相続税対策に不動産・賃貸経営が役立つ理由 仕組みと注意点を解説
不動産の評価方法の仕組みを利用することで、相続税を節税することができます。ただし、過度な相続税対策が税務上認められない場合もあり、さらに不動産賃貸経営に関する各種リスクにも十分注意する必要があります。今回は、不動産を用いた相続税対策の主な方法と、注意点やリスクをまとめました。
不動産の評価方法の仕組みを利用することで、相続税を節税することができます。ただし、過度な相続税対策が税務上認められない場合もあり、さらに不動産賃貸経営に関する各種リスクにも十分注意する必要があります。今回は、不動産を用いた相続税対策の主な方法と、注意点やリスクをまとめました。
目次
不動産が相続税対策に有効なのは、課税対象となる不動産の時価の評価方法に理由があります。以下に示すように、現金より不動産のほうが評価額が下がるからです。
相続税の課税対象となる土地の時価は、適正な市場価格水準(地価公示価格)よりも約20パーセント低く設定されている相続税路線価ベースで評価されます。そして、土地所有者が土地上の建物も所有しており、かつ、建物が賃貸されている場合には貸家建付地の評価減(財産評価基本通達26)の適用もありますので、さらに評価額が下がります。
相続税の課税対象となる建物の時価は、3年ごとに評価替えされる基準年度における固定資産税評価額で評価されます。建物の固定資産税評価額は新築時に1回評価され、その後3年ごとの評価替えで経年減価等が反映され減額されていきますが、新築時の評価額は実際の建築費の約60パーセント程度の場合が多いといわれています。そして、建物が賃貸されている場合には貸家の評価減(財産評価基本通達93)の適用もありますのでさらに評価額が下がります。
1.財産の組み換え(現金→収益物件)による対策
適正な市場価格水準や実際の建築費より評価額が下がるという不動産の評価方法に着目し、生前に財産の組み換え(現金→収益物件)を行うことが相続税対策になります。
ここでは以下に、2つのパターンをご紹介します。どちらも、表中の収益物件の相続税評価額は、あくまでも満室稼働で貸家建付地の評価減や貸家の評価減の適用を前提とした試算値ですが、そのまま現金で持ち続けている場合と比べて評価額が下がっているのがイメージいただけると思います。
≪パターン1:収益物件(土地建物)を購入する方法≫
現金2億円を所有している方がそのまま亡くなった場合と、生前に1億円の収益物件を購入したのちに亡くなった場合とで財産の相続税評価額を比較すると、以下の通りです。
≪パターン2:地主が所有する土地上に賃貸アパートを建てる方法≫
既に未利用の宅地を持っている地主がそのまま亡くなった場合と、生前に当該宅地上に賃貸アパートを建てた場合とで財産の相続税評価額を比較すると、以下の通りです。
2.生前贈与による相続税対策
財産の組み換え(現金→収益物件)により相続税評価額を引き下げることはできますが、不動産所有者に不動産賃貸業から生じる利益(家賃収入-必要経費)相当の現預金が蓄積し、相続税の課税対象が増えてしまいます。
そこで、贈与税の非課税枠110万円を利用して生前に現預金をご子息に贈与する方法があります。
また、収益性が非常に高い不動産を所有している場合には、贈与税の非課税枠110万円の範囲内で毎年贈与していてもどんどん不動産所有者の現預金が増えてしまいますので、相続時精算課税制度を選択して収益物件自体を生前にご子息に贈与する方法も考えられます。こうすることで、贈与後の家賃収入がご子息に入るようになり、元不動産所有者の方の現預金がどんどん増えるのをストップさせることができます。
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対する贈与について選択できる制度です。仮に、収益物件の相続税評価額が1億円とすると、相続時精算課税制度による贈与税額は以下の通り1500万円と計算されます。
(収益物件の相続税評価額1億円※-特別控除2500万円) × 税率20パーセント = ご子息が負担する贈与税額1500万円
※入居テナントからの預り敷金等の債務付きの負担付贈与ですと相続税評価額ではなく市場価格水準の高い時価で評価されてしまいますので、預かり敷金相当の現金も同時に贈与するなど、負担付贈与に当たらないように注意が必要です。
相続時精算課税制度で贈与された収益物件は、贈与者の死亡時に相続財産として足し戻されますが、贈与を受けたご子息が納税した贈与税は相続税の計算上控除することができます。2500万円という大きな特別控除がある点と、税率が一律20パーセントというのが特徴ですが、一度この制度を選択するとその贈与者からの贈与に関しては110万円の非課税枠は使えなくなるので注意が必要です。
1.土地の減価要因を漏らさず把握して評価額を下げる
土地の評価に当たっては、机上調査だけでなく現地調査や役所調査を行うことで、その土地固有の減価要因(間口が狭い、奥行が長い、不整形等)が見つかり評価額を下げることができる場合が多くあります。逆に言えば、しっかりと現地調査や役所調査を行わずに机上調査だけで評価してしまうと、過大評価となりかねませんので注意が必要です。
2.小規模宅地等の特例の適用を検討する
例えば、被相続人の貸付事業(不動産貸付業等)の用に供されていた宅地で、事業承継要件、及び、保有継続要件を満たす被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した部分は、貸付事業用宅地等として特例の対象となります。この場合、相続税の課税対象となる金額が、200平方メートルを限度に50パーセント減額されます。
ただし、この貸付事業用宅地等の特例を受けるために生前に駆け込みで賃貸アパートを建てたりするケースが問題視され、平成30年度税制改正で相続税開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された敷地は、原則として本特例の適用を受けられないこととなりましたので注意が必要です。
不動産を用いた相続税対策の中でも一番オーソドックスな方法として、現金から収益物件への財産の組み換えの例をご紹介しましたが、どんな手法でも目先の相続税の節税だけにとらわれ、不動産賃貸経営に全く無関心だと以下のような思わぬリスクが生じます。
被相続人が生前に相続税の節税目的で多額の借入により取得した収益物件2棟の相続税申告における評価額について、相続人らは財産評価基本通達に基づき貸家・貸家建付地の評価減を適用して評価したところ、税務署から財産評価基本通達によることができない特別の事情があるとして、鑑定評価により評価すべきとされた事例があります(令和元年8月27日東京地裁)。
不動産賃貸経営においては、コストをかけ不動産を定期的にメンテナンスし維持管理していかないと、空室が増加し、固定資産税等の固定費の支払いや、不動産を借入金で取得している場合には利息の支払いも滞ってしまいます。さらに、リーマンショックや新型コロナウイルス感染症等、未曾有の経済情勢の悪化に伴い、家賃の値下げ、テナント退去、売りたくても売れないといったリスクもあります。
不動産を用いた相続税対策を行う場合には、ご本人やご子息が不動産賃貸経営を行う覚悟と事業目的(ビジネスパーパス)をもち、事業継続に細心の注意を払う必要があります。そのうえで、不動産に関する税務に関しては税理士に相談するほうがいいでしょう。ただし、税理士は不動産賃貸経営のプロではありませんので、不動産賃貸経営に関しては、不動産鑑定士や不動産管理会社等のプロに相談する必要があるでしょう。
(記事は2022年10月1日時点の情報に基づいています)