目次

  1. 1. 匿名女性からの遺贈寄付がセンター設立のきっかけに
  2. 2. 遺言書の作成セミナーで遺贈寄付の普及を図る
  3. 3. 思いを未来に繋げることがミッション
  4. 4. 寄付金は支援活動に100%活用される

——日本財団の背景とともに、現在の活動について、改めて教えてください。

木下園子さん(以下木下):日本財団は1962年に財団法人日本船舶振興会として活動を始め、50年以上にわたって幅広い公益活動をしてきました。海にまつわる安全や教育、環境を守る活動から始め、その時々の社会のニーズに合わせて支援活動をしてきた団体です。多くの支援事業が生まれてきましたが、今では子どもの貧困対策や難病支援、養護施設出身者のための進学支援などに力を入れています。

また、災害復興支援や、今回の新型コロナウイルス禍では医療従事者への支援、子どもたちへの食事の支援なども行っています。ちょっとユニークなところでは、東京・渋谷区に誰もが快適に使える公共トイレを設置しようという「THE TOKYO TOILET」プロジェクトは、海外のメディアにも取り上げられました。

日本財団遺贈寄付サポートセンター・チームリーダーの木下園子さん。遺贈寄付を考える人の相談にも応じている

——「日本財団遺贈寄付サポートセンター」は2016年に開設されました。開設の経緯を教えてください。

木下:2010年に当財団に初めて大阪の匿名の女性から遺贈寄付のご相談があり、最終的には1億5000万円の遺贈がありました。「海外で苦しんでいる子どもたちのために使ってほしい」という遺言書を書かれていましたので、2013年度にミャンマーに特別養護施設を備えた学校を建築し、今も健全に運営されています。ミャンマーは風土病の影響で障害を持っているお子さんが少なくないのです。

そういうご寄付の形もあるので、当財団でも対応できる体制を取らなくてはならないのではないかと、2012年度に「遺贈の相談窓口」という電話窓口を設けたところ、終活など遺贈の周辺のご相談が多いということがわかりました。そこで、遺贈の相談だけでなく周辺の相談にも対応することで、その方が納得して終活を進め遺贈への「思い」を遺言書という「形」にできるように「日本財団遺贈寄付サポートセンター」を2016年に開設いたしました。

「日本よりも厳しい状況にある海外の方々の役に立ててもらいたい」という遺言を遺した人の遺贈寄付を活用して建設中のカンボジアの体育館。日本財団遺贈寄付サポートセンター提供

——年々、相談件数は増えているようですね。相談内容は主にどのような内容が多いのでしょうか。また、年間、どのくらいの支援が集まるのでしょうか。

木下:年々、相談件数が増えており、開設時の2016年度には1442件、2019年度には1859件となっております。内容は本当に様々ですが、遺贈寄付が周知されていく中で、何をどうすればいいのか、遺言書に書いておくと言ってもどこにどうやって書けばいいのかというご相談を多くいただきます。遺言書の受領数も2016 年度は17件、2019 年度は21件と、少しずつ増えております。年間の遺贈寄付の受入件数と寄付金額は2016年度が2件で約4460万円、2019年度が5件で約4億2900万円と、こちらも増えております。

——寄付を増やすため、どのような活動をされていますか。

木下:遺贈寄付をしていただくためには遺言書にきちんと書いていただくことが必要になりますが、遺言書を書くこと自体がまだあまり普及しておりませんので、どなたでもご参加可能な遺言書の作成セミナーを昨年10月から今年3月まで全国13カ所で開催しました。まだ遺贈ということまで思いが至っていらっしゃらない方でもご参加いただいたケースがありますし、そこで初めて遺贈という選択肢があることを知った方も多くいらっしゃいます。

遺言の書き方を紹介するセミナー。日本財団遺贈寄付サポートセンター提供

また、1月5日は遺言の日と当財団で記念日設定をしておりまして、「ゆいごん川柳」を募集しています。2021年1月5日の発表で5回目になり、1万句を超える作品が寄せられます。川柳ですから、遺言を明るくおもしろくとらえていただいて、笑いながら書いていただきましょうという意図とともに、お正月に家族が集まったら相続のことも改めて皆様で考えてみてはいかがでしょうか、というご提案でもあります。

