目次

  1. 1. 相続分の譲渡とは
    1. 1-1. そもそも相続分の譲渡とは何か
    2. 1-2. 相続放棄との違い
    3. 1-3. 相続分を譲渡すべきケース
  2. 2. 譲渡に必要な手続き
    1. 2-1. 相続分譲渡証明書のひな形
    2. 2-2. 必要書類
    3. 2-3. 相続分譲渡通知書とは
  3. 3. 相続分の譲渡を行う際の注意点
    1. 3-1. 譲渡後も債務の支払い義務が残る
    2. 3-2. 相続分の取り戻しが行われる可能性がある
    3. 3-3. 遺言がある場合の相続分の譲渡
    4. 3-4. 税金がかかる
    5. 3-5. 相続放棄と比べたときの相続分の譲渡のメリットとは
  4. 4. まとめ 相続分の譲渡後も負債は引き継ぐことに注意

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相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他人に譲り渡すことです。譲る相手は共同相続人でもそれ以外の第三者でもかまいません。もともと法定相続人であっても、相続分を譲渡するとその人は遺産相続権を失います。遺産分割協議に参加する必要がなくなるので、相続トラブルを避けるためには有効な手段といえます。譲渡の条件は有償でも無償でもかまいません。相続分の譲渡をするなら「遺産分割前」に行いましょう。遺産分割してしまったら、相続分譲渡できなくなるので注意してください。

相続放棄すると、その人ははじめから相続人でなかったことになるので、負債も相続しません。相続分譲渡の場合、譲渡した人にも負債の支払い義務が残ります。債権者が支払いを要求してきたら拒めないので注意しましょう。また、相続放棄の場合、「放棄者が存在しない」ものとしてその人の相続分が他の法定相続人に割り振られます。一方、相続分の譲渡の場合「譲渡の相手を相続人が自由に選べる」という違いがあります。

以下のような状況であれば、相続分の譲渡を検討しましょう。

●遺産を相続したくない、関心がない
相続分を譲渡すると、面倒な相続登記などの手続きをせずに済みます。
●相続トラブルに巻き込まれたくない
相続分を譲渡すると、遺産分割協議に参加する必要がなくトラブルに巻き込まれる可能性がほぼなくなるでしょう。
●配偶者や孫など、自分以外に遺産相続させてあげたい人がいる
遺産相続権を与えたい相手に相続分の譲渡をすれば、希望を叶えられます。
●相続人が多数で、遺産を引き継ぐ人を少人数に絞りたい
他の共同相続人へ相続分の譲渡をすると、相続人を減らせて状況を整理できるでしょう。
●早期に相続権を現金化したい
遺産分割前に有償で相続分を譲渡すれば、早期に現金が手元に入ってきます。

相続分の譲渡には特別な手続きは不要で、法律的には「口頭の合意」でも成立します。ただ、口頭では相続分の譲渡があった事実を証明できず、トラブルになる可能性が高まるでしょう。現実には書面を作成しておくべきといえます。

以下で作成すべき「相続分譲渡証明書」の文例を示します。

相続分譲渡証明書には、できれば実印で押印しておくべきです。特に不動産の登記をするなら、実印による押印が必須となるでしょう。印鑑登録証明書も添付してください。

相続分の譲渡を行ったら、他の相続人へ「相続分譲渡通知書」を送るようお勧めします。相続分譲渡通知書とは、「相続分を〇〇さんに譲渡しましたよ」という事実を他の相続人に知らせるための通知書です。相続分の譲渡が行われると、譲受人が遺産相続権を取得し、遺産分割協議に参加しなければなりません。通知しておかないと、他の相続人は誰と遺産分割協議を行えば良いのかわからない状態になってしまいます。

また相続人以外の第三者へ相続分の譲渡が行われた場合、他の相続人は譲受人に対して買い取った価額や費用の弁償と引き換えに相続分を取り戻せます(民法905条1項)。この「取戻権」は、相続分譲渡後1カ月以内に行使しなければなりません(民法905条2項)。

そこで、相続分の譲渡を行ったら、他の相続人に取戻権を行使するかどうか判断する機会を与えるためにも、早期の通知が必要となるのです。通知しないと大きなトラブルになる可能性もあるので、相続分の譲渡を行ったら必ず書面で他の相続人へ通知書を送りましょう。

相続分の譲渡をすると、その人は相続権を失います。ただし負債の支払い義務はなくなりません。相続債権者から支払い請求が来たら返済せざるを得ないので、注意しましょう。

相続人以外の人へ相続分を譲渡すると、他の相続人は1カ月以内であれば取り戻し請求ができます。自分の妻などに遺産相続権を与えたいと思って相続分を譲渡しても、相続人から取り戻し請求が行われたら希望を叶えられなくなるので、注意が必要です。

遺言がある場合、相続分の譲渡ができるケースとできないケースがあります。「~に〇分の〇、~に〇分の〇」など「相続分の指定」が行われている場合、指定された相続分を譲渡できます。一方「~に不動産を遺贈する、~にA銀行の預金を相続させる」など遺産を指定して遺贈された場合、相続分という概念がないので相続分の譲渡はできません。

相続分を譲渡すると、税金がかかる可能性があります。共同相続人以外の第三者へ相続分を無償で譲渡すると、譲受人に「贈与税」が課税されます。一方、有償で譲渡した場合には、相続人に「譲渡所得税」が発生する可能性があります。相続分を譲渡するときには、税金のシミュレーションも必須となるでしょう。

相続放棄の場合、自分の希望する相手に相続分を与えられません。また相続人以外の第三者へ遺産相続権を与えることもできません。相続分の譲渡なら、親族だけではなく第三者に対しても相続分を譲渡できます。このことは、相続分の譲渡ならではのメリットといえるでしょう。

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相続トラブルに巻き込まれない方法として、相続分の譲渡は有効です。ただ、負債を引き継いでしまうなどのデメリットもあるので、注意しましょう。相続問題で悩んだときには、弁護士に相談すると、リスクを避けて安全に手続きを進められるでしょう。

(記事は2020年10月1日時点の情報に基づいています)

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