目次

  1. 1. 不動産は受託者が信託財産のまま売却する
    1. 1-1. 売却時に信託契約を解除してしまうと…
  2. 2. 信託財産は形が変わっても当然に信託財産のまま

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不動産を信託財産に入れた場合、当該不動産登記簿の所有者欄(甲区)には、受託者(子ども世代)の住所氏名を記載することになります。つまり、受託者が登記簿上の「所有者」になります。したがって、信託不動産の売主は受託者になり、不動産の売買契約書に調印するのは、原則として受託者のみになります。

これまでの実務経験を踏まえて言いますと、不動産売却時には信託契約を解除・解約すると勘違いしている人が少なからずいます。

でも、それは違います。あくまで受託者が信託財産のまま売却することになります。つまり、売却の手続きにおいて、不動産オーナーたる親が直接売主として手続きを行うのではなく、その不動産を管理している受託者たる子が売主として手続きを行うことになります。

売主側の中には、「不動産を信託財産としたことで買い手がつきにくくなったり、売却価格の下落要因になる」と考える方がいるようですが、そんなことはありませんのでご安心を。

一方、買主にとっては、手続き上通常の不動産購入と何ら変わりません。信託不動産を購入することへのリスクもデメリットもありません。登記手続きとしては、買主への所有権移転と同時に信託財産となっている旨の登記が抹消されますので(登記の目的は「所有権移転及び信託登記抹消」という形になります)、信託不動産の買主は、通常の所有権の不動産を入手することになります。

売却時に信託契約を解除してはいけないのは、一般的に、不動産の換価代金を引き続き受託者となった子が継続的に管理し、受益者たる親の生涯にわたる生活費を給付したり、介護費用等を代わりに支払ったりすることができるようにするためです。つまり、不動産の売却手続きの前後で信託契約を解除したり変更することは、家族信託の実務上ありません。

信託不動産の売却代金は、当然に信託財産としての金銭(老親のための資産)です。また、信託金銭を元手に別の不動産を購入すれば、自動的にそれが信託不動産になります。信託金銭で受託者が建物を建てれば、その建物も当然に信託財産、つまり受益者(老親)の財産となります。

結論として言えるのは、信託財産は、受託者がその権限において管理・処分する限り、中身が不動産だろうが金銭だろうが、信託財産であることには変わりないということです。(購入や建築した不動産を別途信託財産に加える追加信託の契約手続き等は不要です)

なお余談ですが、信託不動産の売却手続きの仲介を、通常の不動産仲介業者に依頼できるのかどうかを心配される方がいます。

しかし、信託不動産を売却するのは、前述のとおり売主が受託者になるだけで現物の不動産の売却であることには変わりありませんので、通常の不動産仲介業者(宅建業者)で対応可能です。

(記事は2020年4月1日時点の情報に基づいています)

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