実家が離れていれば、資産調べが大変

ーー地方にある資産の相続を巡って、どんな問題が考えられますか。

例えば、地方に実家や不動産、畑がありながら、相続人となる子どもたちは親元から離れているケースが想定されます。相続は10カ月以内に遺産分割を済ませて相続税を納めなければいけません。でも、相続人が散り散りになっていれば、集まる機会は限られます。

葬儀で話せればいいですが、まずは現金、不動産、借入金の有無といった相続財産を確定させなければ、前に進みません。特に借入金が多くて相続放棄を行うなら、原則3カ月以内に家庭裁判所に申し入れる必要があります。

相続人が遠くに住んでいれば、資産を調べに帰るのも大変です。特に勤め人が平日に実家に帰ったり、金融機関に問い合わせたりするのは大きな負担です。被相続人が生前に、通帳や権利書など相続財産のありかを残しておけば、相続人の時間のロスも減らせます。

相続財産には含まれませんが、お墓の管理も重要です。放っておくわけにはいかないし、檀家として払うお金など維持するためのランニングコストもかかります。

ーー地方だと先祖代々の土地など、子どもたちが把握し切れていない資産もありそうです。

実家の隣接地だけでなく、少し離れた飛び地のような場所で、畑や田んぼを持っているケースが考えられます。過去の相続で土地の登記の名義変更を済ませていなかった、土地は登記していても建物はしていなかったという事例もあります。

昔は権利意識が緩い部分もあって、他人が耕していた畑だと思っていたのが、実は自分の家に権利があって、想定以上に不動産が膨らんだというケースを聞いたことがあります。

親がきちんと把握していれば、土地の権利書を持っているはず。専門家に頼るにしても、一番怖いのは調べるための手がかりがないことです。

教育費や介護負担の格差、精算求められる可能性も

【深野康彦さんプロフィール】 1962年生まれ。大学卒業後、クレジット会社を経て独立系FP会社に入社。FP業界歴31年(2019年4月現在)を誇る。現在は有限会社ファイナンシャルリサーチ代表。日本経済新聞夕刊「投信番付」のほか連載多数。日経CNBC「夜エクスプレス」では水曜日のアンカーを担当。主な著書は「1万円から始めるETF投資」(日本経済新聞出版社)など。

ーー地方特有の相続トラブルには、どんなものがありますか。

地方だと、兄は東京に出て弟が地元に残ったというケースもあります。財産分与の時、弟からきょうだい間の教育費の差を相続で清算してくれと主張される場合があり得ます。学費など生前に親からまとまって渡された財産は特別受益として、基本的に相続財産に加えられます。

また、民法改正で、子どもの配偶者らが親の介護をしていた場合、相続権が無い親族も寄与分を請求できるようになりました。

法定相続というのはあくまで原則に過ぎません。相続人全員が納得するなら、どんな分け方でもいいのです。ただ、きょうだい間で格差への不満が積もっていると、相続の時に一気に噴出します。そういったトラブルを全部乗り越えた上で、10カ月以内に相続手続きを済ませなければいけないのです。

ーー離れた場所にいる子どもが、相続対象となる土地や空き家を継ぎたくない場合はどうすればいいのでしょうか。

相続放棄という手段もありますが、全ての資産を放棄しなければなりません。金融資産は継ぐけど、土地はいらないという選択はできません。相続税は現金納付が基本なので、よほどのことがない限り、物納も認められません。

私は、住まない家や利用しない土地は売却が最善だと考えます。これからは亡くなる人が増えてきて、土地や建物は圧倒的に供給過多になります。先送りにするほど、資産は売れ残る可能性が高くなるわけです。不動産は利用しなくても、持っているだけで固定資産税などのコストがかかります。遠くに住んでいれば、草刈りなど家の手入れするのも一苦労です。

被相続人が元気なうちに、不動産を処分して身軽になった方が楽です。金融資産なら相続の時も分けやすいし、現金にした方が老人ホームに入る費用にも使えます。

相続は「線」で考えて

ーー地方の資産の売却は本当にできるのでしょうか。

代々住んでいたところに愛着があるのは分かりますが、売れたらラッキーという状況でもすぐ処分するべきです。売った後はコストが発生しないからです。実家のある市区町村の空き家バンクに相談してみたり、地元の不動産屋に話を持っていったりする手段もあります。一般論ですが、一番考えられる売り先は、土地が広くなる隣の家という見方もあります。

ーー 地方の土地にマンションやアパートを建てることで、相続税額を減らすという対策もあります。

個人的には、おすすめしません。皆さん税金を払いたくないので、まず相続税対策に走るのは分かります。確かに金融資産を不動産に変えれば、相続税評価額が下がるので、圧倒的に節税になります。

でも、マンションやアパートは相続が完了した後も経営しなければいけない。少子高齢化が進む中、郊外の土地には、空室というリスクもあります。節税という「点」ではなく、もらった後の経営という「線」で考えないといけません。

税金は払える物は払った方がいい。節税対策を行っても、国の税制改正で突然アウトになる場合もあります。下手な対策をして節税にならないくらいなら、素直に払った方が楽だと考えます。相続はまず遺産分割協議、納税資金対策、最後に節税対策という順番で行うべきです。

親が最低限の準備を

ーー深野さん自身も相続に苦労されたとか。

実家は埼玉県にありましたが、7年前に父を亡くしました。葬儀、母親の生活、遺族年金、父の準確定申告などをしながら、財産を把握しようとしました。しかし、母がお金のことを全部父に任せていたので大変でした。

父は株を数社持っていたのですが、配当金は入っているのに、1社だけ株券のありかが分からなかった。ペーパーレスの手続きもしておらず、どこからも券面が出てこない。書類を整理してようやく見つけました。納税期限ギリギリでスパートをかけて、ようやく手続きを済ませました。もっと実家が遠かったら、平日がつぶれる勤め人だったらと思うと、ぞっとしました。

ーー子どもの方から親に相続のことを切り出すのは難しい面があります。

財産簿を残すなど、親が最低限の準備をするだけでも違います。子どもからは「○○さんのお母さんが亡くなった時に相続が大変だったみたいだけど、うちは大丈夫?」という身近な人の話題から切り出すといいかもしれません。相続以前に、認知症や介護には備えなければいけない。通帳や印鑑、保険証のありかをメモ程度でも残してもらうといいでしょう。

最近は本人証明書も写真付きのものが求められます。高齢者は免許証しかない場合も多いので、親にマイナンバーカードを作ってもらうのも相続に役立ちます。

専門家は最初から関与させる

ーー相続には税理士や弁護士など専門家の力が必要になります。頼む際のポイントを教えて下さい。

相続手続きの途中から頼むのが最悪です。なぜなら、途中から登場人物が出てくると「あの専門家は誰かが連れてきた」と疑心暗鬼になって、「お兄ちゃんが専門家をつけるなら、俺もつける」という泥沼に陥り、分割協議が進みません。被相続人が健在のうちに、最初から関与してもらうのが望ましいです。

相続は経験値が左右するので、専門家に頼む場合は相続を扱った案件数を確認するといいでしょう。まずファイナンシャル・プランナーや行政の無料相談を利用するのも手です。頼んだ後でも自分たちに合わないと思ったら、専門家を変える勇気も必要です。

相続は備えあれば憂い無し。「子の心親知らず」「親の心子知らず」ではいけません。相続に関わる全員がひとごとではなく、自分事として考えてください。

(記事は2020年1月1日時点の情報に基づいています)