目次

  1. 1. 孫への生前贈与を非課税で行う方法
    1. 1-1. 生活費や、入学金・学費等の教育資金は非課税
    2. 1-2. 年110万円まで非課税
    3. 1-3. 孫への生前贈与は「生前贈与加算」の対象外
    4. 1-4. 相続時精算課税制度を利用
    5. 1-5. 贈与税の非課税制度を利用する
  2. 2. 教育資金の一括贈与制度とは
    1. 2-1. 教育資金の一括贈与制度はいつまで? 2026年3月末に延長
    2. 2-2. 塾や留学費用も対象? 教育資金の一括贈与制度の範囲
  3. 3. 孫への教育資金の贈与の注意点 非課税にならないケースも
    1. 3-1. 受贈者には所得要件がある
    2. 3-2. 受贈者が23歳以上になると、教育資金の範囲が限られる
    3. 3-3. 一括贈与は30歳で契約終了。使い残しには贈与税が課される
    4. 3-4. 相続税の対象になることがある
  4. 4. 孫への生前贈与についてよくある質問
  5. 5. まとめ  孫への教育資金の贈与は税理士にご相談を

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贈与とは、あげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との契約です。「あげます」「ありがとう。もらいます」というやり取りがあれば、原則として口約束でも成立します。ただし、口約束だけではなく贈与契約書があると、贈与の事実を証明できるなどのメリットがあるため、書面に残しておくことをおすすめします。

個人間の贈与では受け取った側に「贈与税」がかかります。親族間でも、一定額以上のお金や資産の贈与があったときには、贈与された側に課税されます。まずは贈与税のかかり方に着目して、非課税で贈与を行う方法を解説します。

親や祖父母などの扶養義務者から、子や孫がもらった教育費や生活費に関し、「通常必要と認められるもの」については、そもそも贈与税の課税対象になりません。当然の費用負担をしているから、贈与税の対象となる贈与ではないという解釈です。

贈与税の対象とならない「教育費」とは、子や孫を教育する上で通常必要と認められる学資、教材費、文具費等を指します。通学のための交通費(定期券代など)や学級費、修学旅行参加費等も対象です。また「生活費」とは、日常生活を営むのに必要な費用で、治療費や養育費等も含みます。

ただし、たとえば数年分の教育費を一括で贈与された場合、すぐに教育費として充当されない部分の金額は、贈与税の対象となります。

暦年贈与(通常の贈与、1年ごとの合計額で申告が必要)の場合、受け取った金額の合計が基礎控除の110万円を超えた場合には、受け取った人に申告納税の義務が発生します。複数の人から贈与を受けている場合は、合算して税額を計算します。

合計額が年間110万円以内なら、非課税になります。贈与の税率は、直系尊属(祖父母や父母など)からの贈与の場合の特例税率と、それ以外の一般税率があり、特例税率の方が少し低くなっています。

贈与税の特例税率
贈与税の税率と計算例

【孫への生前贈与で500万円の暦年贈与をした場合の贈与税】
たとえば、孫が祖母から500万円相当の暦年贈与を受けて、他に贈与を受けていない場合、孫が支払う贈与税額は以下の通りです。

(500万円-110万円)×15%-10万円=48万5,000円

暦年贈与の場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日の間に税務署に贈与税の申告をし、申告した税額を納めます。

「生前贈与加算」とは、生前贈与を行って一定期間内に贈与者が亡くなった場合、亡くなった時の財産に持ち戻して相続税を計算するルールです。

加算の対象期間はこれまで「3年」でしたが、税制改正によって「7年」に変更されることが決まりました。2024年1月1日以降の生前贈与から、この期間は段階的に延びていき、7年に完全に移行されるのは、2031年1月1日以降です。

しかし、この加算は、「相続または遺贈により財産(生命保険金等のみなし相続財産を含む)を取得しなかった者」への贈与については適用されません。つまり通常は、法定相続人ではない孫への生前贈与では適用されないということです。

従って、亡くなる数カ月前に、孫に110万円以下の贈与を行った場合であっても、その額は相続税の対象となる財産に加算されません。孫が1年間に贈与を受けた金額(他者からの贈与額を含む)の合計額が基礎控除額以下であれば、贈与税もかかりません。「孫への贈与は有利!」と言われることがあるのはこのためです。

ただし、孫への生前贈与であっても、次のようなケースでは「生前贈与加算」の対象になります。

① 孫が祖父母の法定相続人として相続財産を受取っているケース
孫が祖父母の「法定相続人」として財産を受け取っている場合、生前贈与加算の対象になります。

具体例
・祖父母が孫と養子縁組した場合(孫養子)、孫は法定相続人である「子」として扱われる
・祖父母が亡くなる前に、祖父母の子である「孫の父母」がすでに亡くなっている場合、代襲相続により孫が法定相続人となる

② 孫が遺贈により財産を受取っているケース
遺言書に、「孫に財産を遺贈する」旨の記載があったことにより、遺贈を受けている場合には、孫が受けた生前贈与は、生前贈与加算の対象になります。

