贈与税の控除と非課税の違いは? 税金がかからず生前贈与できる八つの制度
親やパートナーから生前贈与されたとき、心配なのは贈与税です。「贈与税は相続税よりも高い」という話を聞くと余計に不安になります。贈与税の制度を活用すれば、節税しながら財産を受け取ることができます。今回は、贈与税がかからない八つの制度を税理士が紹介します。
親やパートナーから生前贈与されたとき、心配なのは贈与税です。「贈与税は相続税よりも高い」という話を聞くと余計に不安になります。贈与税の制度を活用すれば、節税しながら財産を受け取ることができます。今回は、贈与税がかからない八つの制度を税理士が紹介します。
目次
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次の八つが贈与税のかからない制度です。目的や内容に合わせて活用すれば、贈与税0円で財産を受け取ることができます。
暦年課税制度は贈与税の制度の一つです。「年間110万円の贈与は贈与税がかからない」とよく言われますが、これは暦年課税制度の贈与税の基礎控除のことです。毎年1月1日から12月31日までに個人が贈与で受け取った財産の総額が110万円以下ならば贈与税はかかりません。
相続時精算課税制度は暦年課税制度とは別の贈与税の制度です。相続時精算課税選択届出書を税務署に提出すると、18歳以上(ただし、2022年3月31日以前の贈与により財産を取得した場合は20歳以上)の人が60歳以上の親や祖父母からもらった財産は、年110万円の基礎控除に加え、累計2500万円まで贈与税がかかりません。
日常的なお小遣いやお年玉、扶養する家族に渡す生活費や教育費といった日常的なお金は非課税です。ただ、高額すぎたり、教育費といいつつブランド品を購入していたりすると贈与税がかかります。
おしどり贈与は、正式名称を「夫婦の間で居住用不動産を贈与したときの配偶者控除」といいます。この制度を使うと配偶者から住宅や住宅を買うための資金を受け取っても最大2000万円が非課税になります。ただし、「おしどり」という呼び名が示す通り、20年以上連れ添ってきた夫婦間での贈与が対象です。
住宅取得等資金の贈与税の非課税とは、親や祖父母からマイホームの購入やリフォームのための資金を贈与されても贈与税がかからない制度です。最大で1000万円という非課税枠が設けられています。ただ、適用を受けるには受贈者の年齢や所得額、購入する物件が一定の条件に合致していることが必要です。
進学や留学を控えている人は、教育資金の贈与税の非課税制度を活用して援助を受けるとよいでしょう。教育資金の贈与税の非課税制度とは、2026年3月31日までの間に30歳未満の子や孫が親や祖父母から教育資金を一時金で受け取っても、1500万円までは贈与税が非課税になるという制度です。留学や医学部・大学院進学を予定している人のお金の悩みが軽くなります。
結婚・出産を控えている人は、結婚・子育て資金の贈与税の非課税制度が最適です。18歳以上(※)50歳未満の人がこの制度を使って、2025年3月31日までの間に親や祖父母から援助を受け、ウェディング費用や妊娠費用・子どもの保育料に充てれば1000万円まで贈与税が非課税になります。
(※)援助の信託財産や金銭等を取得した時点が2022年3月31日以前なら20歳以上
障がいがある子の親の不安は、自分が亡くなった後の子どもの将来です。わが子の今後の生活を安心なものにするには、信託銀行で特定障害者である子をお金の受け取り手とする特定贈与信託を行うとよいでしょう。障がい者のある子の将来を守るだけなく、贈与税が一定額まで非課税になります。
特定贈与信託の契約を締結すると、信託銀行が障がいのある人に対し、預かった資産からお金を定期的に支給します。実質的には親子間の贈与なので、本来ならば年間110万円以上の贈与について課税されます。しかし、この信託からの贈与については障がいの程度に応じて次のように贈与税が非課税になるのです。
