目次

  1. 1. 養子縁組の種類によって実親の遺産を相続できるかどうかが変わる
  2. 2. 普通養子縁組なら実親の遺産を相続できる
    1. 2-1. 普通養子縁組とは
    2. 2-2. 普通養子縁組の要件
    3. 2-3. 普通養子縁組の手続き
    4. 2-4. 普通養子縁組の場合、実親の遺産を相続できる
    5. 2-5. 普通養子縁組の相続の具体例
    6. 2-6. 普通養子縁組に回数制限はない
  3. 3. 特別養子縁組なら実親の遺産を相続できない
    1. 3-1. 特別養子縁組とは
    2. 3-2. 特別養子縁組の要件
    3. 3-3. 特別養子縁組の申し立て
    4. 3-4. 特別養子縁組の申立てにかかる費用
    5. 3-5. 特別養子縁組の場合、実親の遺産を相続できない
    6. 3-6. 特別養子縁組の相続の具体例
  4. 4. まとめ

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養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類があります。どちらの養子縁組であるかによって実親(生みの親・実の親のこと)の遺産を相続できるかどうかが変わります。

一般的には、普通養子縁組が利用されることが多いため、まずは、普通養子縁組の場合の相続について説明します。

普通養子縁組とは、養子について、実親との法律上の親子関係を維持したまま、養親との間で新たに法律上の親子関係を生じさせることです。後で説明する特別養子縁組と区別する意味で、普通養子縁組と呼ばれています。実子がいない場合に姪(めい)や甥(おい)を養子にするケースや、後継者のいない中小企業の経営者が従業員を養子にするケースなどがあります。

主要な要件をピックアップすると下記の通りです。

  • 養親は20歳に達していること(民法792条)。
  • 親族関係において後の世代にあたる「卑属」が、先の世代にあたる「尊属」を養子にすることはできない。また、年少者が年長者を養子にすることもできない(民法793条)。例えば、兄が弟を養子にすることはできるが、弟が兄を養子にすることはできない。
  • 配偶者のある人が養子縁組をする場合、成年者を養子するには、原則として、その配偶者の同意が必要(民法796条)。また、未成年者を養子にする場合、原則として、夫婦で共同して養親縁組をすることが必要(民法795条)。
  • 未成年者を養子にする場合は、家庭裁判所の許可が必要(民法798条)。

普通養子縁組の手続きとしては、養子縁組届出書を作成して、養親もしくは養子の本籍地(もしくは住所地)の市区町村役場に提出します。届出書には、成年の証人2人に署名・押印してもらう必要があります。一般的な必要書類は当事者の戸籍謄本や本人確認書類です。

普通養子縁組は、実親との法律上の親子関係に影響を与えません。そのため、養子になったとしても、実親の子でもあり続けますので、実親の遺産を相続できます。法定相続分も養子縁組前と変わりません。また、実親と養子が互いに扶養義務を負っていることにも変わりありません。

相続の具体例を、仮名を使って見てみましょう。相続春夫・夏子さん夫婦の子である太郎さんが、朝日冬美さんと養子縁組をしたケースで考えます。朝日冬美さんには夫はいませんが、秋人さんという実子がいました。

このケースで、相続春夫さんが亡くなった場合、太郎さんは春夫さんの子として、2分の1の法定相続分を有します(残る2分の1は夏子さん)。冬美さんと養子縁組をしても、実親である春夫さんとの親子関係は続いているためです。

また、朝日冬美さんが亡くなった場合も、太郎さんは冬美さんの子として、2分の1の法定相続分を有します(残る2分の1は秋人さん)。実子である秋人さんとの間で、法定相続分について優劣はありません。

上記のように、普通養子縁組の場合、太郎さんは、実親と養親の両方の遺産を相続することになります。

普通養子縁組に回数制限はありません。そのため、複数の人の養子になることも可能です。その場合、養子は複数の養親や実親の遺産を相続することになります。

特別養子縁組とは、未成年者(原則として15歳未満)の福祉のため特に必要があるときに、未成年者とその実親との法律上の親子関係を消滅させ、養親との間で新たに法律上の親子関係を生じさせることです。

特別養子縁組は、虐待や育児放棄など、家庭に恵まれない子どもに温かい家庭を提供して、その健全な養育を図ることを目的として創設されたもので、普通養子縁組とは意味合いが根本的に異なっています。このような目的から、離縁は原則として禁止されています。

主要な要件をピックアップすると下記の通りです。

  • 養親となる者は、配偶者があり、原則として25歳以上の者である必要があり、夫婦共同で養子縁組をする必要がある(民法817条の3及び4)。
  • 養子となる者は、原則として15歳未満であること(817条の5第1項)
  • 原則として実父母の同意が必要(817条の6本文)。ただし、父母による虐待など子の利益を著しく害する事由がある場合は同意不要(同ただし書)。
  • 父母による監護が著しく困難または不適当であることなどの特別の事情がある場合において、子の利益のために特に必要があること(817条の7)。

特別養子縁組は、上記のように強力な効果を有することから、普通養子縁組と異なって、家庭裁判所がその適否を判断する手続きになっています。

具体的な手続きとしては、養親となる者の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、特別養子適格の確認の申立てと特別養子縁組の成立の申し立てをします。一般的な必要書類は、養子となる者の戸籍謄本、養親となる者の実父母の戸籍謄本、養親となる者の戸籍謄本です。

費用は、収入印紙800円分(養子となる者1人につき)と連絡用の郵便切手です。

特別養子縁組の場合、普通養子縁組と異なって、実親との法律上の親子関係が消滅します。その結果、実親の相続人ではなくなるため、実親の遺産は相続できません。また、お互いの扶養義務も消滅します。

相続の具体例を見てみましょう。普通養子縁組で説明したケースと同様のケースで仮名を使って考えてみます。相続春夫・夏子さん夫婦の子である太郎さんが、朝日冬美さんと特別養子縁組をしたケースです。朝日冬美さんには、夫はいませんが、秋人さんという実子がいました。

相続春夫さんが亡くなった場合、太郎さんには法定相続分はありません。特別養子縁組をした時点で、春夫さんとの法律上の親子関係は消滅しているからです。

朝日冬美さんが亡くなった場合、太郎さんは2分の1の法定相続分を有します(残る2分の1は秋人さん)。こちらは普通養子縁組の場合と変わりません。

上記のように、太郎さんは、実親の遺産を相続しなくなることが、普通養子縁組の場合と異なります。

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養子縁組をした場合、相続や扶養などの法律関係は複雑化します。養子縁組によって相続分が減る他の相続人との間で、遺産を巡る争いが生じるケースも少なからず見られます。養子縁組をするにあたっては、実子などの推定相続人の同意は必須ではありませんが、将来のトラブルを避けるためには、事前に了解を得ておくべきです。少しでも疑問や不安がある場合は、弁護士に相談しながら進めると良いでしょう。

(記事は2021年5月1日時点の情報に基づいています)

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