目次

  1. 1. 特別受益が成立する要件
  2. 2. 生活費の援助が特別受益となるかどうかの判断基準
    1. 2-1. 扶養義務の範囲であれば、特別受益にはならない
    2. 2-2. 生活費の援助が扶養義務を超えるケースとは?
    3. 2-3. 持ち戻し免除の意思表示がある場合、特別受益から除外される
  3. 3. 生活費の援助が特別受益に当たると判断された審判例
  4. 4. 遺産分割において特別受益を主張する方法は?
  5. 5. 特別受益の主張を弁護士に依頼するメリット
    1. 5-1. 法的な観点から相手方や裁判所を説得できる
    2. 5-2. 交渉や裁判手続きを一括して任せられる
    3. 5-3. 迅速な解決を図ることができる
  6. 6. まとめ|特別受益の判断は難しいので、弁護士にご相談を

「特別受益」とは、法定相続人が被相続人から、いわば「恩恵」として受けた遺贈・贈与を意味します。
相続人間の公平を図るため、特別受益の認められる相続人の相続分は、すでに受けた遺贈・贈与の金額を考慮して減らされます(その分、他の相続人の相続分が増えます)。

特別受益が成立するための要件は、以下のとおりです(民法903条1項)。

①法定相続人に対する遺贈または贈与であること
②贈与の場合、以下のいずれかに該当すること

  • 婚姻のための贈与であること
  • 養子縁組のための贈与であること
  • 生計の資本としての贈与であること

相続人が、被相続人から生活費の援助を受けていた場合、上記のうち「生計の資本としての贈与」に該当し、特別受益が認められる可能性があります。

被相続人から生活費の援助を受けていたとしても、その全額が特別受益に当たるとは限りません。
親族同士であれば「扶養義務」との関係を考慮する必要があるほか、被相続人が「持ち戻し免除」の意思表示を行っている場合は、取り扱いが異なるためです。

「扶養義務」とは、親族同士が経済的に助け合う義務を意味します。
以下に挙げる条文のとおり、法定相続人になり得る配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹に対しては、被相続人はそれぞれ扶養義務を負っています。

 l 同居、協力及び扶助の義務
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。(民法752条)
 l 扶養義務者
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。(民法877条1項)

扶養義務の範囲で行われる生活費の援助は、あくまでも扶養義務の履行であって、「遺贈」や「贈与」には該当しません。

そのため、生活費の援助が扶養義務の範囲内と認められる場合には、特別受益に該当しないと考えられます。

生活費の援助が扶養義務の範囲内か、それとも扶養義務を超えるものかについては、以下の要素などを考慮して判断されます。

  • 援助の金額
  • 被相続人の財産に対する援助金額の割合
  • 援助資金の使途
  • 相続人と被相続人との関係性

あくまでもケースバイケースの判断になりますが、以下のような場合には、生活費の援助が扶養義務を超えると判断される可能性が高いでしょう。

  • 一般的な生活費の水準に比べて、援助金額が高額な場合
  • 相続財産の金額に対して、援助金額の割合があまりにも大きい場合
  • 車や家など、高額な財産を取得させるために行われた援助の場合
  • 独立した家庭を持つ兄弟姉妹など、被相続人から比較的遠い関係性にある者が、遺贈や贈与を受けた場合

特別受益に当たる遺贈・贈与が行われた場合であっても、被相続人が「持ち戻し免除」の意思表示をした場合、当該遺贈・贈与は特別受益から除外されます(民法903条3項)。

特別受益の持ち戻し免除が認められているのは、相続分の決定に関して、被相続人の意思を最大限尊重する趣旨によるものです。

なお、持ち戻し免除の意思表示は、どのような方式によっても行うことができます。
遺言の中で記載するケースが多いですが、それ以外の書面や口頭でも、持ち戻し免除の意思表示ができることを覚えておきましょう。

東京家裁平成21年1月30日審判では、被相続人が相続人に対して行った生活費の援助の一部が、特別受益に当たると判断されました。
この事案では、被相続人から相続人の1人に対して、約7年間にわたり継続的な生活費の援助が行われていました。
被相続人の遺産総額は2億6700万円程度でした。

家庭裁判所は、毎月10万円までの贈与は扶養義務の一環であるとした一方で、それを超える部分は特別受益に当たると判断し、総額630万円程度の特別受益を認定しました。

弁護士への相続相談お考え方へ

  • 初回
    無料相談
  • 相続が
    得意な弁護士
  • エリアで
    探せる

全国47都道府県対応

相続の相談が出来る弁護士を探す

ご自身以外の相続人に特別受益が認められれば、結果的にご自身の相続分が増えます。

特別受益を主張する手続きとしては、遺産分割協議や遺産分割調停・審判がありますが、いずれにしても、特別受益を裏付ける証拠資料を準備しておくことが大切です。
生前の被相続人から相続人に対して、どのようなお金の流れがあったのか、預貯金口座の入出金履歴などから論証できるようにしておきましょう。
証拠の収集方法について迷う部分がある場合には、弁護士にご相談ください。

他の相続人の特別受益を主張する場合、弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。

特別受益の根拠・証拠を示して主張することで、相手方から妥協を引き出し、また審判において有利な結論を得られる可能性が高まります。

煩雑な交渉や裁判手続きへの対応を一任できるため、労力や精神的負担が軽減されるうえ、手続きや検討事項の漏れもなくなります。

法的な論点をきちんと整理して交渉や裁判手続きに臨むため、遺産分割を早期に完了できる可能性が高いです。

特別受益の主張により、遺産分割協議を有利に進めたい場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。

生活費の援助が特別受益に当たるかどうかは、援助の金額や遺産総額、さらには被相続人と相続人の関係性などに応じて、ケースバイケースで判断されます。
他の相続人の特別受益を主張する場合は、多面的な観点からの検討・立証が必要となりますので、一度弁護士にご相談ください。

(記事は2021年10月1日時点の情報に基づいています)