目次

  1. 1. 同時死亡の推定とは
  2. 2. 同時死亡の推定と代襲相続
  3. 3. 遺言書を残していた場合
  4. 4. 同時死亡が覆った場合の効果
  5. 5. 同時死亡が推定される場合は保険金は誰に支払われる?
  6. 6. まとめ

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事例

夫(80歳)と長男(50歳)が休日に車で温泉旅行に出かけた際、不運にも交通事故に遭い、救急車が到着したときには二人とも亡くなっていました。夫と長男のどちらが先に亡くなったかも不明です。
この場合、残された妻(75歳)は誰の財産をどのように相続するのでしょうか。長男は夫の相続人のはずですが、長男と夫の死亡の先後が不明な場合、夫と長男との間の相続関係はどうなるのでしょうか?

同時死亡の推定とは、複数人が何らかの原因で死亡し、これらの者の死亡時期の前後が不明な場合に、これらの者が同時に死亡したものと推定する制度をいいます(民法第32条の2)。
なお、今回の事例の場合でいうと、もし夫が救急車で搬送中に死亡し、長男が搬送先の病院に着いた後に死亡したというような夫と長男の死亡の前後が明らかである場合は、同時死亡の推定は適用されません。

では、同時死亡の推定が適用される場合、相続がどのようになされるか順を追って解説していきましょう。
まず、相続においては、どちらが先に死亡したかということが、大きな差をもたらすことがあります。例えば、今回の場合、仮に夫と長男の死亡の前後が明らかであったとすると、相続関係はどのようになるでしょうか。

①夫が先に死亡した場合
夫の財産は妻に1/2、長男に1/2相続される。

次に長男の死亡により、長男の財産は親である妻が相続する。

つまり、夫が長男より先に死亡した場合は、夫の財産も長男の財産も全て妻が相続するということになります。

②長男が先に死亡した場合
長男の財産は、親である夫と妻に1/2ずつ相続される。

次に夫の死亡により、夫の財産は妻に2/3、夫の両親にあわせて1/3相続される。

つまり、長男が夫より先に死亡した場合は、妻が夫や長男の財産を全て相続できるわけではありません。
このように相続においては、どちらが先に死亡したかということが、大きな影響を与えることがあります。

では、今回の事例のように夫と長男のどちらが先に亡くなったかが不明の場合はどのように処理されるのでしょうか。この場合は、夫と長男の間では、相続が発生せず、それぞれについて、子なり長男なりがいないものとして相続を考えるということになります。
この場合では、夫の財産は、長男がいないものとして相続を考えるので、妻に2/3、夫の両親に1/3が相続されるということになります。また、長男の財産は、夫がいないものとして相続を考えるので、妻に長男の全ての財産が相続されることになります。

代襲相続とは、相続人となる者が相続開始以前に死亡したり、相続欠格(遺言書を偽造した場合など)、排除(亡くなった方を虐待していた場合など)によって相続権を失ったりした場合、その相続人の直系卑属(孫やひ孫など)がその相続人に代わって相続することを言います。
そして、同時死亡の推定が適用される場合であっても、代襲相続は発生します。
例えば、仮に今回の事例の場合に長男に妻と子がいた場合のケースを考えてみましょう。

この場合、夫の財産を誰に相続させるかを考えるときは、長男をいないものとして扱いますので、夫の財産は孫である長女に引き継がれる(代襲相続される)こととなります。
なお、長男の財産を誰に相続させるかを考えるときは、長男の妻と子(長女)が1/2ずつ長男の財産を相続することになります。

では、今回の事例の場合、例えば、夫が「長男に全財産を相続させる」旨の遺言を残していた場合はどうなるのでしょうか。
上記の通り、夫の財産を誰に相続させるかを考えるときは、同時死亡の推定が適用される場合、妻に2/3、夫の両親に1/3の財産が相続され、遺言の内容とは異なるのでどうすれば良いかという問題が生じます。

この場合は、夫が上記のような遺言を残していた場合であっても、遺言を残した人の死亡時に、遺言により財産を受け取る人が生きていなければ遺言の効力は生じません。
そのため、同時に死亡したことが推定される場合は、この遺言の効力は生じず、
夫の財産は、妻に2/3、夫の両親に1/3相続されるということになります。

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「同時死亡の推定」はあくまで「推定」ですので、別々のタイミングで死亡したという証拠を示せれば、この推定を覆すことができます。

今回の事例の場合、証言または何らかの根拠資料などにより、夫が先に死んだことが判明し、後に同時死亡の推定が覆ったとすると、妻は夫や長男の財産を全て相続できることになりますので、夫の両親に不当利得返還請求できるということになります。

生命保険において保険契約者と受取人が同時に死亡したと推定される場合、判例上、生命保険金は、保険契約者(兼被保険者)の相続人ではなく、受取人の相続人が死亡保険金を受け取ることができます。

つまり、生命保険金は、受取人固有の財産になりますので、受取人の相続人のみが相続の対象となるということです。

上記のように親子などの親族の死亡時期の先後が不明である場合は、相続関係が複雑になりやすいです。迷ったときには早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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