「すでに施設入所している要介護度2の父親は信託契約できますか?」「最近物忘れがひどくなってきた母親はどうですか?」「医師から軽い認知症と診断されていますが…」。相続における家族信託に関して、このような質問を頻繁に受けます。今回は認知症と家族信託の締結の可否について解説します。

まず、介護保険制度における要介護認定(要支援1〜2、要介護1~5の7段階)と、物事をきちんと理解する判断能力の有無は、必ずしも関連がないという大前提を理解することが不可欠です。

介護認定は判断能力の物差しではない

介護認定は、他人による介護が必要な度合いを測るもので、判断能力の程度を測る物差しではありません。従って判断能力がしっかりしていても、病気等の理由により手や足が上手に使えず、食事や排泄に介助が必要な方は介護度が高くなります。

また、「認知症の診断が出ている」などの事実があっても、認知症が定義する判断能力の程度に大きな幅がある以上、そのことですぐに信託契約を締結する能力がないと結論付けることはできません。

残念ながら、公的な機関が客観的な立場から親の判断能力の有無を判定してくれる仕組みはありません。あるのは、主治医に診断書を出してもらうくらいです。

以上を踏まえると、要介護度や認知症の診断、物忘れが顕著等という客観的事実は捉えつつも、老親と直接お話をする中で、判断能力の有無を慎重に見極めているのが実際です。認知症の診断が出たからといって、すぐにあきらめず、早急に対応策を検討することが重要なのです。

信託契約の概要が理解できれば、締結は可能

「信託」は、特定の財産の管理・処分を包括的に託す仕組みという点で、非常にシンプルです。従って、親が高齢であっても「自分がどんな財産を持っているか(信託財産)」「その財産の管理を誰に託すか(受託者)」「管理や処分等を任せることで何が実現できるか(信託目的やメリット)」等について、概要を理解して納得できれば、信託契約の締結が可能なケースは少なくないと言えます。

老親が所有する賃貸アパートの管理を、実質的には子が担っているケースはよくあります。これは、親子間で口頭により信託契約を交わしているようなものです。このような場合は、老親が将来、判断能力を喪失したときに備え、親子間できちんと信託契約書を締結し、子が託された権限を対外的に明示しておくことが、将来の老親の財産管理にとって非常に重要です。

(記事は2019年12月1日時点の情報に基づいています)