相続税の基本 基礎控除の計算方法や軽減できる特例をわかりやすく解説
家族が亡くなって財産を相続した時に、相続税がかかります。相続税額は、遺産の合計や相続人の数によって変わります。申告には期限があるため、準備は計画的に準備を進める必要があります。今回は、相続税がどんな財産にかかるのか、基礎控除はいくらなのかなど、相続税の基本を解説します。
家族が亡くなって財産を相続した時に、相続税がかかります。相続税額は、遺産の合計や相続人の数によって変わります。申告には期限があるため、準備は計画的に準備を進める必要があります。今回は、相続税がどんな財産にかかるのか、基礎控除はいくらなのかなど、相続税の基本を解説します。
目次
「相続会議」の税理士検索サービスで
相続税は、亡くなった人(被相続人)の財産を受け継いだときに、受け継いだ人にかかる税金です。相続税が課せられる人は、「相続人」「受遺者」「相続時精算課税にかかる贈与を受けた人」の3パターンありますので、それぞれ確認しておきましょう。
個人が死亡すると、遺言がない限り、民法に定められた相続人(法定相続人)で遺産分割を行います。ここで必ず相続人となるのが、被相続人の妻です。その他の相続人は、次の順位で決まり、(1)に該当する相続人がいなければ(2)、(2)の相続人もいなければ(3)の人が相続人となります。
(1)被相続人の子
子が被相続人の相続開始より前に死亡しているときや、相続権を失っているときは、孫(直系卑属)が相続人となります。
(2)被相続人の父母
父母が被相続人の相続開始より前に死亡しているときや、相続権を失っているときは、祖父母(直系尊属)が相続人となります。
(3)被相続人の兄弟姉妹
兄弟姉妹が被相続人の相続開始より前に死亡しているときや、相続権を失っているときは、おい、めいが相続人となります。
なお、上記に該当する人であっても、相続を放棄した人や、相続権を失った人は、はじめから相続人ではなかったものとみなされます。
上記により相続人が確定すると、「法定相続分」が決まります。法定相続分とは、遺留分や相続税を計算する際に用いる割合であり、次の表のとおり定められています。
死亡にともなって効力を生じる贈与を「死因贈与」といいます。被相続人の遺言により財産を取得した場合も死因贈与に該当し、相続税法上は「遺贈」があったとして取り扱われます。
遺贈があった場合は、通常の相続と同様に、相続税の対象となります。つまり、「息子の妻」のような相続人に該当しない人であっても、遺言によって被相続人の財産を受けた場合は相続税の対象となるのです。
直系尊属(両親や祖父母)から生前贈与を受けた場合、「相続時精算課税」という方式で贈与税の申告を行うことができます。この方式により贈与税を申告した人は、その贈与者が死亡したときに相続税の申告が必要となります。この場合、生前贈与を受けた財産の価額を、相続財産の価額と合算して相続税を計算します。
相続時精算課税制度を詳しく解説した記事は「相続時精算課税制度の注意点 3つのメリットと7つのデメリット」でご覧ください。
相続税は、誰もにかかる税金ではありません。死亡したとしても、その財産や債務、家族構成によっては申告や納税が不要になります。その理由を、「課税価格の合計額」と「基礎控除額」の2つの要素から説明します。
相続税を計算するとき、その基礎となるのが「課税価格」です。課税価格は、相続税の対象となる各人ごとに、以下の計算式で計算します。
「相続や遺贈によって取得した財産の価額」+「相続時精算課税を適用した財産の価額」−「債務・葬式費用の金額」+「相続開始前3年以内の贈与財産の価格」=各人の課税価格
上記の算式で求めた課税価格を全員分合計して、「課税価格の合計額」を求めたら、ここから「基礎控除額」を差し引くことができます。基礎控除額の計算は、次のとおりです。基礎控除額は法定相続人の数にしたがって増えていきます。
基礎控除額=3000万円+(法定相続人の数×600万円)
基礎控除の詳しい解説は「相続税の基礎控除とは 遺産総額いくらまでなら申告不要?覚えておきたい計算式」で読めます。
課税価格の合計額が基礎控除額を下回ると、相続税を計算してもゼロになります。この場合、原則として相続税の申告や納付は必要ありません。たとえば、相続人が妻と子2人であれば、基礎控除額は4,800万円ですから、「4,800万円以上の相続財産がなければ、相続税の申告は不要」と判断することができるのです。
ただし、後述する配偶者控除や小規模宅地の特例を利用する場合、相続税の申告が必要になります。これらの特例を使うことで相続税がゼロになるとしても、必ず申告を行う必要がありますので、注意してください。
課税価格の合計額が基礎控除額を上回ると、相続税額が発生します。相続税の税率は10%〜55%(平成27年分以降の場合)の範囲にあります。具体的にどの税率が適用され、どれくらいの税額になるのかは、家族構成や財産構成によって変わります。
次の表は、「配偶者と子の計2人」「配偶者と子2人の計3人」が相続する場合の、課税価格の合計額ごとの相続税額を算出したものです。この税額は、後ほど説明する「配偶者の税額軽減」を利用すると仮定して計算しています。
相続税法では、「その者が相続又は遺贈に因り取得した財産の全部に対し、相続税を課する」と定められています。このように、被相続人が遺した遺産のすべてが相続税の対象となるのが原則です。ただし、一部例外として、非課税として扱われる財産も存在します。
また、名義が被相続人以外の家族であったり、無記名であったりした場合であっても、被相続人が取得のための資金を出していた場合などは、実質的に被相続人の財産として課税対象となる場合があるので注意が必要です。
相続税の計算において、特殊な扱いとなるのが、死亡保険金等(生命保険金、損害保険金など))と死亡退職金等(退職金、功労金など)です。これらは、被相続人が死亡した時点では支払われていません。しかし、「みなし相続財産」として、相続税の対象となっています。
死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ非課税枠が設けられています。この非課税額は、それぞれ「500万円×法定相続人の数」で計算されます。つまり、法定相続人が3人であれば、死亡保険金等と、死亡退職金等は、それぞれ1,500万円まで非課税になるということです。
相続税の課税価格を計算する際、被相続人の債務・葬式費用を差し引きます。そのため、単純に考えると、相続する財産よりも、債務と葬式費用の合計額が多ければ、相続税の申告・納税をする必要はありません。とはいえ、「財産を超える債務を相続したくない」と考える方は多いのではないでしょうか。
この場合、相続開始を知ってから3カ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で「相続放棄」を申述することで、「債務を相続しない」という選択をすることができます。相続放棄をすると、プラスの財産(資産)もマイナスの財産(負債)も相続しないため、相続によって借金などの返済義務を負う必要はなくなるのです。
なお、相続人のなかに相続放棄をした人がいたとしても、基礎控除額や、死亡保険金・死亡退職金の非課税額の計算には影響しません。これらの計算をするときの「相続人の数」には、相続放棄をした人の数も含むからです。
本来は相続税がかかる財産を相続したのに、相続税が課されない。そのようなケースも存在します。相続財産を寄付した場合です。
相続税の申告期限までに、国、地方公共団体、特定の公益法人認定特定非営利活動法人に寄付した一定の財産は、相続税がかかりません。相続税の申告期限までに特定公益信託の信託財産とするために相続財産を支出した場合も、同様の取り扱いがあります。
ただし、これらの取り扱いを受けるには相続税の申告書に、寄付した財産の明細書や、一定の証明書類を添付する必要があります。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る税理士を探す相続税を申告するとき、一定の条件を満たした場合に使える特例や控除があります。代表的なものをご紹介します。
相続税を計算するとき、土地の価額はその年の「路線価」に基づき計算されます(一部例外あり)。
たとえば路線価30万円の道路に接する宅地を相続した場合、30万円に宅地の面積を掛け、これに土地の形状などに応じた調整率を加味すると、評価額が算定されます。このとき、一定の条件を満たす宅地等については、「小規模宅地等の特例」を使うことで、評価額を最大80%減額することができます。
