目次

  1. 1. 預貯金の仮払い制度だけでは不十分
  2. 2. 遺言代わりに生命保険を活用

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前回のコラム「相続税の納税資金、遺言、贈与……今から押さえるべき4つのポイント」で、将来の相続に備えた準備は、相続税の納税資金の準備、保有財産の評価方法、相続税を考慮した遺言の必要性、生前贈与の活用の4つの観点に整理して検討することが必要であることを説明しました。今回は、相続税の納税資金の観点で見落としがちな留意点と対応策を紹介します。

相続税の申告及び納税が必要な場合、その期限は亡くなってから10か月です。
不動産を多数所有している地主さんや株価の高い自社株を所有している会社経営者は、相続税を相続財産中の預金だけでは賄えないケースがあるため、納税資金の準備をしておくことは重要であると認識されている方は多くいらっしゃいます。

一方で、財産内容が預金など金融資産が中心の方は、(相続税はなるべく少ない方が良いけれど)家族が納税資金で困ることはないだろうとお考えの方が大半です。
しかし、財産が全て預金だけであっても、相続人が納税資金で困るケースがありますので、ご紹介をいたします。

亡くなった方名義の預金口座は、金融機関が口座名義人の死亡を確認すると、口座は凍結され、遺産分割が成立するまでは原則、家族といえども自由に名義変更や引き出しはできません(平成30年の民法改正で相続人単独で一定額の引き出しが可能となる預貯金の仮払い制度が手当されましたがこれだけでは不十分なケースが多いと考えられます)。

そのため、相続財産中の預金を納税資金に充てるためには、遺言がない場合には、相続人全員でその預金を誰が相続するのかを決める遺産分割協議を行って、全員が実印を押した遺産分割協議書を銀行に提出する必要があります。
遺産分割の話し合いが相続発生後10か月以内にまとまらなくても、相続税の申告と納税は必要です。この場合の申告は未分割申告と呼ばれ、相続税の納税は法定相続分で相続したものと仮定して納税する必要があります(後日遺産分割が成立したら修正申告や税金を還付してもらう更正の請求という手続きを行います)。

そのため、財産の分け方で揉めてしまい、10か月以内に遺産分割がまとまらない場合には、亡くなった方名義の預金は十分にあっても納税には充てられないことになります。
しかし、遺言を準備しておき、相続発生後、預金がスムーズに名義変更などできれば、相続人が納税資金で困ることはありません。このように遺言を準備しておくことは、相続税納税資金の観点でも有用です。

ただ、遺言は預金など一部の財産についてだけで作成することも可能ですが、財産全ての分け方を決めてからでないと、遺言は準備したくないという方もいらっしゃいます。
そのような場合には、生命保険を遺言代わりに活用する方法もあります。

生命保険は言うまでもなく、死亡保険金の受取人を指定することが可能です。受取人として指定された方は、被保険者である家族が亡くなった際に、他の相続人の同意がなくても単独の手続きで速やかに保険金を受け取ることが可能ですので、遺産分割がまとまらない場合でも、確実にお金を受け取り、納税資金に充てることが可能となります。

最後に、上記で説明しました相続税納税資金の問題は、相続税の納税が生じる全ての方に共通です。
皆様もご家族が納税資金で困ることがないように確認と準備をしていただきたいと思います。
ご心配な方は、専門の税理士に相談してみてはいかがでしょうか。

(記事は2019年10月1日時点の情報に基づいています)

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