「貸家建付地」は相続税の節税に役立つ 理由と計算方法とは
相続税の節税に有利とされる「貸家建付地」。どのような土地が該当するのでしょうか。評価額の計算方法や否認されるケースなどを見ていきます。
相続税の節税に有利とされる「貸家建付地」。どのような土地が該当するのでしょうか。評価額の計算方法や否認されるケースなどを見ていきます。
目次
聞きなれない言葉だと思いますが、相続が発生した時に土地の評価をする際に使う用語の1つになります。
「自」分で「用」いる(使う)土「地」。自己所有の土地に自宅を建てる場合の土地のことを言います。
「貸家」が「建」て「付」けてある土「地」。自己所有の土地に自分で賃貸用の建物を建て、第三者に貸している場合の土地のことを言います。賃貸用建物の代表例がアパートやマンションや貸家です。
「貸」している土「地」。借地権等の目的となっている自己所有の土地を第三者に貸している場合の土地のことを言います。つまり、人に貸している土地のことで、建物は土地を借りた人が建てることになり、借地人と言われます。
どの種類に該当するかを確認するには、法務局で土地と建物の全部事項証明書を入手すればわかります。
それでは、相続税評価がどうなるのかを見ていきましょう。
相続において、不動産の評価はすべて一律ではなく、土地の使い方など様態によって変わります。計算方法は国税庁より通達が出ており、これに従うことになります。
ちなみに、不動産の価格は「1物4価」ないしは「1物5価」と言われます。同じ土地なのに評価が4つも5つも存在します。具体的には、以下の通りです。
に分けられ、相続においての土地の評価は相続税評価額(路線価)を使用します。相続税評価額(路線価)は国税庁のホームページに路線価図を見るとわかるようになっています。
また、相続における不動産の評価は土地と家屋に分けて、計算していきます。
基本となるのが自用地評価です。自宅が建っているものだけではなく、建物が建っていない更地も含まれます。
計算式は…
自用地評価:敷地面積(㎡)×相続税評価額(路線価)の100%が評価となります。
例:200㎡の土地があって、相続税評価額(路線価)が20万円の評価は
200㎡×20万円=4000万円が土地の相続税評価になります。
では、貸家建付地の評価方法を説明します。
自用地評価×{1-(借地権割合×借家権割合×賃貸割合)}が評価となります。
借地権割合は国税庁のホームページの路線価図を見るとわかるようになっています。
また、全国一律30%と決められています。
賃貸割合は入居率を表す数字ですが、部屋数ではなく床面積の数字になるので、ご注意ください。
例1:自用地評価が4000万円の土地に借地権割合が60%、入居率が100%のアパートを
所有している評価は4000万円×(1-0.6×0.3×1)=3280万円
例2:自用地評価が4000万円の土地に借地権割合が60%、入居率が50%のアパートを
所有している評価は4000万円×(1-0.6×0.3×0.5)=3640万円
例3:自用地評価が4000万円の土地に借地権割合が60%、入居率が20%のアパートを
所有している評価は4000万円×(1-0.6×0.3×0.2)=3856万円
以上の計算式にあてはめて、土地の相続税評価を算出します。
貸家建付地では、入居率によって評価が変わってくるので、高い入居率を維持することが重要です。要するに適宜リフォームや修繕をして、満室にしようと努力している人と、何もしない人との差別化をしているという事です。ただし、いくら努力しても、相続の課税時期に空室になることも考えられ、一時的に空室になっただけと判断されることはあります。
継続的に賃貸をしていたと認められる例として、入居者が退去した後、すぐに募集をして、いつでも入居できるようにしている。あるいは、空室の期間が1か月など一時的な空室であることなどの場合があります。
では、貸宅地の評価方法を説明します。
貸宅地の評価:自用地評価×(1-借地権割合)が評価となります。
例:自用地評価が4000万円の土地で借地権割合が60%の評価は、4000万円×(1-0.6)=1600万円が土地の相続税評価になります。
貸家建付地と貸宅地は、それそれ部屋に住む人の権利や貸した土地に権利があり、所有者が土地を自由に使えないことから、自用地評価より一定の評価が下がることになります。
このことから、相続税の節税に有利とされる理由です。
家屋の評価は至ってシンプルで、固定資産税評価額で算出します。自宅の評価は固定資産税評価額そのもので、貸家の場合は固定資産税評価額の70%が評価額となります。
貸家建付地なのかどうか、判断に迷うこともあります。よく見かける例を紹介して解説します。
アスファルト舗装や砂利敷きのコインパーキングや立体駐車場のために土地を貸している場合は貸家建付地となるのでしょうか?答えは「自用地」となります。
なぜなら、一時使用のため借家権が発生していないからです。ちなみに、登記はなくても引渡しがあれば借家権が発生しています。
では、賃貸アパートの敷地内の駐車場や隣接する駐車場は貸家建付地となるのでしょうか?答えは原則、「貸家建付地」となります。なぜかと言うと、駐車場の契約者及び利用者がアパートの住人なので、所有者として利用が制限されるからです。ただし、住人以外の方と契約してしまうと、別の契約となり、建物が建っていない更地とみなされ、駐車場敷地全体が自用地評価になってしまいます。しかしながら、住人以外の駐車場の場所が明確に区分されている時は、その分部分だけが自用地評価となります。
今までの評価とは別に、小規模宅地の特例と言う制度があります。
相続した土地を相続税のために売却しないで済む制度で、種類としては、次の3つがあります。
①特定居住用宅地等(居住を継続)
→330㎡までの宅地が80%引きの評価
②貸付事業用宅地等(貸付業を継続)
→200㎡までの宅地が50%引きの評価
③特定事業用宅地等(事業を継続)
→400㎡までの宅地が80%引きの評価
適用要件の詳細は省略しますが、かなり厳しい条件になるので、専門家に相談をお勧めします。
前述の自用地・貸家建付地の評価を例にすると、①より自宅使用の自用地は200㎡なので、4000万円が800万円の評価となり、②より貸家建付地は200㎡なので、例1は1640万円、例2は1820万円、例3は1928万円と、それぞれ評価とされます。
また、①~③の面積がそれぞれ超えた場合は、超えた面積には特例の適用はありません。
例えば、貸家建付地が300㎡の場合は200㎡まで50%引きになりますが、残りの100㎡には適用がありません。
ただし、自用地評価であれ、貸家建付地評価であれ、小規模宅地の特例とは全くの別物なので、適用要件に見合えば、もちろんですが、申請することはできます。
賃貸併用住宅とは、4階建ての建物のうち、1~3階が貸家で4階を自宅で使用しているような場合です。
貸家建付地であり、自用地となりますし、要件が合えば、小規模宅地の特例も使えます。
敷地面積を按分して、賃貸業としての部分は50%引き、自己使用の部分は80%引きで分けて計算します。
ちなみに、すごく有利にも思えますが、平成22年度改正前は、要件を満たすものが一人でもいれば、80%引きが可能でしたが、法改正により平成21年より前の建物も現在では、按分計算をすることになっております。
以上の説明の様に一例ですが、相続税評価の仕方は、判断が非常に難しくなります。
相続税がかかる方にとっては、自用地評価になるのか、貸家建付地評価になるかによって、評価はかなり違ってきます。
特に、小規模宅地の特例は①②③をそれぞれ適用できるとしても、すべての適用は出来ず、選択制になります。前述のように、要件がひとつでも満たさないと使用できませんので、税理士に相談することが大切だと思います。
(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています)