目次

  1. 1. みなし譲渡課税は誰が払う?
  2. 2. 遺贈に限らず課される税金
  3. 3. 少しずつ前進する改善

まず、不動産を通常の取引で売る場合から考えてみましょう。その不動産を取得した額よりも販売価格が高ければ、譲渡益が発生します。単純化すれば、この利益に対し所得税が課税されます。この税金を払うのは、当然、利益を得た売り手です。

次に遺贈の場合です。「お世話になった地域への恩返しに、地域で活動する認定NPO法人に自宅を遺贈する」場合を考えてみます。不動産の特定遺贈にあたりますね。遺贈者には子ども(相続人)がいるとしましょう。自宅の取得費用が2000万円だったのに対し、遺贈時の時価が1億円に値上がりしていたとします。不動産を直接寄付するので売買は発生していませんが、譲渡をしたと「みなし」、差額の8000万円に対して課税されるのが「みなし譲渡課税」です。厳密には居住用財産には控除などがあり、課税対象額はもっと低くなります。

さて、ここで一つ考えてみてください。この税金は誰が払うのでしょう?遺贈を受ける認定NPO法人でしょうか。違うのです。実は、遺贈者の子どもです。「え?」と思うかもしれません。だって、不動産は一度も子どものものであったことはないのですから。所有したことのない不動産に対して税金が生じるとしたら、大きな負担ですよね。

親の遺贈の気持ちは理解して尊重したいと思っても、この支払いには納得できないと感じた場合には、遺贈そのものがこじれてしまう可能性だってあります。先祖代々の土地などで取得価格がわからない場合だと、取得価格は時価の5%として計算され、実に時価の95%が所得として扱われて課税されますから、ますます話がややこしくなりそうです。
なお、特定遺贈ではなく包括遺贈の場合なら、原則として遺贈を受ける認定NPO法人が税も負担することになります。ただし、負債なども引き継ぐので、受け手にはリスクが生じる可能性があることは連載第4回で指摘したところです。

参考までですが、みなし譲渡課税は遺贈の場合だけでなく、生きているうちに不動産や株式を寄付した場合にも適用され、寄付者に税金が課されます。そのことで寄付者には困ったことが起きる場合もあるのです。売買をしていないので実際の所得が増えたわけでもないのにもかかわらず、見かけ上の所得が増えてしまいます。その結果、所得金額や市町村民税所得割を基準とする様々な公的保険料のアップのほか、保育・幼稚園料や医療費自己負担割合の増加など、自己負担が増えてしまう可能性があるのです。寄付や遺贈の広がりを目指す市民団体などが、こうした不都合を解消するため、みなし譲渡課税制度の改善を国に求めています。

徐々にではありますが、改善は進んではいます。国税庁長官による個別の承認を受ければ、みなし譲渡課税が非課税になる特例(租税特別措置法第40条)があります。「一般特例」と「承認特例」の2つがあります。公益法人などに寄付する場合、一定の要件を満たせば非課税になるのですが、要件は、かなり厳しいです。例えば、不動産の場合だと団体本来の事業に直接使う場合に使途が限定され、換金や賃貸はできません。申請には膨大な書類が必要で、一般特例だと審査に2~3年かかります。しかも申請するのは受け手ではなく、寄付する側です。

公益法人のうち公益社団法人や社会福祉法人など一部については、申請書類提出後1カ月(寄付財産が株式などの場合は3カ月)以内に国税庁長官による承認・不承認の判断がない場合、自動的に承認とみなす「承認特例」の要件が2018年度に緩和されました。さらに今年度、認定NPO法人も承認特例の対象に含まれることになりました。まだまだ改善すべき点が多い制度ですが、少しずつ前進しています。

次回も不動産の遺贈寄付に関する動きを紹介します。

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(記事は2020年7月1日時点の情報に基づいています)