故人の意思を形に 家族もできる遺贈寄付
遺贈寄付は本人だけではなく、家族がすることもできます。相続した財産の中からNPO法人などに寄付するのです。在りし日を思い浮かべ、親やパートナーの遺したお金を社会貢献に生かす。そんな方法について考えてみませんか。
遺贈寄付は本人だけではなく、家族がすることもできます。相続した財産の中からNPO法人などに寄付するのです。在りし日を思い浮かべ、親やパートナーの遺したお金を社会貢献に生かす。そんな方法について考えてみませんか。
これまで話題にしてきた遺贈は、故人の財産がNPO法人などに直接贈られます。これに対し、相続財産からの寄付は一度、家族ら相続人を経由して贈られる点が大きな違いです(厳密には、遺贈を受けた故人の友人といった受遺者が、遺贈された財産から寄付する場合もありますが、ここでは「相続人」としておきます)。
相続財産寄付は二つに分けられます。一つは、本人が生きている間に家族らに口頭で「寄付してほしい」と頼む、もしくはエンディングノートや手紙といった法的拘束力のない手段で寄付の希望を伝える方法です。もう一つは、そうした明らかな「お願い」はなくても、相続人が故人を思い、自発的に寄付する場合です。
遺贈に比べて実際に寄付されるかどうかは、あいまいなことは明らかでしょう。するもしないも、どこにいくら寄付するのかも、最終的には相続人にゆだねるからです。「信頼」にゆだねると言い換えてもいいかもしれません。生前の関係性が――特に2つめの方法の場合には――問われるわけです。家族関係が良好で「争族」のようにもめる心配がないことが前提になりそうです。
そのうえで、「家族を信じているから、遺言で『縛る』より、気持ちよく判断・実行してもらいたい」「寄付はしたいけど、遺言作成が面倒。寄付先も金額も家族に任せたい」といった場合には適しているといえるでしょう。
思い出話でもしてもらいながら、「お母さんは子どもの貧困に心を痛めていたから、貧困家庭を支援する団体に寄付しよう」など、寄付先や寄付額を仲良く決めてもらえたら、きっとうれしいですよね。家族の側も「よい供養になった」「生きた証を残せた」と、悲しみの中に、たとえわずかとはいえ癒しがえられるのではないでしょうか。
わたしが取材した中には、治療方法のない難病で亡くなった夫の相続財産から、iPS細胞研究のために寄付した妻がいました。遺言があったわけではありません。「夫が長年、働いて得たお金を、自分のために使うのは違うと思ったのです」と、難病がいつかは治療できるようになることを願い、未来に希望を託したのです。
もしもご自身が、死後に相続財産を寄付してもらうことを望んでいるのでしたら、家族の指針となるように「どのような分野・団体に」「いくらぐらい」「どうして寄付したいのか」といったことを、たとえ漠然とでもエンディングノートなどに書いておいたほうが親切でしょう。
あと、大切なことがあります。相続財産寄付の税制は遺贈とは異なります。この点は本人も相続人も、ぜひ注意してください。
遺贈の場合、法人へ遺贈した額は原則として相続税を計算する際の対象外になります。基礎控除と同じように課税対象にならないのです。遺言の効力が生じたときから、遺贈分は受遺者の法人に帰属したものとみなされるからです。
「法人」は公益法人ばかりでなく、NPO法人や一般社団法人なども対象です。ただし、いくら法人だといっても、親族が経営する法人や幽霊法人といった、「税逃れ」とみなされる場合はもちろん課税対象です。
一方、相続財産寄付の場合、まず相続人が相続してから、つまり一度は相続人に財産が帰属してから寄付するので、原則としてその財産には相続税がかかります。ただし、この分も非課税になる場合があります。寄付先が国や自治体のほか、公益法人や認定NPO法人などの税制優遇を受けることができる法人で、しかも相続税の申告期限(被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内)までに寄付されれば相続税の対象にはなりません。一般のNPO法人や一般社団法人への寄付では非課税になりません。
次回は、信託を使った遺贈寄付についてです。
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(記事は2020年5月1日時点の情報に基づいています)