目次

  1. 1. 暦年課税制度の生前贈与加算とは
    1. 1-1. 暦年課税制度の贈与は年間110万円以下なら相続税はかからない
    2. 1-2. 死亡日前3年間に行われた暦年贈与は相続税の対象になる
    3. 1-3. 生前贈与加算の目的は「死亡直前の相続税逃れ」の防止
  2. 2. 生前贈与加算の対象となる人、ならない人
    1. 2-1. 生前贈与加算の対象となる人
    2. 2-2. 生前贈与加算の対象とならない人
  3. 3. 死亡日前3年間の贈与でも加算されない贈与とは
    1. 3-1. 贈与税の配偶者控除
    2. 3-2. 結婚・子育て資金の一括贈与
    3. 3-3. 教育資金の一括贈与
    4. 3-4. 住宅取得等資金の贈与
  4. 4. 孫への贈与は有利? パターン別で見てみよう
    1. 4-1. 孫が相続や遺贈で財産を一切受け取っていない場合
    2. 4-2. 孫が遺言で財産を取得した場合
    3. 4-3. 孫が代襲相続人となって財産を取得した場合
    4. 4-4. 孫を養子とした場合
    5. 4-5. 孫が相続時精算課税制度で5年前に現金をもらっていた場合
  5. 5. まとめ 生前贈与は若くて健康なうちからコツコツと

死亡日前3年間の贈与は相続財産に加算されます。ここでは、そのポイントを見ていきましょう。

暦年贈与制度による生前贈与を行った場合、1月1日から12月31日までの1年間でもらった財産の額が贈与税の基礎控除額である110万円以下の場合、贈与税は課税されません。

110万円を超えるケースでは、その超えた部分に対して贈与税が課されることとなります。これらの生前贈与が成立した場合、すでにその時点で所有権は受贈者へ移っていると考えられるため、将来、贈与者が亡くなった場合でも、原則として贈与者の相続財産には含まれません。

贈与を受けた日から3年以内に贈与者が亡くなってしまった場合には、その生前贈与はなかったものとみなされるため、相続財産に加算され、相続税の課税対象となります。これを「生前贈与加算」といいます。

たとえば贈与者が2021年8月20日に死亡した場合、その3年前である2018年8月20日から死亡日までの間に行われた贈与が生前贈与加算の対象となります。

なお、生前贈与加算によって相続財産に加算すべき金額は、相続時の時価ではなく、贈与時の時価である点にも注意が必要です。

また生前贈与加算において、贈与時にすでに納めた贈与税額がある場合には、二重課税防止の観点から、その贈与税額を相続税から控除することができます。

生前贈与加算によって、死亡日前3年以内の贈与は相続税の計算上、無効となります。その理由としては、亡くなる直前で“相続税逃れ”のためだけに行われる、駆け込みでの贈与を防止するためです。

生前贈与加算の対象は3年から7年に延長へ

2023年度の税制改正大綱では相続に関連する課税ルールの大きな見直しがあり、生前贈与加算の対象を死亡日前3年間から7年間に延長することが決まりました。2024年1月1日以降の贈与から適用されます。

【関連】生前贈与は亡くなる7年前まで相続税対象に 実質増税への対応策も解説

死亡直前の贈与でもそのすべてが生前贈与加算の対象とは限りません。受贈者によって適用の要否は分かれることとなります。ここでは、生前贈与加算の対象となる人、ならない人について解説していきます。

生前贈与加算の対象となるのは、以下3つのいずれかのケースに該当する人です。

  • 相続や遺贈により財産を取得した人
  • みなし相続財産の受取人
  • 相続時精算課税制度の適用者

・相続や遺贈により財産を取得した人
生前贈与加算の対象者は法定相続人か否かではなく、「実際に相続や遺贈によって何らかの財産を取得したかどうか」によって判断されます。したがって、法定相続人でも相続放棄などの理由により財産を取得しない場合には、生前贈与加算は不要となります。また、相続人ではない孫でも遺言によって何らかの財産を遺贈された場合には、生前贈与加算の対象となります。

・みなし相続財産の受取人
先述した「相続や遺贈により財産を取得した人」には、みなし相続財産の受取人も含まれます。みなし相続財産とは、生命保険金や死亡退職金など、民法上の相続財産ではないものの、相続税の対象となる財産を指します。したがって遺産分割や遺言によって財産を取得しなかった場合でも、みなし相続財産の受取人となっているケースでは、その人物が死亡日前3年以内に贈与を受けた財産については生前贈与加算の対象となります。

・相続時精算課税制度の適用者
相続時精算課税制度とは、贈与財産の種類にかかわらず、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について、累計で2,500万円まで贈与税が非課税となる制度です。

この制度の適用を受けて贈与した財産については、死亡日前3年以内かどうかにかかわらず、何十年前の贈与であろうと相続発生時には必ず相続財産に加算しなければなりません。注意が必要なのは、相続時精算課税制度により贈与を受けた人は、相続発生後に財産を取得しなかった場合でも、死亡日前3年以内の贈与があれば生前贈与加算の対象となる点です。

たとえば、相続開始の2年前に暦年贈与によって100万円の贈与を受け、その後、相続開始の1年前に相続時精算課税によって2,500万円の贈与を受けるようなケースが想定されます。このようなケースでは、相続時精算課税制度の適用を受けた2,500万円はもちろんのこと、死亡日前3年以内の贈与として、2年前に贈与を受けた100万円も生前贈与加算の対象となるため、合計で2,500万円+100万円=2,600万円を相続財産に加算する必要があります。

