目次

  1. 1. 老後と相続に効果的な「家族信託」
  2. 2. 生前の財産管理の手段
  3. 3. 遺言の代用としても

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高齢の親世代が今から15~30年前後の間、どうすれば平穏かつ安心した余生を過ごせるか、またそのための資金をどのように捻出するか、認知症による資産凍結を防ぐことも含めて、支え手となる家族はどのように役割分担をして支えるか――。

長寿社会における親の長い老後を万全にするための仕組み作りへのニーズは高いです。

また、その先の親が亡くなった後の資産承継についても、相続人の間で遺恨を遺すことなく円満円滑に遺産を引き継ぐことができるような仕組み作りをしたいというニーズも高いです。

これらのニーズに応えるために、法的知識を駆使してどんな手段を講じるか、どんな仕組みを作っていくか、これが私の日々の業務のほとんどを占めていると言っても過言ではありません。

具体的な施策として、中核となり得るのが「家族信託」という仕組みです。

家族信託は、2007年に信託法が改正されたことを契機に、家族が主体となって年老いた親や障害のある子等の財産管理を担い、さらにその先に発生する相続に対し円満・円滑な資産承継を目指す仕組みとして利用が急拡大しています。

「信託」とは、信頼できる相手に管理を“託す”という財産管理の手法です。管理を担う者を「受託者」と言いますが、受託者は信託銀行等に限定されませんので、家族が受託者となって管理を担う仕組み、言い換えれば“家族による家族のための財産管理と資産承継の手法”が「家族信託」だと言うことができます。

最も典型的なのは、親(委託者兼受益者)が、長男との間で信託契約を交わし、長男が受託者として老親のためにその保有資産を管理・処分する形です(図)。預ける財産のことを「信託財産」と言いますが、実務上は、不動産・現金・未上場株式が主要な信託財産となっています。

家族信託の委託者・受託者・受益者の関係
家族信託の委託者・受託者・受益者の関係

信託契約を締結すると、託した信託財産についての管理処分権限が受託者となった子に移ります。その権限は、老親が大病や認知症になっても全く影響を及ぼしませんので、本人の確認手続きをクリアできず、「不動産が売却できない」「預金が下ろせない」といった事態(これを俗に“資産凍結”と言います)を回避できます。つまり、元気なうちに親子間で信託契約をしておくことで、親が元気でなくなってきた後でも成年後見制度を利用することもなく、引き続き老親の財産管理を円滑に行うことができます。

信託のもう一つの重要な機能として、「遺言の代用」があります。つまり、託した信託財産については、別途遺言書を作らなくても、信託契約書の中で資産の承継先が指定できます。さらに、老親亡き後の1代限りの資産承継にとどまらず、2次相続以降の資産の受取人まで一つの信託契約の中で指定できるという点で、遺言よりも優れた機能を持ちます。この機能を上手に活用することで、将来の遺産争い(争族)を予防することができます。

以上のように、“安心できる老後の財産管理”と“円満円滑な資産承継”を実現するための仕組みとして、まさに家族信託の機能が効果的に活用できる可能性がありますので、まずは「家族信託」の仕組み・効果を知り、使える対策の一つにして頂きたいです。

(記事は2019年10月1日時点の情報に基づいています)

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