目次

  1. 1. 権利や財産を保護する成年後見制度と民事信託
  2. 2. 悔いなき人生のためにも遺言を
  3. 3. 公正証書遺言の作り方を簡単に説明

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超高齢社会となった現在、問題となるのが認知症の方の財産の管理と相続です。認知症だからといって本人を無視して、その財産を家族が勝手に処分することはできません。銀行も本人が認知症だと分かると、その預金を凍結してしまいますから、家族が本人の生活費を賄うために預金を払い戻そうとしてもできなくなってしまいます。それだけでなく、認知症になってしまうと、原則として遺言を作成できません。ですから、遺言によって遺産争いを防ぐこともできなくなります。このため、認知症に備えた財産の管理と継承が大切です。

日本公証人連合会長の大野重國さんは、備えについてこう話します。「認知症に対する備えとしてお勧めするのが、公正証書遺言、任意後見契約、さらに民事信託です。公正証書遺言は年間11万件、任意後見契約も1万2000件作成されており、最近は、公正証書による民事信託も急増しています」

何の備えもないまま認知症となってしまった場合には、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらう法定後見制度を利用するしかありません。その場合、本人がどんなに信頼していた家族がいたとしても、その家族が成年後見人に選任されるという保証がありません。

そこで、予め信頼できる家族などを任意後見人と定め、将来、認知症になったときには、その任意後見人に財産管理と介護をしてもらうという任意後見契約を締結しておくことが必要となります。このような成年後見制度は、後見人が本人に代わって法律行為をし、本人が不利益を被らないよう権利や財産を保護する制度です。

「アパートを経営している方が認知症気味になり、将来、アパートを売却して養護施設に入居したいと希望しているものの、売却手続が終わる前に認知症が悪化すると、手続すらできなくなります。このような場合に、アパートの所有権を信頼できる家族に信託譲渡するという方法があります」

名義は家族のものになりますが、本人が認知症となった後でもアパートの管理や売却手続を家族が行うことができますし、自分自身を受益者としておけば、アパートの賃料収入や売却代金は家族が勝手に使うことはできず、本人のためにしか使えません。しかも仮に家族が破産してもアパートやその売却代金を差し押さえられることもありません。アパートやその売却代金は信託財産として保護されるのです。

「先妻との間に子供がいて、今の妻との間に子どもがいない人が、財産は今の妻に遺すが、妻の死後は先妻との間の子どもに相続させたいと考えたとします。しかし、自分の遺言だけで、今の妻に遺した財産を相続させることはできません。このような場合、信託契約で、当初の受益者を自分自身とし、自分が死んだら今の妻を第二次受益者にします。今の妻が亡くなったら信託が終了し、先妻との間の子どもがその財産を取得するという内容にしておけば、残った財産は確実に先妻との子どもに渡ります」と大野さんは解説します。

しかし、公正証書遺言のほかに、任意後見契約、信託契約、さらに最近では尊厳死宣言など、隣接する諸制度を組み合わせたハイブリッドな備えは、法律の知識がない素人には複雑すぎて手間も時間もかかります。プロに任せるのが最善でしょう。

公正証書遺言の大切さを強調してくれた大野さん(右)と記事を執筆した永浜敬子さん=東京都千代田区

次に、遺言の「付言事項」についてです。大野さんは次のように教えてくれました。「遺言には最後に自分の思いを記す付言事項があります。これは、法的効力はありませんが、相続の理由や、家族への想い、これから家族がどうあってほしいかなど、本人の思いを付け加える部分です。たとえば、家業を手伝ってくれた長男と借金で親に迷惑をかけた次男では、長男に多く残してやりたいのが心情です。なぜ、長男のほうが多いのか、その理由を記した付言事項があれば、親族の争いを避けることができます。付言事項は家族に贈る最後のラブレター。付言事項を読んでいるとき、感極まって涙を流される方もたくさんおられます。公証人は将来の紛争をなくすことが仕事。いわば予防司法です。目の前で涙を流して感謝されると、大きなやりがいを感じています」

自分の生き方、死に方と向き合い、自分の財産に責任を持つことは、残された家族への愛情です。悔いのない人生のためにも、遺言を考えてみませんか?

最後に、これまでに説明した公正証書遺言の作り方を箇条書きでまとめました。

1.相談 公証役場に赴くか、電話、メールなどで相談する。

2.資料の準備 公正証書遺言の作成に実用な各種資料を揃える。

3.遺言案の作成 希望する内容や資料をもとに草案を作成。

4.内容の確認 希望通りの内容になるまで、必要に応じて修正。

5.遺言状の作成 証人2人以上の立ち会いのもと公証役場(病院などでも可)で作成。署名、捺印。

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