目次

  1. 1. 相続税のかかった被相続人は全体の約8.3%
  2. 2. 1500万円までの死亡保険金は相続財産としてはゼロとしてカウント
  3. 3. 支払えない場合の対処法
  4. 4. どの手段を選べばいいのか

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まず、相続税が「かかる」人は、そんなに多いわけではありません。令和2年12月に国税庁が発表した「令和元年分 相続税の申告事績の概要」を見ると、令和元年分の相続税の申告では、被相続人(亡くなった人)の数が約138.1万人で、そのうち相続税のかかった被相続人は約11.5万人だったようです。つまり、課税割合でいえば約8.3%、亡くなった人12人のうち1人が相続税の負担が必要になるという計算です。したがって、ものすごく少ないわけではありませんが、多くはないといえるでしょう。一般的なサラリーマン世帯では、あまり関係ないのが相続税といえそうです。

このような状況になっている最も大きな要因は、相続税の基礎控除が比較的大きいということが挙げられます。相続税の基礎控除は、税制改正によって平成27年分から引き下げられましたが、改正後であっても「3000万円+法定相続人の数×600万円」という大きな金額が基礎控除として認められています。

例えば、4人家族のお父さんが亡くなったとすると、お母さん(配偶者)と2人の子どもの3人が法定相続人となりますので、相続税の基礎控除は、以下のようになります。
3000万円+3人×600万円=4800万円
亡くなったお父さん名義の財産が、4800万円を超えていなければ相続税はかからないということです。さらに、お父さん名義の財産のカウント方法にも優遇が受けられる場合があります。

現金・預金や金融商品は基本的には亡くなった時点での時価となります。厳密には、上場株式だと、1亡くなった日の終値、2亡くなった月の終値の平均、3亡くなった前月の終値の平均、4亡くなった前々月の終値の平均、といった1~4のうちの最も安い株価で評価するなどの金融商品ごとの決まりはあります。

土地については、路線価方式または倍率方式で評価額が計算されます。路線価は、公示価格の80%程度とされています。実際に売買されている価格よりも低めに評価してもらえるということです。また、自宅や事業用の土地(宅地)については、一定の広さ(330平方メートルや400平方メートル)までの部分については80%評価額を下げてもらえる特例(小規模宅地等の特例)もあります。この特例が使えると、例えば、自宅の土地が1億円の評価額だったとしても、80%減額されて、2000万円で評価されるということです。ちなみに、建物部分は固定資産税評価額で評価されます。

なお、お父さんが亡くなったことによって、相続人(お母さん、または子ども)が受け取った死亡保険金や死亡退職金は、お父さん名義ではなく、受け取った相続人名義のお金になりますが、税法上は「みなし相続財産」として相続財産とみなされることになっています。
その代わり、死亡保険金と死亡退職金のそれぞれに対して「法定相続人の数×500万円」という非課税枠が用意されています。つまり、法定相続人が3人であれば、1500万円までの死亡保険金と1500万円までの死亡退職金なら、相続財産としてはゼロとしてカウントされるということです。

このようなことから、お父さんなどの亡くなった人が、不動産は持っていてもマイホームだけ、現金・預金や金融商品はそれほど多額には持っていない場合は、相続税がかかる可能性はかなり低めだと言えるわけです。逆に言えば、不動産を複数持っている、現金・預金や金融商品を複数持っている、そして、それらの時価の合計額が1億円以上あるような場合は、相続税がかかる可能性が高いと考えられます。

ただし、亡くなった人がそのようなプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(ローンなどの借金、債務)がある場合は、相続財産から差し引きます。例えば、1億円の財産があっても、1億円の借金がある場合は差し引きゼロになるということです。

なお、細かい話ですが、亡くなる3年以内に贈与された財産と、相続時精算課税制度で贈与された財産があった場合は、その贈与財産の価格(贈与時点のもの)が相続財産に加算されることになっています。

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前置きが長くなりましたが、ここからが今回の本題です。相続税がかかる場合、その支払い期限は相続税の申告期限と同じ、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内」です。ちなみに、相続財産が基礎控除の範囲内の場合は、申告も納税も必要ありません。ただし、「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」を利用する場合は、相続税がゼロであっても申告をする必要があります。そして、相続税額の支払い方法は、「金銭一括納付」が原則です。申告期限までに一括で納めなければならないということです。

しかし、一括では支払えないケースも考えられます。代表的なのが、相続財産が不動産ばかりで現金・預金が少ないとか、申告期限までに遺産分割が終わらず、銀行口座が凍結されたままで遺産から支払うことができないなどといったケースです。対処の方法としては、1延納、2物納、3遺産の売却、4金融機関から借りる、5相続放棄、などが考えられます。

「延納」は、分割して納めるものです。以下の要件をすべて満たす場合に申請できます。
(1) 相続税額が10万円を超えること。
(2) 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内であること。
(3) 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。
 ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。
(4) 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
国税庁HPより

延納は、最長20年に分割して納めることができますが、その間、利子税がかかりますので、トータルで納める金額は増えてしまうことになります。

「物納」は、相続税額を延納によっても金銭で納めることが困難な場合に、モノで納めることを認められるものです。以下が、物納財産の順位です。
第1順位 
1 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)
2 不動産及び上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第2順位 
3 非上場株式等(特別の法律により法人の発行する債券及び出資証券を含みますが、短期社債等は除かれます。)
4 非上場株式のうち物納劣後財産に該当するもの

第3順位
5 動産

(注)
1 後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合及び先順位の財産に適当な価額のものがない場合に限って物納に充てることができます。
2  特定登録美術品(美術品の美術館における公開の促進に関する法律第2条第3号に規定する登録美術品で相続開始の時において既に登録を受けているものをいいます。)については、上記の順序にかかわらず一定の書類を提出することにより物納に充てることができます。
国税庁HPより

ただし、物納する財産の評価額は、相続税評価額になりますので、不動産の場合は時価よりも低くなる可能性が高く、特に小規模宅地等の特例などによる評価減後の価格で評価される点には注意が必要です。そのような場合は、「遺産の売却」のほうが有利かもしれません。特に、相続財産に不動産が多い場合は有効でしょう。ただし、不動産の売却の場合は、立地条件等が悪いと、思ったような価格で売れない、売るのに時間がかかるなどの注意点もありますので、早めに動き出すことが重要でしょう。

「金融機関から借りる」については、積極的にはおすすめしませんが、確実に返済できる見込みがあるのであれば、選択肢の一つとして検討してもよいと思います。

「相続放棄」については、被相続人が亡くなってから3ヵ月以内に決める必要があるのと、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続しないということを決めるものなので、冷静に判断すべきでしょう。ただし、受取人になっている死亡保険金などは受け取ることができます。

どの方法が最も有利かはケースバイケースなので一概には言えません。どのみち納税しなければならない相続税額なのであれば、一括納付できる方法を探るのが一番かと思います。
とはいえ、相続開始前(被相続人が亡くなる前)と相続開始後(亡くなった後)で比べると、圧倒的に相続開始前のほうが相続対策として打てる策は多くありますので、なるべく早いうちから相続に詳しい税理士さんに相談しておくべきでしょう。早いうちから相続対策をしておくことで、相続の手続きがスムーズにいくだけでなく、相続税額自体の負担を軽くすることもできるはずです。

(記事は2021年3月1日現在の情報に基づきます)

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