相続税は2次相続が要注意 1次相続から将来を見据えた対策を
夫婦のどちらかが亡くなると、配偶者控除を使って、残された配偶者の相続税を軽減できます。ただ、配偶者控除を使って大幅に相続税を節税すると、次の2次相続で子どもらの税負担が大きくなる可能性があります。2次相続を見据えた相続税対策やシミュレーションを、元国税専門官のライターが解説します。
夫婦のどちらかが亡くなると、配偶者控除を使って、残された配偶者の相続税を軽減できます。ただ、配偶者控除を使って大幅に相続税を節税すると、次の2次相続で子どもらの税負担が大きくなる可能性があります。2次相続を見据えた相続税対策やシミュレーションを、元国税専門官のライターが解説します。
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相続の問題は、父親、母親の死亡にともない2度経験するのが一般的です。このうち最初の相続を1次相続、2度めの相続を2次相続といいます。相続税のことを考えたとき、初めて経験する1次相続に意識が向きがちですが、実は2次相続のほうが税負担が重くなるケースがあります。
たとえば、配偶者が相続した財産について、相続税の軽減効果の高い「配偶者控除」を受けることができますが、これは基本的に1次相続のときにしか使えません。1次相続の後に配偶者が再婚する稀なケースは例外ですが、通常は2次相続になると配偶者控除なしで相続税を計算する必要があるのです。
また、同じく相続税を軽減する特例である「小規模宅地等の特例」についても、2次相続では条件が厳しくなります。相続の直前に被相続人が居住に使っていた宅地等は、誰が相続するかによって特例の条件が違い、配偶者が相続した場合は特段の条件はないのですが、その他の親族が相続する場合は、相続人の居住状況や、持ち家の有無などが条件に加わります。つまり、1次相続で配偶者が相続するときに小規模宅地等の特例が使えたとしても、2次相続で同じように特例が使えるとは限りません。
これら2つの特例に加え、2次相続では、課税価格から差し引ける「基礎控除額」が少なくなることも考慮する必要があります。基礎控除額は法定相続人1人あたり600万円が加算されるため、仮に同じ金額の相続財産を相続したとしても、1次相続よりも法定相続人が少なくなる2次相続のほうが税額が高くなるのです。
さらに、遺産分割がスムーズに進まないリスクも考えられます。2次相続のときは通常、被相続人の子ども同士で遺産分割を決めることになりますから、1次相続のときは親主導でスムーズに遺産分割協議がまとまったとしても、2次相続で同様に進むとは限りません。遺産分割協議がまとまらないと、そもそも小規模宅地等の特例を使うことができませんから、この点も2次相続のリスクとして考慮しておきたいところです。
ここまでに説明したような2次相続特有の問題に備えるには、1次相続の段階で、2次相続まで見据えた戦略を立てることが大切です。とくに、1次相続で配偶者控除を利用するときは慎重に考える必要があります。
配偶者控除は「1億6千万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のうち、いずれか多い金額までの相続には相続税が発生しないという特例です。したがって、極端に言えば、被相続人が残した財産が1億6千万円までなら、全額を配偶者が相続すれば相続税がかかりません。しかし、このように配偶者控除を最大限活用すると、2次相続も含めたトータルの税額が重くなるおそれがあります。そのことをシミュレーションで比較してみましょう。
以下の表は、1次相続と2次相続の税額を、財産の分け方によって比較したものです。本来は、1次相続と2次相続との間に配偶者の生活費などで財産が減るものですが、簡単にシミュレーションするため、1次相続で取得した財産を2次相続のときまで取っておいたと仮定して計算しています。
【1次相続で配偶者が全額相続した場合】
【1次相続で配偶者と子で半分ずつ相続した場合】
このように比較すると、1次相続のときは配偶者控除を最大限活用して税負担を抑えられたとしても、2次相続までのトータルで考えると負担が重たくなることがお分かりいただけたでしょうか。1次相続だけを考えて相続税対策をするよりも、2次相続も踏まえて対策を考えるほうが効果的です。
次に、1次相続、2次相続で共通してできる相続税対策について説明します。相続税対策は時間をかけて行うと効果が高まりますので、1次相続、2次相続のそれぞれで対策を取ると、より効果的に税額を抑えることができます。
相続税対策の王道としてまず挙げられるのが、生前贈与の活用です。相続が発生する前に、将来相続人になる人に生前贈与をしておけば、相続税の対象となる財産を減らすことができます。ただし、生前贈与には贈与税がかかるため、贈与税のルールも理解しておくことが大切です。たとえば暦年課税で使える年間110万円の非課税枠を使って、毎年贈与をすると、贈与税を抑えながら財産を相続人に移転し、相続税の節税につなげることができます。また、1次相続対策に限定されますが、婚姻期間20年以上の夫婦間贈与に使える贈与税の配偶者控除も活用したい特例です。
次に、死亡保険金に適用される、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠の活用も考えてみましょう。たとえば、1次相続の法定相続人が3人、2次相続の法定相続人2人と仮定すると、1次相続のときに1500万円、2次相続のときに1000万円の非課税枠があります。したがって、1次相続、2次相続でともに子どもを死亡保険金の受取人に設定しておけば、合計で2500万円の財産を、親世代から子世代に無税で引き継ぐことができます。
先ほど触れた小規模宅地等の特例についても、できる限り、1次相続、2次相続のときにそれぞれ活用できるようにしておきましょう。1次相続のときは配偶者が相続し、2次相続のときに取得者としての要件を満たす親族が相続すると、特例を2度にわたり利用することができます。配偶者ではない親族が相続するときは、取得者ごとの要件を満たす必要がありますので、詳しくは本記事の末尾で紹介する記事を参照してください。
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相続の相談が出来る税理士を探すここまでに解説した2次相続対策をまとめると、ポイントは2つに分けられます。1つめは2次相続が起きるまでに、できるだけ財産を被相続人から相続人に移転しておくこと。その際は贈与税を考慮する必要があります。そして2つめは、2次相続が起きた後に、小規模宅地等の特例や死亡保険金の活用といった相続税対策を使える状態を整えておくことです。
逆に避けたいのは、1次相続のことだけを考えた対策です。配偶者が相続する財産には手厚い特例が設けられていますが、これを使いすぎると2次相続の税負担が重くなることは本記事で説明したとおりです。2次相続の相続税額が重くなると相続人に残る財産が少なくなり、遺産分割協議がまとまりにくくなるおそれもあります。
今回の記事では、2次相続も踏まえた対策について、基本的なポイントを説明しましたが、現実に当てはめてシミュレーションを行うのは簡単なことではありません。1次相続と2次相続の間で起きる、財産の減り具合や財産価値の変動、税法の変更など、不確実な要素が絡みます。相続税に詳しいスペシャリストの税理士に相談するなどし、慎重に対策を考えるようにしましょう。
(記事は2020年12月1日時点の情報に基づいています)
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