目次

  1. 1. 巨額相続は決してレアケースではない
  2. 2. 預貯金に潜む3つのリスク
  3. 3. リスクに備えるための「守り」の手段
  4. 4. 冷静にリスク・リターンを判断できる力を養う

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2019年に国税庁が公表した「平成30年分相続税の申告事績の概要」によると、1年間で亡くなった人のうち相続税がかかった人の割合は8.5%でした。おおよそ12人に1人が相続税の負担が必要になるレベルの財産を残したことがわかります。相続税の申告が必要だった被相続人(亡くなった人)1人当たりの課税価格は約1億4000万円で、相続税額は約1800万円。ということは、相続人が2、3人なら、1人当たり数千万円の遺産を受け取っていてもおかしくはない計算になります。

そのような数千万円から数億円の遺産をもらう人が、約12人に1人の被相続人に対して数人程度いるわけですから、人数的にはごく少数というよりも、意外と普通にいるのではないかと思われます。実際に私も、過去何人か数億円の遺産の運用について相談を受けたことがあります。では、数千万円から数億円、またはそれ以上の遺産を相続した人は、その財産をどのように運用したらよいのでしょうか。

重要な結論から言うと、まずは「守り」から考えることです。資産運用というと、とかく「増やす」こと、つまり「攻め」の運用から考えがちですが、まとまった金額だからこそ、「守り」をしっかりと固めることが大切だと思います。ですので、基本的には預貯金でもいいのです。ただし、預貯金には次の3つのリスクがあるので、遺産の全額を預貯金にしておくのはおすすめしません。

インフレ・リスク
例えば、2019年の物価上昇率は、消費者物価指数で見ると前年比+0.5%でした。一方、1年満期の定期預金の金利は多くの銀行が0.01%でした。ということは、お金は0.01%しか増えなかったのに、モノの値段が0.5%も上がってしまったのです。これが、物価上昇(インフレ)によってお金の実質的な価値が下がる状態です。

円安リスク
円の為替レートが諸外国の通貨に対して円安になっていくことで、円建てのお金の価値が相対的に下がっていくこともリスクと考えられます。日本は自給自足ができる国ではないので、さまざまな製品や原材料を輸入に頼っている部分があります。大幅な円安局面がやってくると、保有している円建ての財産の価値が相対的に下がってしまうわけです。

金融機関の破綻リスク
預けている銀行が破綻しても、1000万円までなら大丈夫です。正確に言えば、普通預金や定期預金などの預金保険による保護の対象となっている預金の場合、1つの金融機関につき1人当たり元本1000万円とその利息が保護されます。しかし、その金額を超える部分については、金融機関の破綻時の財産状況によっては、一部または全部が戻ってこない可能性があるのです。まとまった金額の預金を1つの銀行などに集中させている場合はリスクがあると言えるでしょう。

では、これらのリスクに備えるための「守り」はどのように考えるか。それぞれ具体的に見ていきます。

インフレ・リスクに備えるためには、昔から「財産三分法」という考え方がありました。昭和の時代のお金持ちの人たちは、高度経済成長期の物価上昇によるお金の価値の減少に対応するため、「お金があったら、預貯金だけでなく、株式や不動産を持つべし」と言っていたのです。実際に、物価上昇率よりも高い率で株式や不動産の価値が上がりましたので、お金の価値の減少に備えることができたわけです。

現在は、当時に比べれば物価上昇率はかなり低いレベルです。インフレ・リスクを気にする必要性さえないかもしれません。しかし、日本銀行が年2%のインフレターゲットを設定して金融政策を行っている限り、物価は持続的に上がっていく可能性があります。まとまった金額のお金があるなら、多少は備えておいたほうが無難でしょう。

利用を検討すべき商品としては、国内のインフレに備えるわけなので、国内株式と国内不動産が優先順位の上位となります。ただし、株式の個別銘柄や実物不動産はリスクが高いので、まずは、投資信託を利用して国内株式全般、国内不動産全般を間接的に保有するのが無難だと思われます。具体的には、東証株価指数(TOPIX)に連動するインデックスファンドやETF、東証REIT指数に連動するインデックスファンドやETFを比較検討し、コスト負担の軽いものを選ぶのが無難です。個別株式や個別REIT、実物不動産は、それらのファンドを保有してからでも遅くはありません。まずは無難な商品から利用していきましょう。

