遺言書を破棄、偽造した場合、私文書偽造罪や私用文書毀棄罪(ききざい)が成立します。破棄、偽造した人は相続する資格を失います。ただし、本人が争う場合、訴訟を起こさなければならない可能性があります。

もし相続後に破棄や偽造が明らかになって本人が認めないようなら、訴訟(相続欠格確認訴訟)を起こす必要があります。遺言書の破棄や偽造を防ぐには、法律のプロである公証人のチェックを受ける公正証書遺言を利用するか、自筆証書遺言を法務局に預ける方法がおすすめです。

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1.遺言書の破棄、偽造、変造とは

1-1.破棄とは

「破棄」とは遺言書の効用を害する行為をいいます。たとえば、遺言書を燃やす、捨てる、隠すなどの行為がこれにあたります。

1-2.偽造とは

「偽造」とは作成権限のない者が文書を作成することをいいます。たとえば、相続人が自己に有利な遺言書を勝手に被相続人(亡くなった人)の名前を使って作成するなどの行為がこれにあたります。

1-3.変造とは

「変造」とは信頼性のあるものとして成立した文書に手を加えて、異なる価値を生み出すことをいいます。たとえば、相続人が被相続人の作成済みの遺言書を書き換える行為がこれにあたります。

2.遺言書を破棄したら相続欠格者になる

2-1.相続欠格とは

相続欠格とは、相続人となる資格がなくなることをいいます。民法891条各号には相続欠格となる欠格事由が規定されています。

たとえば、相続人が遺産目的で被相続人を殺害したり、被相続人をだますなどして自己に有利な遺言をさせたりするなどの行為が欠格事由となります。また、同条5号では遺言書の偽造、変造、破棄、隠匿をした場合が規定されています。

2-2.裁判例の紹介

遺言書の破棄、隠匿などについては以下のような裁判例があります。

(1)偽造・変造の事例:最判昭和56年4月3日
被相続人の意思を実現させるためにその法形式を整える趣旨で遺言書を偽造又は変造したにすぎないときには、右相続人は本条五号所定の相続欠格者にあたらない。

(2)隠匿の事例:最判平成6年12月16日
遺言公正証書の保管を託された相続人が遺産分割協議が成立するまで他の相続人の一人に遺言書の存在を告げなかったことは本条五号の隠匿にはあたらないので、相続欠格事由にはあたらない。

(3)破棄・隠匿の事例:最判平成9年1月28日
相続人が被相続人の遺言書を破棄又は隠匿した行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は本条五号所定の相続欠格者に当たらない。

(4)裁判例の傾向
遺言書の破棄、隠匿などが相続欠格事由となる趣旨は、やはり相続人が不当に相続財産を得る目的で、そのような行為に出ることを防ぐということにあると思われます。

そのため、上記裁判例においても、不当な利益を得る目的がないと判断されるような場合は例外的に相続欠格事由にあたらないという判断がされていると考えられます。

2-3.相続欠格者から相続権を奪う方法

(1)相続欠格者が争わない場合
相続人のうち相続欠格事由に該当する者がいた場合、その者は相続人としての資格がなく、相続権がないということになります。ただし、このことは当然には戸籍などに記載されるわけではありません。

そのため、欠格者を除いた相続人全員で遺産分割協議を行ったとしても、それだけでは遺産分割協議に従った登記などはできません。

このような場合、相続欠格者が争わないのであれば、相続欠格者以外の相続人全員で作成した遺産分割協議書と、相続欠格者の作成した「相続欠格証明書」と、印鑑証明書を付けることで、登記などの手続きを進めることができます。

(2)相続欠格者が争う場合
一方、相続欠格者が欠格事由に該当することを争う場合も考えられます。

このような場合、他の相続人としては、当該相続欠格者が相続人の地位を有しないことの確認訴訟を提起するという手段をとることになります。そして、勝訴した場合は、確定判決が上記相続欠格証明書に代わるものとして、移転登記などの手続きに必要になります。

3.遺言書を破棄・偽造等した場合の犯罪

遺言書を破棄した場合は私用文書毀棄罪(刑法259条)が成立する可能性があります。同罪は、刑罰として5年以下の懲役が規定されています。

また、遺言書を偽造した場合は有印私文書偽造罪(同法159条1項)が成立する可能性があります。同罪は、刑罰として3カ月以上5年以下の懲役が規定されています。

ただし、実際に遺言書の破棄や偽造で警察に捕まって、裁判で刑罰が科されるケースはあまりないようです。

4.遺言書を破棄、偽造された場合の対処方法

4-1 遺言書の破棄の場合

遺言書を破棄された場合、他の相続人としては、破棄をした相続人が相続欠格事由に該当し、相続人としての地位を有しないことを確認する訴訟を提起するということになります。

この場合、訴訟の相手方が遺言書を破棄した事実について立証が必要となります。もっとも、破棄については、問題となっている相続人が破棄したことに関する証拠があまりないことが多いです。そのため、立証が難しいケースが多いといえます。

4-2.遺言書の偽造の場合

遺言書を偽造された場合は、上記確認訴訟を提起するほか、遺産分割調停を申し立てたうえで遺言の無効を主張するなどの方法も考えられます。

偽造についても立証が必要になります。具体的には、たとえば、筆跡鑑定による被相続人の筆跡ではないということを立証することが考えられます。ただし、筆跡鑑定をすれば本当に偽造された遺言書かどうかがはっきりわかるかというと、そうではないケースもかなり多いといえます。

また、当該遺言書は文字の震えなどもなく記載内容からも当時の被相続人が書けるような内容ではないので被相続人が作成したものではないという形で立証する方法も考えられます。その際は、認知機能テストを行う「長谷川式認知症スケール」やカルテ、日記などにより、被相続人がその当時は遺言を残せるような状態になかったということを立証する場合が少なくありません。

いずれにせよ、偽造の場合も、直接的かつ客観的な証拠というものがないケースのほうが圧倒的に多いと考えて良いでしょう。

5.本人が破棄するのは自由

遺言書は作成する本人が破棄することは自由です。

遺言書は新しく作成したものが古いものより優先されます。そのため、本人が遺言を撤回する方法としては、内容の異なる遺言書を新しく作成することで、以前作成した遺言を撤回するという方法があります。

6.遺言書の破棄や偽造を防ぐ方法

遺言書の破棄や偽造を防ぐ方法としては、公正証書遺言を作成することが考えられます。遺言の内容が適正かどうかを公証役場の公証人がチェックしてくれるためです。また、相続法の改正により、自筆証書遺言については法務局に預けることで遺言書の破棄、偽造を防ぐことも可能になりました。

7.まとめ

遺言書の破棄、偽造を行うと民法上は相続欠格事由となり、相続人としての資格を失います。さらに、刑法上も犯罪が成立するため、遺言書の破棄、偽造を行った場合の不利益はかなり大きいといえます。

ただし、遺言書の破棄、偽造などをされた他の相続人としては、相手方が争うのであれば破棄、偽造についての立証が必要となり、証拠が必要になります。当該相続人が破棄、偽造をしたということにつき客観的な証拠が残っているということは考えにくいため、立証が極めて困難であるというのが通常です。

そのため、遺言書の破棄、偽造、隠匿が問題となりそうなケースに関しては、遺言書を法務局に預ける、あるいは公正証書遺言を作成するなど、遺言書の破棄、偽造を防ぐための予防策が大変重要であるといえます。

遺言書の破棄、偽造、隠匿に関して不安を感じたり、実際に破棄や偽造が疑われたりする場合は、弁護士に相談して意見を聞くことをお勧めします。

(記事は2021年9月1日時点の情報に基づいています)