10.信託不動産は登記簿にどのように記載される?
財産管理の手段として「家族信託」の活用を訴える司法書士の宮田浩志さんが、信託不動産の登記簿について、記載例や仕組み、メリットなどを解説します。
財産管理の手段として「家族信託」の活用を訴える司法書士の宮田浩志さんが、信託不動産の登記簿について、記載例や仕組み、メリットなどを解説します。
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信託契約に基づき、信託設定に関する登記申請をした場合に、登記簿にどのように記載されるかについて説明します。
図表1-4は、元々山田父郎(80)が所有していたアパートの登記簿だと想定してください。父郎は、長男・子太郎(50)と平成25年1月25日に信託契約(委託者兼受益者:父郎、受託者:子太郎)を交わして、アパートの管理・処分権限を託しました。すると子太郎は、管理処分権限を持つ者として、甲区の所有者欄に「受託者」という肩書付で名前が記載されます。いわば、形式的な所有者となりますので、その効果として、以後アパートの賃貸借契約の新規契約・更新・解除に関する書面には、父郎に代わりすべて子太郎が「受託者 山田子太郎」として調印します。
また、「受託者 子太郎」が当該アパートの固定資産税の納税義務者や火災保険の契約者、大規模修繕の施主になったりします。アパートを売却する場合には、「受託者 子太郎」が売主になり、その際の本人確認手続きは受託者に対してなされます。つまり、信託契約後は父郎が認知症等で判断能力が低下・喪失しても、信託財産の管理等については、一切影響を受けない仕組みが構築できるのです。これが高齢の不動産オーナーの認知症対策として家族信託が活用できるゆえんです。
信託不動産の登記簿には、さらに「信託目録」が作成されます。家族信託のすべての拠り所は信託契約書になりますが、信託目録は、契約書の中から重要な情報を抽出して登記簿に記載し、誰でも見られる仕組みとなっています。具体的には、なぜ信託を組んだのかという信託の目的、具体的な受託者の権限、いつまで信託契約が存続するかという契約期間や終了事由などです。実務上、どこまで信託目録に記載するかは、登記を担う司法書士の判断によることになりますので、家族信託の実務を理解した司法書士が信託登記をするのが好ましいといえます。
次回の記事では、商事信託と民事信託の違いについて解説します。
この記事は、「相続・認知症で困らない 家族信託まるわかり読本」(近代セールス社)から転載しました。