「タワマン節税」に歯止め マンション1室の評価額、時価の6割に引き上げ 清三津税理士が解説
国税庁は9月、相続税評価について来年1月から適用する新たな算定方法を通達しました。これにより、マンション1室の相続税評価額が時価の6割を目安に引き上げられます。なぜ見直しになり、どう変わるのでしょうか。また、今後の相続税・贈与税にどう影響するのでしょうか。山田&パートナーズのパートナー税理士の清三津裕三さんと税理士の志賀康彦さんに聞きました。
国税庁は9月、相続税評価について来年1月から適用する新たな算定方法を通達しました。これにより、マンション1室の相続税評価額が時価の6割を目安に引き上げられます。なぜ見直しになり、どう変わるのでしょうか。また、今後の相続税・贈与税にどう影響するのでしょうか。山田&パートナーズのパートナー税理士の清三津裕三さんと税理士の志賀康彦さんに聞きました。
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Q. なぜ、1室マンションの相続税評価が見直しになったのでしょうか。現在の算定方法にどんな問題があるのでしょうか。
A. 現在の算定方法では、マンションは戸建てより低く評価されます。特にタワマンでは大幅に低くなるため、過度な相続税対策として利用されており、その是正を図るために見直されます。
まず、不動産の相続税評価がどうなっているかを確認しましょう。相続や贈与で取得した財産は基本的に財産評価基本通達(以下「通達」)によって評価をします。土地と建物もこの通達にのっとって評価をします。
土地は路線価方式か倍率方式で評価します。路線価方式だと相続税評価額は時価の8割程度に収まります。もし土地が賃貸物件の敷地ならば、さらに約2割引きとなり「時価×60~70%」が相続税評価額となります。
建物は原則「固定資産税評価額」で評価します。この評価額も時価より低めです。新築物件だと「建築価格×50~70%」程度、賃貸だとさらに3割引きとなり「建築価格×30~50%」程度が相続税評価額となります。
ただ、この2つの評価方法は元々、戸建ての建物が前提でした。分譲マンションの1室は考慮されておらず、戸建て住宅と同じ評価方法で評価します。結果、都内の高層マンションを中心に、相続税評価額が時価とかけ離れる現象が生じているのです。
まず土地ですが、分譲マンションは広い敷地であっても多くの入居者で共有していますので一室当たりの土地面積は小さくなります。特に高層マンションは「1室に対応する土地面積は10㎡前後」というケースがめずらしくありません。結果、路線価が高い地域でも相続税評価額に反映されにくくなります。
次に建物ですが、高層マンションの時価は高層階ほど高く、低層階ほど低い傾向にあります。しかし固定資産税評価額は変わりません。つまり高層階ほど時価と相続税評価額に乖離が生じます。
このように、都心の高層マンションを中心に、分譲マンション1室あたりの相続税評価額が時価とかけ離れるケースが目立つようになりました。実際、都心の高層マンションの場合、1億円で購入した物件でも相続税評価額は2~3,000万円程度の物件は多くあります。
この時価と相続税評価額の乖離を利用した節税が、いわゆる「タワマン節税」です。相続税を減らしたい富裕層が高層マンションの高層階を買って相続税対策をするケースが増えました。「富裕層が1億円の物件を買って3000万円の評価額で子や孫に贈与し、その後すぐに売って1億円の現金を手にする」といったケースが目立つようになったのです。課税当局はこれを「行き過ぎた節税対策」として対応を考えていました。
そんな中、昨年4月、財産評価の例外規定である通達の総則6項を適用した最高裁判決がマスコミに取り上げられ、注目を集めました。
6項では「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」としています。
国民の大半は相続しても相続税はかかりません。そういった人たちにとってこの判決は納得のいくものでした。こういった国民の声が後押しとなり、マンション評価の変更が検討されるに至ったと思われます。
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相続の相談が出来る税理士を探すQ. マンション1室の評価方法は、いつからどのように変わるのでしょうか。また、どんなマンションに影響が出るのでしょうか。
A. 2024年1月1日以降、相続か遺贈、贈与で取得した1室マンションについて評価方法が変わります。見直しの影響を受けやすいのは高層マンションの高層階です。
9月28日に居住用の区分所有財産の評価について、国税庁が法令解釈通達を出しました。新評価は2024年(令和6年)1月1日以後に相続、遺贈または贈与により取得した財産の評価から適用されます。
具体的な計算式は次のようになります。
(現行の相続税評価額×マンション1室の評価乖離率)×評価水準0.6
「現行の相続税評価額×マンション1室の評価乖離率」は、統計から算出した市場価格理論値、つまり時価を示しています。現行の相続税評価額の水準が時価の6割に満たない場合に、6割になるよう評価をします。
ただ、最初に行う評価はこれまで通りです。従来通りの評価をして、評価水準が6割未満になるようであれば、この計算式で評価するわけです。国税庁のサンプル調査によると戸建ての評価水準は平均で6割程度であるため、「最低限、戸建ての評価水準に合わせる」という考え方になります。評価乖離率の要素を含めると非常に細かい計算式となっていますが、国税庁は「納税者が簡易に計算できるようなツールを用意する予定」と公表しています。
