2億円の相続財産があったとすると、相続税額は4860万円に上ります。相続財産の約4分の1が相続税として失われる計算ですから、重い税負担であることは間違いありません。
「相続税は現金一括納付が原則」という点も負担感を高める要因です。相続税の納期限は相続開始日(通常は被相続人の死亡日)の翌日から10か月以内です。この期限に遅れると延滞税というペナルティが課せられます。
二次相続以降は、さらに相続税の負担が重くなりがちです。たとえば夫が死亡して妻子が残された場合(一次相続)、配偶者の税額軽減などの特例を使って税負担を抑えられます。しかし、この妻が死亡した場合(二次相続)、使える特例が限られるため税負担が重くなってしまうのです。
相続税の負担を少しでも減らすためにはいくつかの方法が考えられます。以下に挙げたのは相続税対策として思いつきやすい方法ですが、期待する節税効果を得られるとは限りません。
相続税対策としてもっともオーソドックスな方法は、子や孫などに年間110万円以内の生前贈与をするというものです。
1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に応じて課税される暦年課税の場合、年間110万円の基礎控除が適用されます。したがって、贈与額を年間110万円以内に収めれば贈与税はかかりません。この仕組みを利用することで、効果的に相続税を下げることができます。
例えば子2人に毎年110万円ずつ10年間にわたって生前贈与をすれば、計2200万円の財産が親から子に移転します。その後相続が発生したときは、この2200万円はすでに被相続人のものではないので相続税はかかりません。
ただし、相続開始前3年以内に行われた生前贈与は相続税の対象になる点に注意が必要です。相続が近いからといって慌てて生前贈与をしても節税効果は得られません。
また、生前贈与を行うときには証拠を残し「定期贈与」と判断されないように配慮しなくてはいけません。これらの注意事項については以下の記事を参考にしてください。
相続税の基礎控除額や死亡保険金・死亡退職金の非課税枠は、法定相続人の数と比例して増えます。そのため、生前に孫などと養子縁組をすることで結果的に相続税が少なくなることはあり得ます。
ただし法定相続人に加えられる養子は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までという制限がある点に注意が必要です。また、相続税対策のためだけに養子縁組をしたと税務調査などで判断された場合、養子を法定相続人として数えずに相続税が計算されます。こうなると、養子縁組をしても相続税の節税効果を得ることができません。
「2割加算」というルールもネックです。「配偶者、父母、子」ではない人が相続財産を取得すると、その人にかかる相続税額が2割加算されます。孫を養子にしたとしても、その孫にかかる相続税は割高になってしまうのです。
名義預金とは口座の名義人と実際にお金を出した人が違う預金のことです。相続税の対象になるのは亡くなった被相続人の財産です。そのため「家族名義の口座に預金を移せば相続税がかからないのでは」と思われるかもしれません。しかし、実質的に被相続人の財産と判断される場合は「名義預金」として相続税がかかります。名義預金の注意点については、以下の記事をご確認ください。
被相続人を被保険者とする死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の対象になりますが、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠が設けられています。
気をつけたいのは、保険は契約者と被保険者、受取人の組み合わせによって税金の扱いが変わるという点です。被相続人が被保険者ではない保険の場合、相続税の非課税枠は適用されません。また、相続税ではなく所得税や贈与税がかかる可能性もあるので注意が必要です。
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相続の相談が出来る税理士を探す相続税の負担を避けるためにあえて申告をしなかったり、少なく申告をしたりすることを考える人もいるでしょう。しかしこれは極めてリスクの高い方法です。
税務署は亡くなった人の過去の収入や所有不動産などの情報から、相続税の申告が必要と見込まれる人を把握しています。相続税の申告が必要なのに申告をしていない、あるいは想定される相続財産よりも少なく申告をしているという状況を把握すれば、税務調査が行われます。
税務調査の結果、正しい内容で相続税の申告をしていなかったことが明らかになると、追徴税の対象になります。先ほど、納税が遅れた場合に延滞税がかかるという説明をしましたが、他にも追徴税は存在します。
まず申告期限までに申告をしなかった場合に課されるのが「無申告加算税」です。期限内に相続税の申告をしたとしても、税務調査等により申告漏れを把握された場合は「過少申告加算税」がかかります。
さらに意図的に相続財産を隠すなどの仮装隠蔽行為が認められたら、「重加算税」というもっとも重いペナルティが課せられます。重加算税がかかるような悪質なケースは、最悪の場合は刑事事件として告訴されることもあり得ます。件数としては決して多くないものの、相続税の申告状況によって告発の可能性があることは認識しておきましょう。
相続税の負担を抑えるのは簡単なことではありません。しかし配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった節税効果の高い制度もあるため、法律にのっとって対策をすれば税負担を抑えることができます。
安易な抜け道を考えるよりも合法的な対策を考えるほうが無難です。相続税に強い税理士のサポートを受けながら税負担に備えましょう。
相続にまつわる問題は相続税にとどまりません。遺産分割協議をどのように進めるのか、相続財産をどう活用するのかなど問題は多岐にわたるため、早めに対策することが大切です。
(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)
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