——日本財団に寄せられた遺贈や遺贈寄付のお金は、どのように役立てておられるのでしょうか。

木下:今までの活用事例では、子どもの進学支援や難病児とその家族の支援、貧困家庭の支援ということに多く使われています。また、災害復興支援を希望される方も増えています。日本財団は寄付金の活用範囲が広いことも特長の一つです。

——遺贈寄付を検討した時、何かしらの形で日本財団の遺贈寄付サポートセンターで相談に応じてもらうことはできますか。

木下:ご相談いただいたら、まず資料やしおり、遺言書の書き方のマニュアルをお渡ししています。その後、具体的に遺言書の書き方のサポートに入るのは、当財団への遺贈が含まれている場合です。たとえばユニセフと日本財団、あしなが育英会と日本財団ということでお考えであっても日本財団が含まれていればサポートさせていただいています。

——寄付をする方が使い道について希望する場合、その希望は反映されるのでしょうか。

木下:はい、その方の思いを未来に繋げることが私達のミッションですので、遺贈をご希望なさる方から丁寧にお話を伺って、ご希望される事業へのマッチングを行い、必ず形にするということに努めています。日本財団はその時その時の社会のニーズに合わせて社会貢献事業をしていきますので、これからも時代の変化に合わせて新しい事業がどんどん出てきます。ですから、この事業に限って活かしてほしいという風にご希望されるよりは、将来の子どものために、あるいは将来の女性の活躍のためにと、少し幅広い分野を想定して遺言書を書いていただけるといいと思います。

——実際に日本財団に遺贈や遺贈寄付された方の中で、なぜ日本財団を選んだのかというエピソードなどあれば教えてください。

木下:時々伺うのが、寄付金が支援活動に100%活用されること、それから、支援活動の幅が広いので自分の思う寄付先が何か見つかることです。それから、寄付金に名前がつけられるので、お名前を遺したいからとお選びいただくことがあります。

遺言書作成者の半数以上が、お子様がいらっしゃらないご夫婦や独身の方なんですね。相続人がいないということが最初のきっかけにはなっていらっしゃるんですけれど、そういう方々の多くが、自分で子育てをした経験がないから子どものために支援に使ってほしいとおっしゃいます。

生活困窮世帯の子どもたちへの支援として「第三の居場所」の設置も進めています。2020年4月に大阪府箕面市に開設したこの建物には遺贈寄付1件と相続寄付3件が活用されています。(日本財団遺贈寄付サポートセンター提供)

また、独身の男性の方で、お母様の介護の際のホスピスの看護師の仕事ぶりに感動したので、ご自身の財産をホスピスナースの育成に活かしてもらいたいという方がいらっしゃいました。その男性自身が実は末期がんを患われていらして、その年のうちにお亡くなりになりました。寄付を頂戴し、もうすぐ事業化されます。私が実際にお目にかかった方だったので、亡くなったというご報告がせつなくて………寄付をいただけてうれしいという気持ちには全然なれませんでした。それがこの仕事のちょっとつらいところです。

——今後、遺贈寄付がさらに一般化して、多くの人が寄付できるようになるためにはどうすればいいと思いますか。

木下:一般の方々に、「遺贈寄付をしたい」と思っていただけるような社会貢献事業の情報をしっかりとお届けしていきたいと考えています。当財団では、寄付金を個別に管理するんですね。いただいた一件一件に全部名前が付いていて、他の方の寄付金と混ぜることはしていないんです。みなさんの人生を賭けた財産ですから、こちらも全身全霊で受け止め、それぞれの方のお気持ちを100%そのまま実現させます。それを丁寧にお伝えしていければと思っています。

遺贈は、まさにその方の生きた証を遺したものです。その方が、一生をかけてコツコツと人生をかけて築き上げた財産には、その方の「思い」が詰まっています。その方のストーリーを背景にそれぞれの「思い」が込められた財産を未来に託すこと、これが遺贈です。私たちも、ただ遺言書を書いていただければいいというのではない、遺言書には財産のことだけを書けばいいのではない、と思っております。しっかりとその方のストーリーを伺ってその「思い」を受け止め、大切なご遺贈を未来の笑顔につなぐこと、それをお手伝いするという気持ちでおります。ぜひ、明日の社会の笑顔のために、遺贈をご検討される方がいらしたら、日本財団遺贈寄付サポートセンターにご相談いただければと思います。

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(記事は2020年11月1日時点の情報に基づいています)