【保存版】7ステップの相続税の計算式 税率は個人が相続した財産額で決まらない
相続税対策が注目を集めている一方、意外と知られていないのが「相続税の税率」です。相続税を低く抑えるには課税される財産を少なくするだけでなく、税率の構造を知っておくことが必要です。相続税の税率の基本的な仕組みを理解して、どのように納税額に影響するのかを、税理士がわかりやすく解説します。
相続税対策が注目を集めている一方、意外と知られていないのが「相続税の税率」です。相続税を低く抑えるには課税される財産を少なくするだけでなく、税率の構造を知っておくことが必要です。相続税の税率の基本的な仕組みを理解して、どのように納税額に影響するのかを、税理士がわかりやすく解説します。
目次
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まずは、相続税の税率を見ていきましょう。
相続税は所得税や贈与税と同じく金額が多ければ多いほど高い税率が適用される「累進課税制度」を採用しています。
●相続税率は次のように10%から55%までの8段階で構成
つまり、「相続で取得した財産が少なければ低い税率が、たくさん取得すれば高い税率が適用される」わけです。「多くもらった人には高い税率で税金を納めてもらい、あまりもらっていない人には少ない税率で負担を軽くする」という仕組みは所得税や贈与税と同じです。ただ、違いが一つあります。それは、「『それぞれがもらった財産×相続税率』で計算しない」という点です。
「もしも相続人たちが法定相続分で相続したら」という仮定の下で計算
「自宅の土地建物の評価額がざっと見積もって1億5000万円なんだけど…親の生前の借金や税金を払ったのに40%も税率がかかるの?」
上記の税率の一覧表を見て、このように感じる人もいるかもしれませんが、相続税率を掛ける対象となる財産はその人が相続した財産そのものではありません。先ほど紹介した相続税率は、「もしも法定相続分で相続したら」を前提にしたときの相続税額の仮計算で使います。先ほどの疑問に返答すると「1億5000万円×40%があなたの納税額になるのではない」となります。相続税の計算は、所得税や贈与税に比べて少し複雑なのです。
相続税計算の流れは「分ける→まとめる→分ける」の繰り返し
では、相続税計算の全体の流れを見てみましょう。相続財産の評価から実際の納付額までの計算のイメージを一言で表すと「分ける→まとめる→分ける」の繰り返しです。具体的には、次のようになっています。
ステップ1:財産を取得した人ごとに課税価格を計算する(分ける)
ステップ2:全員の課税価格を合計する(まとめる)
ステップ3:課税の対象となる正味の遺産総額(課税遺産総額)を計算する(まとめる)
ステップ4:相続人1人あたりの法定相続分の課税遺産額を計算する(分ける)
ステップ5:法定相続分に応じた仮の相続税額を計算する(分ける)
ステップ6:相続税額を全部合計する(まとめる)
ステップ7:取得した財産に応じた本当の相続税額を計算する(分ける)
ここから、それぞれのステップについて見ていきます。なお、計算の各ステップを理解しやすくするために、次の事例を用います。
【事例】
・6億円の課税価格となる財産を相続する。
・財産を取得する人の構成は被相続人の妻と3人の子ども
・財産の取得割合(課税価格ベース)は「妻:長男:次男:三男=5:3:2:0」
まず、相続や遺贈、相続時精算課税制度の適用を受ける贈与で故人の財産を取得した人それぞれについて、課税価格を計算します。
課税価格とは平たく言うと「その人が取得した正味財産の価額」です。引き継ぐ財産には預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産もあります。また、非課税財産や葬儀費用、亡くなる日前の3年間に贈与された財産も加味しなくてはなりません。
相続や遺贈、相続時精算課税制度の生前贈与で財産をもらった人の課税価格を全員分合計し、正味の遺産総額を算出します。
なお、この正味の遺産総額が後述する基礎控除額を下回っていると、相続税はかかりません。
課税価格の合計額から、相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引き、課税遺産総額を計算します。
相続税の税率はこの課税遺産総額に対してかけられるわけですが、「9億4600万円×相続税率」で計算するわけではありません。次のステップ4で、課税遺産総額を法定相続分で分けた後、相続税率を掛けます。
課税遺産総額を法定相続分で相続人に振り分けます。この法定相続分とは「遺言書や遺産分割協議で遺産の分け方を決めない場合に用いる民法が定めた親族の財産の取り分」をいいます。こちらは民法上、次のようになっています。
事例のように、妻1人子ども3人が相続人の場合、法定相続分で課税遺産総額を分けると次のようになります。
この段階ではじめて冒頭でご紹介した相続税の税率を用いて、相続税額を計算します。ただし、この相続税額は本当に納税すべき金額ではありません。「もしも民法の法定相続分で遺産分割をしたならば」を前提とした相続税額の仮計算となります。
ステップ5で計算した相続税額を、いったんすべて合計します。後で実際の財産の取得分に振り分け、正しい相続税額を算出するためです。
最後に、それぞれが取得した相続分に応じて、本当の相続税の納税額を算出します。「相続税の合計額×その人の課税価格/課税価格の合計額」が計算式です。
さらに、財産を取得する人の立場や状況に応じて、税額に一定額を足したり引いたりします。
足すもの、引くものは次の通りです。
【相続税額に足すもの】
・相続税額の2割加算(財産を取得する人が配偶者・父母・子以外であるとき)
【相続税額から引くもの】
・配偶者の税額軽減
・暦年課税分の贈与税額控除
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
・外国税額控除
・相続時精算課税分の贈与税額相当額
ここまでを図にすると、次のようになります。
こうしてみると、相続税の計算は所得税や贈与税よりもはるかに複雑なことが分かります。なぜこのようになっているのでしょうか。それは、課税の公平を図るためです。
もし、取得した財産額から直接相続税額が計算できるようにしてしまうと、遺言書や家族内での話し合いでいくらでも課税逃れができてしまいます。下図で比較すると分かりますが、法定相続分で分けるか、3分の1ずつ分けるかで、税額が500万円も違ってしまうのです。世帯によっては、配偶者の税額軽減を使って妻にすべての財産を取得させて相続税額を0円に近づけた後、後日、身内で財産を配分するという相続税逃れが起きるかもしれません。
このような不公平をなくすために、税金計算の段階では一度法定相続分という一律のルールを適用し、その後で取得した財産額に応じて相続税を配分しているのです。
繰り返しになりますが、相続税の計算方法は複雑です。「手に負えないな」と感じたら、税理士など専門家に相談するのがよいでしょう。
(記事は2020年6月1日時点の情報に基づいています)
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