相続時精算課税制度に110万円の基礎控除新設

2024年から相続時精算課税制度に、110万円の基礎控除が設けられました。累計2500万円の特別控除とは別に、年間110万円以内なら非課税で申告不要となります。また、この110万円の非課税枠は死亡直前でも相続財産への加算対象とはなりません。

【関連】相続時精算課税制度とは?【改正内容を図解】年110万円非課税 2500万円まで贈与税もかからない

先述のとおり、法定相続人でも相続や遺贈によって財産を取得しなかった場合には、死亡日前3年以内に贈与を受けていたとしても生前贈与加算の対象とはなりません。

したがって暦年贈与によってのみ財産を取得した孫や子の配偶者、相続放棄によって一切財産を取得しなかった法定相続人のうち、みなし相続財産の受取人や相続時精算課税制度の適用者に該当しない人は、生前贈与加算の対象から外れます。

以下のいずれかの贈与税の特例制度を適用した部分には、死亡日前3年以内の贈与であっても、生前贈与加算の対象とはなりません。

婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産や居住用不動産を取得するための資金を贈与した場合については、最大で2,000万円が非課税となる制度です。

父母や祖父母などの直系尊属から、18歳以上50歳未満の子や孫に対し、金融機関等との一定の契約に基づいて、結婚や子育て資金として一括贈与を行った場合には、最大1,000万円が非課税となる制度です。

父母や祖父母などの直系尊属から、30歳未満の子や孫に対し、金融機関等との一定の契約に基づいて、教育資金として一括贈与を行った場合には、最大1,500万円が非課税となる制度です。

省エネや耐震基準など、一定の要件を満たす居住用不動産を取得するために、父母や祖父母などの直系尊属から購入資金の贈与を受けた場合において、最大で1,000万円が非課税となる制度です。

2023年度の税制改正大綱では、結婚・子育て資金の一括贈与の制度は2年間延長が決まり、2025年3月末までとなりました。また、教育資金一括贈与の制度は3年間延長が決まり、2026年3月末までとなりました。住宅取得等資金の贈与については延長はなく、2023年12月末までです。

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インターネットなどでは「孫への生前贈与は有利」という情報が散見されますが、孫への贈与は、常に生前贈与加算の対象から外れるとは限らないため注意が必要です。以下では事例ごとに生前贈与加算の要否を解説します。主に孫が死亡日前3年以内に贈与を受けたケースで考えていきましょう。

孫が相続や遺贈によって財産を取得しない場合には、生前贈与加算の対象外となります。ただし、先述のとおり、孫がみなし相続財産の受取人になっている場合や相続時精算課税制度の適用者である場合には、生前贈与加算の対象となります。

なお相続人でない孫が生命保険金の受取人となっているケースでは、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の適用対象外となってしまいますので、併せてご注意ください。

孫が遺言によって財産を取得するケースでは、「遺贈によって財産を取得した場合」に該当するため、死亡日前3年以内の贈与があれば生前贈与加算の対象となります。

孫が代襲相続によって財産を取得したケースについても、先述した「相続によって財産を取得した場合」に該当するため、死亡日前3年以内の贈与については生前贈与加算の対象となります。

なお代襲相続とは、本来相続人となる人物がすでに死亡しているなどの理由によって相続できない場合に、その人の子どもが代わりに相続する制度をいいます。つまり被相続人の子がすでに死亡している場合には、孫が代襲相続人として相続権を引き継ぎます。つまり孫が代襲相続人として相続する場合には、法定相続人が相続によって財産を取得することと同義であるため、生前贈与加算の対象となるのです。

相続税対策のひとつとして、養子縁組によって孫を養子として迎える場合があります。このような場合には、孫は法定相続人のひとりとなるため、相続によって何らかの財産を取得する場合、死亡日前3年以内の贈与については生前贈与加算の対象となります。

この場合においては、養子縁組の後だけではなく養子縁組前の期間であっても、3年以内に受けた贈与があれば生前贈与加算の対象となりますのでご注意ください。

相続時精算課税制度によって贈与を受けた財産については、その贈与が何十年前のものであろうと1年前のものであろうと、必ず相続発生時には相続財産に加算しなければなりません。

したがってこのケースでは、5年前の現金に加え、3年以内に受けた贈与についても、相続財産に加算する必要があります。結果として納税額は変わりませんが、生前贈与加算としてではなく相続時精算課税として手続きします。

生前贈与加算のリスクを確実に回避するためには、死期が迫って慌てて財産を贈与するのではなく、若く健康なうちからコツコツと計画的に贈与を行うことがもっと重要です。

生前贈与では現預金を贈与する事例が一般的ですが、亡くなる直前に急いで資金移動するケースも多いことから、申告ミスが起こりやすいものとなっています。実際に相続税に関する税務調査では、申告漏れとなっていた相続財産のうち、最も金額の大きなものが現預金となっており、税務調査では相続発生前の現預金の動きは特に注視されます。

もちろん、税理士側も生前贈与加算の申告漏れが無いように徹底して確認作業を行いますが、税理士へ相続申告手続きを依頼する際には、依頼者側からも過去の生前贈与の状況については、積極的に共有してください。申告手続きに必要な情報であるかは税理士側に判断してもらえばよいので、少しでも関連がありそうな情報については必ず伝え、申告ミスを防いでいただければと思います。

(記事は2023年1月1日時点の情報に基づいています)