目次

  1. 1. 「婿」と「婿養子」の違いとは?
  2. 2. 婿養子は、妻の実家と自分の実家の両方を相続できる
  3. 3. (婿)養子と実子の関係
  4. 4. 婿養子の相続の具体例
    1. 4-1. 養親(妻の父親または母親)が亡くなった場合
    2. 4-2. 実の父親が亡くなった場合
  5. 5. 妻と離婚した場合の相続関係
  6. 6. 婿養子が相続できないケース
    1. 6-1. 離縁をした場合
    2. 6-2. 妻の親が、婿養子以外の者に相続または遺贈する遺言を書いていた場合
  7. 7. 婿養子と相続税
  8. 8. まとめ

「婿」とは、婚姻届の「婚姻後の夫婦の氏」という欄において、「妻の氏」を選び、妻の氏を名乗ることを選んだ男性を指します。一方、「婿養子」とは、妻の親と養子縁組をし、妻と結婚して妻の氏となった男性(養子縁組と婚姻の前後は問いません)を指します。つまり、「婿」と「婿養子」の違いは、妻の親と「養子縁組」をしているかどうかにあります。

養子縁組をするには、養子縁組届を役所に届け出る必要があります。その届出により、妻の親との間で法律上の親子関係が生じ、妻の親の相続人となります。

上述のように、婿養子には妻の親との間で法律上の親子関係が生じますが、実の親との法律上の親子関係もそのまま存続します。そのため、婿養子は、妻の親及び実の親の両方の子として、両家の相続人となります。

なお、妻の親として妻の父と母がいる場合、婿養子が両者との関係で親子関係を生じさせるには、父と母の両者との間で養子縁組をする必要があります。つまり、婿養子が妻の父または母の一方としか養子縁組をしなかった場合には、その一方の者との関係でのみ親子関係が生じ、他方の者との関係では親子関係は生じません。通常の婿養子であれば、妻の父と母と養子縁組をするため、本稿においてもそれを前提にして、以下説明していきます。

また、婿養子の相続分は、実子(妻及びその兄弟姉妹)の相続分と同じです。婿養子は、養子縁組により、妻及びその兄弟姉妹と同じく、妻の親の法律上の子として扱われるからです。

養親に実子(今回の婿養子の例においては、妻とその兄弟姉妹)がいるうえで養子縁組がなされた場合には、養親の実子と養子は兄弟姉妹関係になります。つまり、養子は、①養親の実子との間で兄弟姉妹関係が生じ、養子に実の兄弟姉妹もいる場合には、②その実の兄弟姉妹との間でも兄弟姉妹関係が存続するということになります。

では、養親側の実子と養子の実の兄弟姉妹の間に、養子を通じて兄弟姉妹関係が生じるのでは? と思う人もいるかもしれません。しかし、養子縁組は、養親側に養子だけを取り込む制度なので、養親側の実子と養子の実の兄弟姉妹は兄弟姉妹関係にはなりません。

養子になった家の妻のきょうだいと養子は、きょうだい関係になります。妻のきょうだいと養子の実のきょうだいが互いにきょうだいになるわけではありません

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養親(妻の父親または母親)が亡くなった場合、相続人となるのは、その養親の配偶者、妻、妻の兄弟姉妹、婿養子となります。

具体的な相続分は、妻の兄弟姉妹が妻を含めて2人の場合、養親の配偶者が2分の1、その残りを妻、その兄弟姉妹、婿養子の3人で等分して各6分の1となります。つまり、婿養子と妻は、合計するともともとの妻だけの相続分(4分の1)より多い計3分の1を取得できることになります。一方で、妻の兄弟姉妹はもともとの相続分(4分の1)より少ない6分の1しか取得できなくなり、妻の兄弟姉妹が不満をもつことも少なくありません。

養親が亡くなった場合、養子も相続人になる

実の父親が亡くなった場合、相続人となるのは、実の母親、自分、自分の兄弟姉妹となります。具体的な相続分は、自分の兄弟姉妹が自分を含めて2人の場合、実の母親が2分の1、その残りを自分とその兄弟姉妹の2人で等分して各4分の1となります。養子縁組をしても、養子の実の親子関係に変動はなく、各自の相続分にも影響はありません。

養子になったとしても、実の親が亡くなった場合にも相続はできる

妻と離婚した場合、解消されるのは夫婦関係であり、妻の親との養子縁組による親子関係は解消されません。妻の親との養子縁組を解消するには、離婚とは別に、離縁をする必要があり、婿養子はこれをしない限り妻の親の相続権を失いません。

婿養子が、妻の実家に関する相続において相続人にならない場合は、主に以下のとおりです。

上述のように、離縁によって、法律上の親子関係は終了します。そのため、それ以後、妻の父と母に相続が生じたとしても、婿養子は妻の父と母の財産を相続することはできません。

ただし、この場合にも、婿養子も実子と同様に遺留分を有しているので、遺留分を侵害されている限りでその請求をすることができます。

相続税算定のためには、課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を算出します。

基礎控除額は、(3000万円+600万円×法定相続人の数)で算出されます。そのため、法定相続人の数が多いほど、基礎控除額が増え、課税される遺産の総額が減り、養子縁組を複数行い法定相続人の数を増やすことで遺産の総額を減らすことができるようにも思えます。

しかし、相続税法上、基礎控除額算定のために法定相続人の数に含めることができる養子の数は以下のように制限されており、基礎控除額を増やし、相続税を減額するためいたずらに養子縁組制度が使用されることを抑止しています。

  1. 被相続人に実子がいる場合……1人まで
  2. 被相続人に実子がいない場合……2人まで

婿養子は、妻とその兄弟姉妹とともに、妻の父と母の相続をすることになります。そのため、妻の父と母の遺産分割協議が行われる場合には、妻とその兄弟姉妹とともに協議を行う必要があります。

養子縁組は、婿養子(と妻)と妻の父と母との間で、妻の兄弟姉妹の意思に関係なく行われるもので、それにより妻の兄弟姉妹の相続分にも大きな影響を及ぼします。そのため、婿養子と妻、妻の兄弟姉妹間の話し合いがスムーズにいかないということが多々あります。そのような場合には、まず法律の専門家である弁護士に相談したほうが良いでしょう。

(記事は2021年11月1日時点の情報に基づいています)