③ 孫がみなし相続財産を受取っているケース
生命保険の死亡保険金や死亡退職金などの「みなし相続財産」を受け取っている場合、つまり、生命保険の死亡保険金受取人が孫になっている場合などには、孫が受けた生前贈与は、生前贈与加算の対象となります。

相続時精算課税制度は、父母や祖父母から遺産を前渡しで子や孫に引き継ぐ制度です。累計で2500万円までの贈与には贈与税がかからない代わりに、相続時には贈与した財産が、亡くなった人の相続財産に加えられて、相続税を計算する制度です。

なお税制改正によって、2024年1月以降の贈与から相続時精算課税にも年110万円の基礎控除枠が設けられました。この年間110万円の基礎控除は、累計2500万円の特別控除には含まれず、相続発生時の持ち戻しの対象にはなりません。また年間の贈与額が基礎控除額以下なら贈与税の申告は不要です。

相続時精算課税制度の主な特徴は以下の通りです。

  1. 60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与が対象
  2. 父親から子A、祖母から孫Bのように、1対1の関係で適用される
  3. 制度を選択すると、利用した関係の間では通常の贈与(暦年贈与)は適用されない
  4. 一度選択すると、取り消しできない
  5. 制度を利用したあとは、年110万円の基礎控除枠を超える贈与があれば少額でも翌年3月15日までに申告する
  6. 年110万円の基礎控除枠に加え、累計で2,500万円まで非課税。2500万円超の部分には20%の贈与税が課される
  7. 贈与する人(贈与者)が亡くなったときには、年間110万円を超えて贈与された分を、他の相続税の対象となる財産と合算して、相続税の申告を行う(※)
  8. この制度で納めた贈与税の総額と、支払うべき相続税額を比較して、相続税額の方が多ければ税金を追納する。逆に相続税額の方が少ないときには、すでに納めた税金(贈与税)が払い戻される。
    ※法定相続人ではない孫であっても、この制度を利用した場合には、他の相続人と一緒に相続税の申告を行うことになります。

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親や祖父母から子や孫への贈与については、以下の目的に使う資金であれば、今後かかる費用についても、一定額まで非課税で贈与できます。

ただし、非課税で利用できるのはあらかじめ決められた目的に限られること、期限が決められていること、贈与者が死亡したり期限を過ぎたりすると、未使用の金額に対して相続税や贈与税がかかる可能性があることなどの注意点があります。

以下の制度を利用した場合、一度決めた贈与を取り消すことはできません。利用に際しては制度をよく調べて、慎重に検討しましょう。

【贈与税の非課税制度】
①教育資金の贈与の特例(2026年3月31日まで)
親や祖父母から、30歳未満の子や孫へ「教育資金」を非課税で贈与できる制度。非課税限度額は最高1500万円です。

②住宅取得等資金の贈与の特例(2026年12月31日まで) 
親や祖父母から、18歳以上の子や孫へ「住宅購入等資金」を非課税で贈与できる制度。非課税限度額は、条件により500万円または1000万円です。

③結婚・子育て資金の贈与の特例(2025年3月31日まで)
親や祖父母から、18歳以上50歳未満の子や孫へ「結婚・子育て資金」を非課税で贈与できる制度。非課税限度額は1000万円です。

以上のうち、今回は「教育資金の贈与の特例」について、次章で詳しく解説します。

親や祖父母から30歳未満の子や孫へ「教育資金」を非課税で贈与できる制度です。非課税限度額は、受贈者1人につき、1500万円(学習塾など学校以外への支払いは500万円)です。

手続きは金融機関の窓口で行います。親や祖父母は贈与した資金の管理契約を金融機関と結び、子や孫名義の口座に一括で入金します。子や孫は教育資金の領収書や請求書を提出することで、贈与税非課税でお金を引き出せます(目的外の引き出しには贈与税がかかります)。子や孫が未成年の場合、親などの保護者が手続きを行います。

受贈者である子や孫が30歳になったときには教育資金口座にかかる契約は終了し、口座に残っていたお金は贈与税の対象となります。また、契約期間中に贈与者である親や祖父母が死亡した場合、その時点の残額に対して相続税がかかることがあります(受贈者が23歳未満である場合や、学校などに在学中の場合は除く)。

教育資金の一括贈与制度における口座開設から契約終了までの流れ
教育資金の一括贈与制度における口座開設から契約終了までの流れ

教育資金口座の開設(契約)は、2023年3月31日までの期間限定となっていましたが、税制改正により3年の延長が決まり、2026年3月31日までとなります。孫への教育資金の一括贈与を検討している方は、期限にも注意しましょう。

この制度の対象となる教育資金は、幅広い用途が対象になります。文部科学省の発表資料(2019年7月1日現在)では、以下のように定めています。

【学校等に直接支払うもの】
① 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など
② 学用品の購入費や修学旅行費や学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など

