目次

  1. 1. 配偶者居住権とは
  2. 2. 設定するもしないも自由
  3. 3. 遺言書で遺贈する場合は公正証書で
  4. 4. 設定した方がいいケース:自宅不動産以外に相続財産がない
  5. 5. 設定しない方がいいケース:長く自宅に住むつもりがない
  6. 6. 長期の居住権は登記の設定を
  7. 7. 配偶者短期居住権が役立つ場面とは
  8. 8. まとめ 権利を守るには「登記」が必要

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配偶者居住権とは、自宅の持ち主が亡くなっても、その妻や夫である配偶者は、引き続き自宅に住める権利のことです。「家族なんだから住めて当然」と思うかもしれません。例えば、相続人後妻と先妻の子の仲が悪く、自宅の持ち主が亡くなったとたん、自宅の不動産を巡ってトラブルになり、後妻が家から出なければならないケースも想定されます。こうした場合でも、残った配偶者が自宅に住む権利を保障すべく創設されたのが配偶者居住権です。

配偶者居住権とは? 制度の概要と注意点をわかりやすく解説

配偶者居住権には短期と長期の2種類があります。短期は「配偶者短期居住権」といい、亡くなった人と同居していた配偶者が、亡くなった日から最低6カ月間は自宅に住めるものです。長期は「配偶者居住権」といい、亡くなった人の妻や夫は一生自宅に住める権利です。終身だけではなく、「10年」「20年」と期間を区切ることもできます。短期は手続き不要ですが、長期の場合は、亡くなった人の遺言書か、または原則として遺産分割協議での相続人全員の合意で設定します。

配偶者居住権の認知は高まってきたものの、具体的な運用はあまり知られていません。名前だけ聞くと、「配偶者居住権は、配偶者なら誰もが設定しなくてはいけないもの」と思っている人もいるようです。

通常、何もしなくても相続後も引き続き自宅に住める人はたくさんいます。このような場合も配偶者居住権を設定しなくてはならないのでしょうか。平良さんは「無理に設定しなくてもいい」と言います。

「配偶者居住権は必ず設定するべきものではありません。民法改正により『いざというときの選択肢』が増えたにすぎません。設定するかしないか、また、いつ設定するかは自由なのです」

自宅の持ち主が生前に配偶者の住む権利を守りたいと思うなら遺言書で設定すればよいわけです。また、自宅の持ち主が亡くなった後で必要が出てきたときは、相続人同士の遺産分割協議で合意すれば間に合います。

すでに遺言書を作成している人が、配偶者に居住権を遺贈したい場合、遺言書に加筆できるのでしょうか。平良さんは「改めて遺言書の作り直しをした方がいいでしょう」と言います。「以前作成した遺言書に加筆する方法ですと遺言書が全体として無効となるおそれがあり、トラブルの元になるかもしれません。一から作り直すべきです」

よく使われる遺言書の形式として2つあります。一つは自筆証書遺言といい、財産の持ち主自ら手書きして文書を残すものです。もう一つは公正証書遺言といい、公証役場で公証人に作成してもらいます。平良さんは公正証書遺言での配偶者居住権の設定を勧めています。

「自筆証書遺言は一般の方が書くため、遺言書の表現があいまいになることがあります。そのため、解釈の違いで相続人同士が争うことが少なくありません。

しかし、公正証書遺言は、法律のプロである公証人が作成するため、解釈の余地が生まれるような遺言書にはなりません。遺贈で妻に取得させるなら「遺言者〇〇は、下記(詳細)の配偶者居住権を、遺言者の妻である△△に遺贈する」と明確に書きます。住む権利を確実に守るなら公正証書遺言を作成した方がいいでしょう」

配偶者居住権を設定する場合、ほかにも注意することがあります。例えば、施設に入居することが決まり、自宅を出ていく時です。自宅所有者から現金を受け取れば確定申告をする必要があります。また、配偶者居住権の取得に合意が得られても、他の遺産分割協議が進まなければ、自宅に住むのが不安になります。「遺言書ならば公証人に」と同じく、税金なら税理士に、争いなら弁護士に…と、不安があったらその都度専門家に相談した方がよさそうです。

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設定してもしなくてもいい、というのが分かってホッとした一方で、設定した方がよいケースとはどんな場合かが気になるところです。平良さんは「自宅以外に相続財産がほとんどないときは設定したほうがよいでしょう」としています。

例えば、「夫が亡くなり、相続財産が自宅と少しの現預金のとき、妻が自宅を相続すると、他の相続人に財産はほとんど残りません。だからといって、妻も自宅を相続して満足というわけでもないのです。自宅をもらったために「現預金もほしい」とは言いだせず、相続後の生活が苦しくなるからです」。

こういうときに配偶者居住権が活用できます。子どもに自宅の所有権を相続してもらい、妻や夫は配偶者居住権と現預金を受け取れば、相続後の生活の不安がなくなります。また分け方が比較的公平になるため、相続人同士が納得しやすくなります。

このほか、平良さんは「先祖代々続く家の相続で配偶者居住権は重宝するかもしれない」と付け加えます。

例えば、代々続く家を相続した夫婦に子どもがいなかった場合です。「今でも『自宅の土地は代々〇〇家で守りたい、でも妻の住まいは確保したい』という風潮があります。ここで配偶者居住権を使えば、妻が生きている間は住む家を保障しながら、自宅不動産は亡くなった夫の弟が相続すれば、家は○○家で引き継ぐことができます」。

また、残った妻が10年後くらいには介護ケア付きマンションに移り住みたいと計画している場合などにも配偶者居住権が有効です。期間を10年間に区切って設定すれば、自分のライフプランに合わせて住む権利を確保できます。

逆に設定しない方がいい場合もあります。平良さんは「残された配偶者が自宅に長く住むつもりがないなら、やめておいたほうがいい」と言います。

「すぐに出ていくなら配偶者居住権の設定はかえって面倒です。それに、配偶者居住権は、配偶者にだけ認められた権利であり、自宅の所有権ではないので、自宅を売ってお金を受け取ることができません」

遺産分割後すぐに介護施設に入居する予定があったり、子どもの家に移る予定があったりする人は、設定しない方がいいようです。また、古い自宅を売却し、売ったお金で新しいマンションに移りたいときは、自宅そのものを相続する方が無難です。

配偶者居住権は相続人に対して主張する居住権です。設定には遺言書や遺産分割協議が必要とされていますが、本当にそれだけで足りるのでしょうか。平良さんは「長期の配偶者居住権には不動産のような登記制度があります」とした上で、配偶者居住権の登記を勧めました。

「配偶者居住権は、長い期間にわたって自宅に住める権利ですが、その間に自宅の所有権を相続した子どもが自宅を売却する可能性もあります。そんなとき、あらかじめ登記をしておけば、身内だけでなく第三者の買主に対しても「住む権利」を主張できるのです」

さらに、平良さんは「配偶者居住権は途中で放棄できます」とした上で、配偶者居住権の消滅にも触れました。

「災害や病気で転居せざるを得ないときは、配偶者居住権を消滅させてその権利を手放すことができます」

手続は取得も抹消も通常の登記手続と同じです(図表参照)。配偶者居住権を登記するには、遺言書か遺産分割協議書の他、印鑑証明書など登記に必要な書類を持って法務局に行かなくてはなりません。このとき、配偶者単独ではなく、自宅の所有権を引き継いだ相続人と一緒に手続きする必要があります。

取得には被相続人の意思または原則として相続人全員の合意が必要です。一方、配偶者の死亡によって配偶者居住権が消滅した場合には、所有者は単独で登記の抹消手続を行うことができます。配偶者の死亡以外の原因で配偶者居住権が消滅した場合には共同で抹消手続を行うことになります(図表参照)。抹消に伴って自宅の持ち主からお金をもらう場合は、確定申告が必要になるため、金額も記載した合意書を用意しておいた方がよいでしょう。

一方、配偶者短期居住権には登記制度がありません。長期の配偶者居住権と比較すると使い道がわかりにくいのですが、平良さんは「他の親族との仲が円満でない中での引っ越し準備に配偶者短期居住権は効果がある」としています。

「遺産分割終了後、転居することになったとしても、相続手続きなどで忙しく、すぐには引っ越せません。このとき、配偶者短期居住権で保護されることで、落ち着いて引っ越しの準備をすることができます」

このほか、遺産分割協議が長引いたときも配偶者短期居住権を行使して最低6か月間は自宅に住むことができます。

相続財産は、プラスの財産だけとは限りません。多額の借金ばかりが残る場合もあります。こんなとき「財産はいらないけど配偶者居住権だけはほしい」と思うものですが、その言い分は通るのでしょうか。平良さんは「配偶者居住権は相続・遺贈という手続きを経て、初めて取得できます。相続放棄をしたら、配偶者居住権は主張できません」と答えました。

配偶者居住権は「誰もが絶対すべきもの」ではありませんが、ケースによっては設定した方が、残された配偶者が安心して自宅で暮らし続ける権利を持つことができます。ただし、配偶者居住権を設定する前に、その後のライフプランについてもあらかじめ考えておく必要がありそうです。また、「配偶者居住権を取得したら登記すべし」と覚えておきましょう。

(記事は2022年9月1日現在の情報に基づきます)

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