目次

  1. 1. 【事例】同居していた父が亡くなると、妹に使い込みを疑われた
  2. 2. 財産の使い込みに該当するケースは
  3. 3. 使い込みを疑われたときの反論
    1. 3-1. そもそも自分は預金を引き出していない
    2. 3-2. 金を引き出したが被相続人の治療費等の目的で使われた
    3. 3-3. 被相続人が生前、自分にくれたお金である
  4. 4. 財産の使い込みを疑われないために

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会社員男性(55)。千葉市で専業主婦の妻(53)と実父(87)との3人暮らし。1カ月前、同居している実父が亡くなった。実父は足腰が悪かったり、すい臓がんの手術を何度か受けたりしているため、10年前から長男である男性が実父と同居し、介護サービスや妻の助けも借りながら世話をしてきた。

亡くなる1年ほど前から、実父は認知症の症状が出はじめ、入退院も繰り返していた。妹(50)が札幌市にいるが、昔から兄妹は仲が悪く、数十年疎遠となっていたが、実父の葬儀で久しぶりに再会した。葬儀後、妹から遺産を分ける話を持ち掛けられた。男性が実父の預貯金を管理していたため、実父の預貯金残高を妹に教えると、預金額が思っていたより少なかったためか「お父さんと同居していたから、預貯金を使い込んでいたのではないか?」と言いがかりをつけられた。

入院中だった実父に頼まれて入院費や治療費を引き出したり、頼まれた本を買うためお金を下ろしたことはあったが、実父の預貯金を自分のために使ったことはない。妹の突然の言いがかりにどのように反論すればよいのか分からず憤りを感じている。

被相続人の財産の使い込みとなるのは、被相続人の預貯金を無断で引き出し、かつその引き出した預貯金を自己の利益のために隠匿ないし領得した場合です。

例えば、被相続人の財産が使い込まれている場合の典型例は、認知症の親と同居している子どもやその配偶者が、親のお金を使って勝手に自分の車を購入したりするなど自分のためにお金を使う場合です。また、被相続人の生前だけではなく、被相続人が死亡した後に、被相続人の預貯金を引き出して、自己の借金の返済に充てるなどの行為も被相続人の財産の使い込みに当たります。

被相続人の預貯金が使い込まれていた場合は、相続人が不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権を主張し、預貯金を使い込んだ者にお金の返還を求めることができます。もっとも、被相続人の生前に、被相続人の財産が使い込まれた場合であっても、被相続人の生前は、その使い込まれたお金を返還するよう主張できるのは、お金を使い込まれた本人だけです。

被相続人が死亡し、相続が発生したときにはじめて相続人は、自己の法定相続分に従って、被相続人の預貯金を使い込んだ者に使い込んだお金を返すよう請求することができます。

被相続人の預貯金を使い込んでいないにもかかわらず、使い込みを疑われてしまった場合は、どのように反論すればよいのでしょうか。例えば、以下のような抗弁が考えられます。

被相続人が生前にある程度自分で生活ができており、判断能力もあったのであれば、同居の家族が引き出したということ自体が否定されることもあります。被相続人の預貯金の払い戻しが窓口で行われていたのであれば、払戻請求書の筆跡やメモから被相続人本人が預金を引き出したか判明することもあります。

しかし、被相続人が生前、認知症などで判断能力が著しく低下していたり、寝たきり状態である場合は、同居の家族など近しい人が被相続人の金銭管理をしていたといえる可能性が高まります。

冒頭のケースでは、仮に実父の入院時に実父の預金口座から1000万円が引き出されていたというような場合は、実父と同居し世話をしていた家族の関与が認定されやすくなるでしょう。

被相続人の財産の使い込みを疑われた場合に問題となることが多いのが、被相続人の預貯金を引き出したものの、それは被相続人の日用品を購入や、入院費を支払うために使われたなど被相続人のために使われたかということです。入院費や治療費などは領収書があるもしくは再発行できることも多いですが、実際には日用品の購入や生活費の支給など被相続人のために使われていたとしても、領収書が残っていない場合も多くあります。

では、領収書が残っていないから、そのお金を返さなければならないのかというと必ずしもそうではありません。日用品であれば、被相続人から日用品の購入を頼まれても不自然ではない関係性があり、金額が常識的であれば問題はありません。

また、被相続人の生活費の支給のために毎月数十万円が引き出していた場合であっても、被相続人の生活実態とバランスが取れていれば問題はないとされる傾向にあります。例えば、被相続人がお金持ちで生前に高級な服をよく買っていたなどという事情があれば、毎月50万円程の高額な生活費が引き出されていてもバランスが取れているといえる場合もあります。

使い込みを疑っている立場からすると、毎月被相続人の預貯金が少しずつ出金されている場合は、使い込みを立証するのは難しくなるでしょう。冒頭のケースにおいても、兄やその妻が実父の預貯金を引き出し、実父のためにそのお金を使ったということについて、領収書が存在するか使途について合理的な説明がつく場合は、使い込みとされない可能性が高いです。

被相続人の預貯金1000万円を引き出したが、それは被相続人から贈与されたものであるという反論が相続人の一人からあった場合は、特別受益の問題となります。つまり、冒頭のケースでいうと、兄は実父の預貯金から1000万円を引き出したが、それは実父が認知症になる前に贈与されたものであると妹に主張すると、実父の遺産を分ける際に、兄は1000万円の遺産を先にもらったという扱いを受け、兄の遺産の取り分が減ることになります。そのため、贈与された金員であると主張する場合は、特別受益に留意すべきでしょう。

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では、冒頭のケースでは、被相続人の財産の使い込みを疑われないために兄や妻はどのような手段が取れたでしょうか。ひとつは、領収書やメモなどの使途を明確又は合理的に説明できる証拠を出来るだけ残しておくということです。ほかにも、任意後見契約などを利用し、同居の家族が任意後見人となり、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもと、本人の財産を任意後見人が管理するという体制をとるという方法も考えられます。

もっとも、使い込みを疑われる前に、事前にこれらの方策を取っておくということは現実には難しいと思います。ほかの相続人から使い込みを疑われた場合は、早めに弁護士にご相談ください。

(記事は2021年3月1日現在の情報に基づきます)

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