小規模宅地の特例の細かい条件について本記事では解説しませんが、被相続人や、被相続人と生計を一にしていた親族が居住していた、もしくは事業に使っていた宅地等であれば、特例を使える可能性があります。
さらに詳しい解説は「相続税の軽減措置『小規模宅地等の特例』を受けるには 同居の有無などポイント紹介」に載っています。
相続や遺贈で、配偶者が財産を取得した場合、その配偶者の相続税額から、次の算式で求めた額を差し引くことができます。
相続税の総額 × 次の①と②のうち少ない方の金額
課税価格の合計額
①「課税価格の合計額に、配偶者の法定相続分を掛けた金額」と「1億6千万円」のいずれか多い方の金額
② 配偶者の課税価格(相続税の申告期限までに分割されていない財産の価額を除く)
この算式のとおり、配偶者が相続した額が「1億6千万円以内」もしくは「法定相続割合以内」であれば、配偶者にかかる相続税はゼロになります。ただし、相続税配偶者控除の節税効果を狙って、多くの財産を配偶者に分配する場合は、その配偶者が死亡したときの相続税への影響も考えておきましょう。
相続や遺贈によって財産を取得した人に、満18歳未満の未成年者がいた場合、以下の額が未成年者控除として、相続税額から差し引かれます。
未成年者控除=10万円×(相続開始の日から、その人が満18歳になるまでの年数※)
※1年未満の端数は、1年として計算
詳しい解説は、「未成年者は相続税が安くなる!『相続税の未成年者控除』」でも紹介しています。
相続や遺贈、相続時精算課税によって贈与を受けた人が、障害者で、かつ相続人であった場合に使えるのが障害者控除です。
障害者控除=10万円×(相続開始の日から、その人が満85歳に達するまでの年数※)
※1年未満の端数は、1年として計算。特別障害者の場合は1年につき20万円。
障害者控除については「相続税の障害者控除とは 活用する条件やポイントを解説」でも解説しています。
最後に相続税の申告と納付について説明します。相続税の納税額がある人は、期限までに申告・納付を行う必要があります。また、納税額がなくとも特例を利用するために申告する場合も期限に注意してください。
「課税価格の合計額が基礎控除額を超えている」、「配偶者控除などの特例を使いたい」といった場合、相続税の申告が必要となります。相続税の申告期限は、相続開始があったことを知った日(通常は被相続人の死亡日)から10カ月以内となっています。期限に間に合わなかったり、本来よりも少ない金額で申告をした場合、加算税が課せられます。
相続税の申告書提出には、税務署への持参や郵送のほか、電子申告(e-Tax)も利用できます。ただし、e-Taxを利用するには、相続人全員のマイナンバーが必要になる点に注意が必要です。
申告手続きについては、「はじめて書く相続税申告書。書き方は意外にもシンプル!?」で詳しく解説しています。
相続税の申告をするときは、申告書を提出するだけでは足りません。その申告内容を示すものとして、次の表の添付書類も合わせて提出する必要があります。必要な添付書類は、申告内容によって変わりますが、国税庁ホームページに「相続税の申告の際に提出していただく主な書類」としてまとめられていますので、こちらを参照してください。
相続税の納税期限は、申告期限と同じく、相続開始があったことを知った日から10ヶ月です。その期限までに、原則として現金一括納付をしなくてはなりません。期限までに納税することができなければ、延滞税がかかるため、期限内に納税することをおすすめします。
それでは、期限までに納税できない場合はどうすれば良いのでしょうか? たとえば相続財産のほとんどが不動産で、現金の用意が間に合わないといったこともあるでしょう。そのような場合は、相続財産を担保にして期限を延長してもらう「延納」や、相続財産そのものを納税に充てる「物納」といった方法があります。いずれの方法も事前に手続きが必要になりますので、遅れないように準備をしておきましょう。
相続税の期限である10カ月の間に、遺産分割協議や相続税の計算、申告書作成など、やるべきことが数多くあります。期限に遅れないためにも、計画的に進め、必要に応じて税理士などの専門家に相談するようにしてください。
(記事は2022年8月1日現在の情報に基づきます)