「相続放棄」と「限定承認」とは

亡くなった方(被相続人)の相続人は、被相続人が残した財産や債務を相続します。この時、財産よりも債務の方が多ければ、相続により借金などの負担を背負うことにもなりかねません。そうした場合に検討したい制度が、「相続放棄」と「限定承認」です。これらの制度を使うことで、被相続人から過度な借金を引き継ぐ事態を防ぐことができます。

相続放棄をすると、被相続人の財産と債務の一切は引き継がれません。一方、限定承認の場合は、被相続人の財産は相続しながらも、その財産の範囲内で債務を引き継ぐことができます。

たとえば、被相続人が遺した財産が3,000万円あり、債務が4,000万円あったとしましょう。この場合、相続放棄をすると、引き継ぐ財産も債務もゼロです。限定承認を選んだ場合は、3,000万円の財産と3,000万円の債務を相続することになります

「相続放棄」や「限定承認」についてはこちらの記事でも詳しく解説

熟慮期間の原則は「3カ月」以内

相続放棄や限定承認の手続き期限は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内」と定められています。被相続人が亡くなり、自分が相続人となったことを知ったら、3カ月以内に家庭裁判所で相続放棄等の申述という手続きを行う必要があります。

この3カ月を「熟慮期間」と呼びますが、熟慮期間を過ぎると、相続放棄や限定承認を選択できなくなります。この場合、相続人は被相続人の財産と債務の一切を引き継がなくてはなりません。

新型コロナウイルスの影響による熟慮期間延長手続き

法務省ウェブサイトでは、「新型コロナウイルス感染症に関連して,相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ」と題し、親族が亡くなったにもかかわらず,新型コロナウイルス感染症の影響により熟慮期間内に相続の承認又は放棄をすることができない場合には,この期間の延長を家庭裁判所に申立てをすることができる旨説明しています。

そして、熟慮期間の延長の申立てをせず、熟慮期間内に相続放棄または限定承認をしなかったときは、被相続人の財産と借金等の債務を全て引き継ぐことになる旨の注意喚起も記載されています。熟慮期間の延長措置は、従来から設けられている措置ですが、法務省はあらためてコロナウイルス感染症の影響を受けた方に向けて注意喚起を行った形となっています。

延長するには家庭裁判所での手続きが必要

この延長手続きを行うためには、3か月の熟慮期間が終わる前に家庭裁判所に申し立てる必要があります。たとえば2020年4月1日に自分が相続人となる相続があったことを知ったのであれば、通常は2020年7月1日に熟慮期間が終わります。しかし7月1日が来る前に家庭裁判所に熟慮期間の延長の申立てをすれば、さらに検討の猶予が与えられることとなります。

熟慮期間の延長の申立て手続きの窓口となるのは、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所です。手続きの費用としては、収入印紙800円分(相続人1人につき)と連絡用の郵便切手がかかります。必要となる書類もありますので、詳しくは裁判所のホームページを確認してください。

新型コロナウイルスは相続放棄の判断にどう影響する?

今回の新型コロナウイルス感染症の影響は未知数です。株式や投資信託、不動産といった財産の価額が大きく変動する可能性もあり、遺産分割や、相続の承認・放棄の判断にも影響すると考えられます。

たとえば、被相続人の株式と債務を相続し、相続開始時点では株式5,000万円、債務4,000万円の価値があったとしましょう。これが新型コロナウイルス感染症にともない株価が下落し、4,000万円を下回る価値になるとしたら、相続放棄や限定承認を選んだほうがいいということになります。もちろん、株価はいずれ上昇することも考えられますが、新型コロナウイルス感染症により株価などが日々大きく変動しているため、こうした財産価値の変動には注意しておいたほうがいいでしょう。

相続財産の価値は、相続の判断や遺産分割に大きな影響をおよぼします。こうした点に少しでも不安があるようであれば、まずは熟慮期間の延長申立てをして、新型コロナウイルス感染症の影響を見極めてから、相続放棄や限定承認について判断してください。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)

◇【お詫び】
2020年4月3日に、「新型コロナウイルスの拡大に伴って相続放棄の熟慮期間の延長が可能に」とのタイトルで記事を公開しましたが、熟慮期間の延長措置は従前から設けられているものであり、新型コロナウイルス感染症により新たに設けられた措置ではありません。上記の記事は、4月3日に公開した記事の内容を修正して公開したものです。誤解を招く表現がありましたことについて、お詫びいたします。(2020年4月14日現在)