【学校等以外に対して直接支払うもの】
③ 教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など
④ スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など
⑤ ③の役務の提供又は④の指導で使用する物品の購入に要する金銭
⑥ ②に充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの
⑦ 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費

なお、非課税限度額は合計で1500万円まで、【学校等以外に対して直接支払うもの】は500万円までとなっています。

※2019年7月1日以降に支払う③~⑤の金銭で、受贈者(子や孫)が23歳に達した日の翌日以降に支払われるものについては、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講するための費用に限る。

制度活用のメリットとしては、将来予想される教育資金を、自分が元気なうちに子や孫に非課税で贈与しておける点があります。自分が認知症や死亡により金銭の支払いができなくなった場合でも、教育資金を負担してあげられるのです。

ただし、非課税枠の全額が必ずしも非課税になるわけではありません。非課税となる教育資金の範囲内であることや、証明するための領収書や請求書を提出することが必要という点には注意が必要です。また、贈与者の相続開始時や、受贈者が30歳になって契約が終了するときなどに残額がある場合には、非課税とならないケースもあります。

この制度を利用する上での注意点は以下のとおりです。

2019年4月以降は、受贈者である子や孫の前年の合計所得金額が1000万円以下の場合に利用できます。

23歳以上になると、下記以外の習い事などは非課税ではなくなります。

①学校等に支払われる費用
②学校等に関連する費用(留学渡航費等)
③学校等以外では、教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練の受講費用のみ

30歳になったときには契約は終了し、残額には贈与税が課されます。ただし、30歳以降も学校等に在学中または教育訓練受講中であれば、残高があっても贈与税は課されません。その後、在学中・受講中ではなくなった年の年末または40歳になった場合には、その時点の残高に対して贈与税が課されます。

教育資金贈与の一括贈与は、贈与者の相続開始日に、受贈者が23歳以上である場合、または在学中もしくは受講中でない場合には、相続開始時の残高が相続財産に加算されます。

なお、税制改正により、「受贈者が23歳未満だったり、学生だったりしても、相続税の課税価格が5億円を超える場合には残額に相続税がかかる」「使い残し分にかかる贈与税は高い方の税率(一般税率)で計算する」など、「使い残し」に対する課税が厳しくなりますので、注意が必要です。

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Q. 贈与税は誰が払う必要があるの?

贈与税は「個人から財産をもらった時にかかる税金」です。したがって、財産をもらう側である孫に支払い義務があり、暦年贈与で1年間に贈与された金額が基礎控除額を超える場合には、贈与税の申告と納税を行わなければなりません。

Q. ひ孫についても、教育資金は1500万円まで非課税で生前贈与できますか?

ひ孫の扱いは孫と同様の扱いになります。したがって、1500万円の範囲内であれば非課税で教育資金の生前贈与が可能です。

Q. 0歳児の孫に生前贈与できますか?

贈与には年齢制限がありませんので、何歳の孫にでもできます。 ただし、幼児は贈与の成立条件である「もらう」との意思表示ができませんので、親権者の同意が必要となります。このことは、中学生や高校生などの未成年者の孫が贈与を受ける場合も同じです。また、祖父母が孫名義の口座でお金を管理している「名義預金」であると税務署に指摘されないよう、通帳と印鑑は孫本人または親権者が管理しましょう。贈与の証明として、贈与契約書を作成しておく方法もあります。

Q. 連年贈与と定期贈与の違いって何ですか?

毎年贈与を行うことを「連年贈与」と言いますが、この連年贈与が、毎年一定の金額を贈与することをあらかじめ決めている「定期贈与」と認定されてしまうと、一定期間の贈与合計額について贈与税が課税されてしまうおそれがあります。

例えば、毎年100万円ずつ10年間に渡って贈与を受ける場合、単なる「連年贈与」であれば、毎年の受贈額は110万円以下の基礎控除額以下なので、贈与税はかかりません。しかし、10年間に渡って毎年100万円ずつ贈与を受けることが贈与者との間で約束されている「定期贈与」とみなされた場合には、合計額である1000万円に対して贈与税が課税されることがあります。

定期贈与とみなされないようにするためには、定期的ではない贈与を行ったり、毎年贈与する度に贈与契約書を作成したりする方法もあります。

金融機関の方の話によると、この制度を利用したあとに、「お金をあげすぎた。解約したいのだが…」という申し出をいただくこともあるそうです。しかし、いったん結んだ契約は、原則として取り消すことはできません。また、使わずに残ってしまったお金には贈与税や相続税がかかることがあるので、他の子や孫への贈与等とのバランスを考えることも必要です。このため、利用する際には、制度をよく知った上で、誰にどのように資金援助するのか慎重な検討が不可欠です。税理士に相談して想いを形にしていくと、より適切な形の贈与にしていけるでしょう。

贈与の年の1月1日に所定の年齢になっていることが条件になる場合と、契約時等にその年齢になっていることが条件になる場合があります。利用の際は、その他の条件を含めて、税務署や専門家にご確認ください。

(記事は2024年3月1日時点の情報に基づいています)

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