目次

  1. 1. 相続した建物と土地は分けて評価する
    1. 1-1. 建物の評価方法
    2. 1-2. 土地の評価方法
  2. 2. 相続した建物は「基準年度の固定資産税評価額」で評価
  3. 3. 相続した建物が建築中だったときの評価方法
  4. 4. 相続した建物が賃貸アパートのときの評価
  5. 5. 相続した建物を評価するときの注意点
    1. 5-1. 建物の評価で使うのは固定資産税課税標準額ではない
    2. 5-2. 相続直前に行ったリフォーム・リノベーションの評価漏れ
    3. 5-3. 所得税の計算における賃貸アパートの未償却残高(帳簿価額)は使わない
    4. 5-4. 小規模宅地等の特例は建物には使えない
    5. 5-5. 相続税申告における建物の評価額は、家を売ったときの取得費にならない

相続税の財産評価のルールブックである財産評価基本通達(以下「評価通達」)では、相続した土地とその土地上の建物がある場合、それぞれ以下のとおり分けて評価することとされています。なお、評価通達では、建物は家屋と表記されていますが、この記事では建物で統一させていただきます。

建物の評価額は、基準年度の固定資産税評価額に評価倍率(1.0)を乗じて求めることとされています。

建物の評価額 = 基準年度の固定資産税評価額 × 評価倍率(1.0)

土地はその地目(用途)ごとに評価方法が定められています。実務上、登場頻度が高い宅地について述べると、市街地的形態を形成する地域にある宅地は路線価方式で、それ以外の地域にある宅地は倍率方式で評価することとされています。

【路線価方式】
自用地価額 = 路線価 × 画地調整率 × 地積(平方メートル)

【倍率方式】
自用地価額 = 基準年度の固定資産税評価額 × 評価倍率

建物の固定資産税評価額は、新築時に一度評価されてその後は3年ごとの評価替えで経年減点補正等がなされて評価額が減少していきます。ただし、一定年数を経過しても評価額はゼロにはならず、最終残価率2割が残る仕組みになっています。なお、新築時の固定資産税評価額は、おおよそ実際の建築費の6割~7割程度の場合が多いです。

建物の評価にあたって用いるのは基準年度の固定資産税評価額です。基準年度というのは3年ごとの評価替えの年度を指し、直近であれば令和3年度が基準年度にあたり、その次は令和6年度になります。たとえば、令和4年中に相続開始した場合には、基準年度(令和3年度)の固定資産税評価額を用いて評価することになります。

なお、固定資産税評価額は毎年5月頃に各区市町村から送られてくる固定資産税課税明細書に記載されています。もし紛失している場合には各区市町村に訪問するか、または郵送で基準年度の固定資産税の評価証明を入手することで確認できます。

被相続人の死亡日時点でまだ建物が建築中の場合、固定資産税評価額は付されていないのでどう評価したらよいのかが問題となります。こうした建築中の建物は以下のとおり評価することとされています。

建物の評価額 = その建築中の建物の費用現価 × 70%

費用現価とは、課税時期(被相続人の死亡の日)までに建物に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。

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相続した建物が賃貸アパート(以下「貸家」)の場合、以下の算式で評価します。

貸家の評価額=自用建物の評価額(注1)×(1-借家権割合(注2)×賃貸割合(注3))
注1:基準年度の固定資産税評価額×評価倍率(1.0)
注2:借家権割合は全国で30%と定められています。
注3:賃貸割合は、その貸家の各独立部分の床面積合計のうち、被相続人の死亡日において賃貸されている部分の占める割合をいいます。

貸家の評価では、入居者(借家人)が居付きであることによりオーナー(所有者)自らの自己使用が制限されていること、及び、オーナーが自由に使用するには入居者に立退料を支払い立ち退いてもらう必要があることから、算式中の下線部を自用建物の評価額からマイナスすることとしています。仮に満室であれば、自用建物の評価額の70%相当で評価されることとなります。

相続した建物を評価する際、固定資産税課税標準額を使用してしまうというミスが多いです。相続税申告における建物の評価で使うのはあくまでも固定資産税評価額です。

固定資産税課税明細書には、これら二つの金額が記載されていますので、取り違えないように注意が必要です。固定資産税課税標準額の方が固定資産税評価額よりも小さいことのほうが多いので取り違えると過小評価になってしまいます。

被相続人が亡くなる直前に行った自宅のリホームやリノベーションは固定資産税評価額に反映されていないため、工事費用から減価償却費相当額を控除した額の70%相当で評価する必要があります。生前にリホームやリノベーションにお金を使ってしてしまえば固定資産税評価額にも反映されず相続税対策になると思い込んでいる人もいますが、リホームやリノベーション部分は上記の通り評価する必要があります。評価漏れに注意です。

被相続人が賃貸アパート経営を行っていた場合、所得税の不動産所得の計算上賃貸アパートの取得価額から毎年一定額の減価償却費を計算して経費計上し、未償却残高(帳簿価額)を管理していると思います。賃貸アパートの相続申告における評価額は、この未償却残高(帳簿価額)を使うと勘違いする人がいますが、この未償却残高は使用せず、上記算式で評価します。

被相続人から相続した事業用や居住用の宅地等については、一定の要件を満たせば、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定割合を減額できる取り扱い(小規模宅地等の特例)があります。建物にもこの小規模宅地等の特例が使えると勘違いしている人がいますが、これはあくまでも宅地についての特例であり、上物の建物についての特例ではありません。

相続した建物をその後に売却する場合もあると思われます。その際の譲渡所得税の計算上、売却代金から控除する取得費について、相続税申告における建物の評価額を使えると勘違いしている人が多いですが、これは誤った理解です。正しくは、被相続人が建物を取得した金額等を引き継いで減価償却費を控除して取得費を算出します。

相続税申告における建物の評価額は固定資産税評価額だから簡単と思い込みがちですが、意外に注意点も多いのも事実です。評価に悩んだら相続税申告に精通している税理士に相談するのがよいでしょう。

(記事は2021年7月1日時点の情報に基づいています)