今回の見直しで影響を受けやすいのは高層マンションの高層階です。ただ、中層マンションでも乖離率が大きければ影響を受ける可能性があります。
なお、今回の評価方法の見直しは、高層マンションほど大きな影響を受けることになりますが、評価額が高くなると言っても、時価の6割程度までです。したがって、相続税評価額と時価の乖離は引き続きあるということになります。
Q. 今回の見直しについて「富裕層の投資の中心は、ビンテージマンションやマンション1棟買いだから意味がない」「今回の見直しで、これから投資対象は地方に移る」という見解があります。これについて、どうお考えになりますか。
A. 今回の見直し対象から区分所有でないマンション1棟は対象外であり、築年数が古くても希少価値のあるビンテージマンションの希少性は評価に反映されていません。
今回の評価の見直し対象について、タワマン節税のイメージが強いせいか「都内のタワマンのみが影響を受ける」と誤解している方もいるかもしれません。しかし、見直しの対象は都内のタワマンに限らず、すべての分譲マンションが対象です。そのため、中層マンションでも相続税評価額と時価との乖離が大きければ、今回公表された評価方法の対象になります。
地方のマンションでは、例えば北海道は地方の中でも投資対象として人気が高く、時価が上がっています。しかし路線価は低いままです。このような物件も評価見直しの対象となります。
Q.相続対策として高層マンションを買った人にとって、今回の改正は痛手に感じられます。今後、どのような対策を講じていったらいいでしょうか。
A. 節税効果がゼロになるわけではありません。見直し後の評価額は時価の60%程度なので、当初の想定ほどでなくても、財産評価が減少する効果は期待できます。
ただ、「年内に現行の評価方法で評価をして子や孫に贈与をしよう」と考える一部の富裕層がいるようです。見直し後の評価方法が適用されるのは、来年以降の相続・贈与で取得したマンションです。実際、見直し後の評価方法では評価額が増え、実質的に増税になります。来年から生前贈与加算の対象期間が3年から7年になることもあり、できるだけ税負担を抑えたいと年内の贈与を急いでいるようです。
注意したいのが「年内贈与であればノーリスク」とはならない点です。節税目的の贈与であり、かつ贈与税負担の軽減度合いが著しければ、財産評価の例外規定の適用対象になる可能性があります。
Q. 今回の見直しで、タワマンを買う人が減る可能性はあるでしょうか。
A.今回の見直しは、高層マンション購入にあまり影響はないと見られます。相続対策ではなく、純粋に居住や投資目的として買う人が多いからです。
実際、タワマンの購入者の大部分は、相続税対策ではなく純粋な居住目的や投資対象として購入しています。高層マンションは市場が形成されているため、戸建て住宅より資産価値が高く値上がりを期待でき、現金化しやすいのです。こういったことから「相続なんてまだまだ先」という30代のパワーカップルに人気があります。この傾向は今後も変わらないと思われます。
ただ、今回の見直しで、分譲マンションは相続対策としての効果が薄れると思います。結果、相続対策として検討するのではなく、純粋な投資対象や居住用物件として検討する人が増えるのではないでしょうか。高層マンションの購入についても、低層階や中層階を選択肢にするようになるかもしれません。
Q. 今後、タワマンを含め不動産購入を検討している方へアドバイスをお願いします。
A.節税目的で不動産購入をするのはお勧めできません。今回の見直しを踏まえ、不動産を購入する本来の目的を重視していただければと思います。
今回のマンション評価の見直しは突然のように見えるかもしれません。しかし実際は、2023年度税制改正大綱の基本的考え方等のところでマンションの相続税評価について触れられています。ここを見ると「相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」と書いてあるのです。つまり、今回の見直しは「時価との乖離が大きすぎる評価をあるべき姿に直す」という方向性を実行したに過ぎないと言えます。
税の専門家としては、節税目的で不動産購入をするのはお勧めできません。税金の効果は、経済的な行為の結果に過ぎません。つまり不動産の購入は、本来は「住む」「家賃収入を得る」といったことが目的であるべきです。節税は、おまけでしかありません。
今後、不動産の購入を検討している方は、今回の見直しを踏まえ、不動産を購入する本来の目的をこれまで以上に重視していただければと思います。
(記事は2023年10月1日時点の情報に基づいています)
税理士法人山田&パートナーズ パートナー 税理士
1995年中央大学商学研究科修了。同年、山田&パートナーズ会計事務所(現 税理士法人山田&パートナーズ)入社。個人・法人の相続・事業承継など資産税を中心とした申告及びコンサルティングを担当。顧客及び金融機関向けセミナーの講演多数あり。税理士法人山田&パートナーズは総合型税理士法人として、人員数800名超、全国20か所、海外4か所に拠点を持ち、個人から法人まで税務についての幅広いサービスを提供している。
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