将来的な円安リスクに備えるには、外国債券や外国株式、外国REIT(不動産)が有効です。とはいえ、いきなり外国債券や外国株式、外国REITの個別銘柄を買うのではなく、まずは投資信託で世界中の債券や株式、REITを保有しようとするスタンスが無難でしょう。

近年は、先進国だけでなく新興国の債券や株式で運用しているファンドもありますので、先進国や新興国など幅広い国々の債券や株式を間接的に保有することができます。比較検討しながら、コスト負担の軽いものを選ぶとよいでしょう。個別債券や個別株式、個別REITについては、それらのファンドを保有してからでも遅くはありません。無難な商品を優先しましょう。

最後に金融機関の破綻リスクに対する備えです。元本1000万円とその利息を超える部分については、預金保険による保護がないので、預貯金を利用するなら1000万円以内にして、複数の銀行等に分けておくのが得策です。とはいえ、例えば1億円を10行の銀行に分けるのも大変でしょう。対策としては、2つの方法があります。

1つ目は、「無利息」「要求払い」「決済サービス提供」という3つの条件を満たした決済用預金を利用する。これなら金額にかかわらず全額が保護されるようになっているからです。ただし、まったく利息がつかないので個人的にはおすすめしません。

2つ目は、証券商品(債券、株式、投資信託など)を利用する。主に証券会社が取り扱っているこれらの商品は、預金ではないので、買った人のものとして証券会社の財産とは分別管理されています。つまり、金融機関が破綻しても直接的な影響は受けないのです。例えば、預金よりも安全な商品としては、日本の国債があります。現在、普通の国債は10年満期でも利回りが0%近辺なので、魅力が下がってしまいましたが、個人向け国債なら最低保証されている金利0.05%がありますので、定期預金よりは多少マシで、安全性はピカイチです。個人向け国債の変動10年なら、将来の金利上昇や物価上昇にも備えながら保有することができるでしょう。

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コスト負担の軽い無難な商品は、多くの証券会社で取り扱っています。自分で探して自分で購入することができますので、少しずつ勉強しながらさまざまなものに分散投資をしていくようにしましょう。とはいえ、専門家に任せてしまったほうが楽だ、と思う人もいるかもしれません。そのような場合は、信用できる専門家を探すことが最も重要になります。手前味噌ではありますが、私のような相談料のみで相談を受け付けているFPであれば、相談料以外の費用負担は発生しません。金融商品や保険商品の販売による手数料を得ていないので、手数料が割高な特定の商品だけをすすめるようなことはありません。もちろん、販売による手数料を得ているFPのすべてがよくないわけではありません。お客さまのためにキメ細やかなワンストップサービスを展開している良心的なFP会社もたくさんあります。重要なのは、それらをきちんと見極めることでしょう。

見極める簡単な方法としては、複数のFPや複数の専門家に相談し、アドバイスを受けるところを1ヵ所に限定しないことです。複数人のFPや専門家からアドバイスを受けると、多少なりとも内容の異なるアドバイスを受けるはずです。それを総合して自分で判断するようにしていけば、大けがをすることなく財産を守っていくことができるでしょう。

なお、遺産の中に実物不動産がある場合は、複数の不動産業者からもアドバイスをもらって、どのように管理、運用していくかを検討していくのが無難です。また、信頼できる税理士や会計士などとも知り合っておくことも重要でしょう。不動産の有効活用のやり方によっては税負担も大きく異なってきますので、税理士や会計士からのアドバイスもいろいろと聞いてみるべきです。

ちなみに、まとまった金額の遺産があるほど、金融機関や不動産業者がどんどんアプローチをしてくるはずです。中には、見た目がとても有利そうな商品を提案してくることもあるでしょう。そのときに冷静にリスク・リターンを判断できる力を、少しずつでも養っていくことが重要になります。資産があればあるほど、金融リテラシーを学んでおくことが財産を守ることにつながりますので、そのことを是非とも忘れないでください。

(記事は2021年1月1日現在の情報に基づきます)

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