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遺言書をめぐる現状とこれからの備え

50歳以上を対象とした遺言書の意識調査(回答数1102人)では、遺言書を書くことについて「万が一に備えておくことで、安心感を得られる」「家族の相続手続きの手間を軽減できる」などの理由で前向きな印象を持っている人の割合は約63%と過半数に達しました。遺言には主に公正証書遺言と自筆証書遺言の2種類がありますが、日本公証人連合会によると、2024年に作成された公正証書遺言の数は12万8378件になり、近年は増加傾向が続いています。

一方で、意識と行動にはギャップもあります。同じ意識調査で、遺言書をすでに作成している人は3.6%にとどまりました。今後の作成予定についても、明確に「ある」は5.3%、「どちらかといえばある」は約26%でした。遺言書の必要性を感じつつも、実際には作成に踏み切れていない人が多いのが現状です。

遺言書を書く予定がないと答えた人にその理由を聞くと、「自分の遺産が少ないので作る必要がない」「今は健康なのでまだ必要ない」「手続きが面倒」「相続人の仲が良く、もめないと思う」といった理由から、自分ごととしては捉えられていない様子がうかがえます。

遺言書を作成する予定が「ない」「どちらかといえばない」と答えた人の理由の内訳(複数回答)。「お金」に関する理由が多いことが分かります(Authense法律事務所提供)
遺言書の作成予定の有無と、作成する予定が「ない」(「どちらかといえばない」含む)と答えた人の理由の内訳(複数回答)。「お金」に関する理由が多いことが分かります(Authense法律事務所提供)

少額の遺産でも起きる相続トラブル

親の相続を経験した50歳以上の人(598人)に、親の相続の際に相続トラブルがあったか聞いたところ、遺産が増えるほど相続トラブルを経験した人の割合は増える一方で、遺産額が500万円未満だった人では6.3%、500万円~1000万円だった人では9.7%が相続トラブルを経験していました。いわゆる「資産家ではない層」でも、一定の割合で争いが起きていることになります。

相続トラブルが発生した理由としては、「お互いが感情的になって話ができなかった」「他の相続人に連絡しても無視されて話し合いを進められなかった」などが挙げられています。金額の大小だけでなく、話し合いそのものが成り立たなくなることが、トラブルを深刻化させる一因といえそうです。

また、親の相続に関する不満調査で、「親の資産額が1000万円以下」と回答した50歳~69歳の135人に対し、「遺産として受け取る現金がいくら少なかったら納得できないと感じるか」と尋ねたところ、「11万円~100万円」という回答が62.2%で最多でした。「2万円~10万円」は7.4%、「1万円以下でも少ないと納得できない」と答えた人も4%おり、必ずしも大きな差ではないと感じられる範囲でも、不満が生まれやすいことがうかがえます。

こうした結果を踏まえると、事前の備えへのニーズも見えてきます。親が存命の50~60代(481人)では、38.2%が「自分の親に遺言書を作成してほしい」と考えており、そのうち「絶対に作成してほしい」は8.7%でした。背景には、きょうだいや身内同士でもめたくない、手続きをスムーズにしてほしいといった思いがあります。

これからの10年前後で、いわゆる団塊世代が本格的に相続の時期を迎え、資産の多くが次の世代へ移っていきます。そのとき、遺言書を準備している家庭と、何も決めていない家庭とでは、遺された家族の話し合いの負担やトラブルの起きやすさに差が出ることが予想されます。遺言書を「特別な人のもの」ではなく、自分事として検討することは、相続トラブルを減らすうえで重要なポイントになりそうです。

(記事は2025年12月1日時点の情報に基づいています)

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