受け取り手が特別障害者…年間6000万円までが非課税
受け取り手が特別障害者以外…年間3000万円までが非課税
この信託の対象は、身体障害者手帳が1級・2級などの特別障害者の他、中程度の知的障害者、2級・3級の精神障害者です。また、信託の対象となる財産は預貯金、有価証券や賃貸不動産など換金性や収益性の高い財産に限られます。
以上が贈与税のかからない制度ですが、知っていても使い方がわからないと戸惑うものです。上手に活用して節税するために、次の2点を押さえておきましょう。
控除は「暦年課税制度や相続時精算課税制度の110万円の基礎控除」と「相続時精算課税制度の2500万円の特別控除」を言い、贈与税の対象となる贈与財産の合計額から差し引く金額を意味します。
非課税は「本来は課税対象なのだけれど政策的な理由により特別に課税されない贈与」を言います。なお、おしどり贈与の正式名称に「配偶者控除」という言葉が含まれますが、この制度も非課税制度です。
二つの控除を組み合わせて使うことはできません。例えば、親から多額の金銭をもらったからと言って、暦年課税制度と相続時精算課税制度の控除を組み合わせることはできません。日本の贈与税制度の2本柱であり、課税のルールが根本的に違うからです。
ただ、控除と非課税を組み合わせることはできます。例えばおしどり贈与で妻に自宅を贈与するならば、おしどり贈与2000万円+暦年課税制度110万円=2110万円まで非課税にできるわけです。住宅取得等資金の非課税制度と相続時精算課税制度を組み合わせることもできます。
ただ、非課税制度といっても、信託銀行を介する非課税制度は控除と組み合わせることはできません。ルールが他の自己申告の非課税制度と異なるからです。
贈与税のかからない制度にも注意点が必要です。贈与のタイミングを間違えたり、取るべき手続きを行わなかったりすると贈与税がかかります。きちんと節税するなら次の点を意識しましょう。
以下の制度は申告書を提出しないと贈与税がかかります。贈与を受けたら翌年の3月15日までに必ず申告しましょう。
相続時精算課税制度
おしどり贈与
住宅取得等資金の贈与税の非課税制度
暦年課税制度で相続税対策するなら計画性が大事です。なぜかというと「生前贈与加算」という制度によって、贈与者の死に際の贈与が相続税の課税対象となってしまうからです。
生前贈与加算とは、相続開始日からさかのぼって一定期間内に贈与された財産は相続財産に加算するという制度です。年間110万円以下で贈与された財産も加算対象になります。これまでは相続開始前3年以内の贈与が対象でしたが、2024年から7年に変更されました。2024年以降の贈与については、段階的に生前贈与加算の期間が延長され、2031年からは完全に7年間の加算に移行されます。そのため、財産の持ち主の死期を予期して慌てて生前贈与しても、相続税が課税され相続税対策がムダになるのです。
ただ、贈与される人が相続や遺言で財産をもらう人以外であれば生前贈与加算の対象になりません。たとえば、孫や甥姪に対して生前贈与をした贈与者が2年後に亡くなったとしても、孫や甥姪が相続財産を受け取らないなら加算対象にはならないのです。
さらに、次の制度によって贈与した財産も加算対象から外れます。ただ、教育資金・結婚・子育て資金の贈与税の非課税制度については、贈与者の死亡時に信託銀行で手続きが必要です。
おしどり贈与
教育資金の贈与税の非課税制度
結婚・子育て資金の非課税制度
住宅取得等資金の非課税制度
一方、相続時精算課税制度の基礎控除にあたる110万円以下の贈与は、生前贈与加算の対象ではありません。期間関係なく相続税への持ち戻しは不要です。
「贈与税がかからない」の一言で踊らず、制度内容をきちんと理解してから使いましょう。制度の複雑さに不安を感じ、自分に適した制度を判断しかねる場合は、一度、税理士への相談も検討してください。
(記事は2024年3月1日時点の情報に基づいています)