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相続財産の中で、不動産には他の財産にはないいくつかの特性があります。そのひとつが、不動産は「常にコストがかかる」ということです。例えば現金や預貯金を相続するときにお金はかかりません。ところが不動産を相続するときには、自分の名義に変更するための手続き(相続登記といいます)をすることで登録免許税という税金がかかります。その後も不動産を所有していると、税金や維持管理のための費用がかかります。
今回は、相続した不動産のコストのうち、税金にフォーカスしてファイナンシャルプランナーが解説します。
1. 不動産を相続すると、もれなく税金がついてくる
不動産を相続すると、さまざまな場面で税金がかかりますが、大きく分けると次の3つの場面があります。
①『不動産を相続した時』…登録免許税。相続税がかかる場合も。なお、相続の場合、不動産取得税は非課税
②『不動産を所有しているあいだ』固定資産税。都市計画施行区域では都市計画税も
③『不動産を譲渡する時』…譲渡所得税(売却して利益があった場合)
つまり、手に入れてから手放すまで、税金がかかり続けるのが不動産なのです。
これから、それぞれの場面で課税される税金について整理をしていきましょう。
2. 不動産を相続した時にかかる税金
2-1. 登記をする時にかかる登録免許税
不動産を相続すると、亡くなった人の名義を引き継いだ人の名義に変更する「相続登記」をします。相続登記を行う際には「登録免許税」という税金を納めなければなりません。
相続登記の登録免許税率は、不動産の固定資産税評価額の0.4%です。
例えば固定資産税評価額が3,000万円の土地を相続登記する場合の登録免許税額は、
3,000万円×0.4%=12万円です。
この税額に、登記手続きを司法書士に依頼した場合の報酬を加えた合計額を登記費用といいます。
2-2. 相続税と不動産
相続や、遺言によって財産を受け取る「遺贈」によって、亡くなった人から相続人などが取得した財産の合計を「課税価格の合計額」といいます。この価格は、現金・預貯金・株式などの金融資産や不動産などのプラスの財産から借入金や葬式費用などのマイナスの資産を差し引いて算出します。
課税価格の合計額が、相続税がかからないボーダーラインである「基礎控除」を超えた場合、相続税の対象となります。
相続税の基礎控除は次の式で求められます。
基礎控除=3,000万円+600万円×法定相続人の数
たとえば、夫が亡くなり、相続人が妻と2人の子どもの計3人の場合、基礎控除は
3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。
つまり、課税価格の合計額が基礎控除の4,800万円を超えなければ相続税の対象にはなりません。
また、基礎控除を超えた分だけが相続税の対象になります。
相続財産の中でも一般的に不動産は高額な財産とされています。
預貯金をあまり持っていなくても、自宅が地価の高い場所にあったり、自宅の敷地面積が広い場合などは、自宅の不動産の評価額だけで基礎控除を超えてしまうこともよくあります。特に日本では持ち家率が高く、2017年の調査でも全国平均で6割を超えています。さらに自宅以外の不動産を相続する人もいるため、多くの人に相続税が課税されることになりそうです。
ところが実際に相続税が課税されたのは2017年に亡くなった人のうち8.3%と約12人に1人の割合で、それほど高いようには思えません。
3. 不動産評価額を引き下げられる「小規模宅地の特例」
実は、自宅などの不動産を相続した場合、一定の要件のもとに評価を大幅に引き下げてもらえる特例があります。
これを「小規模宅地の特例」といいます。
小規模宅地等の特例には、「特定居住用宅地等の特例」「特定事業用宅地等の特例」「貸付事業用宅地等の特例」がありますが、ここでは最も多くの人が使える「特定居住用宅地等の特例」について解説します。
「特定居住用宅地等の特例」は、被相続人の自宅の敷地を配偶者や子が相続した場合に、330㎡(約100坪)までの部分については課税価格が80%引き下げられ、20%になるというものです。
この特例が設けられた理由は、自宅しかない人が、相続税が支払えずに自宅を手放すのはさすがに気の毒ということからで、安心して自宅に住み続けられるように配慮した制度なのです。
例えば、法定相続人が3人おり、東京都内にある敷地面積30坪、相続税の評価額が坪当たり300万円の自宅を相続した場合、土地の相続税評価額は、
300万円×30坪=9,000万円
となり、基礎控除の4,800万円を大きく超えますが、この特例の適用が受けられれば、土地の評価額は
9,000万円×20%=1,800万円
と基礎控除を下回り、他の相続財産の課税価格が3,000万円以内であれば、相続税はゼロになります。
この制度があるおかげで、多くの人の相続税が大幅に安くなるので、相続後も自宅に住み続けることができます。特に主な相続財産は自宅だけという人にとっては、たいへんうれしい制度です。
3-1. 「小規模宅地の特例」を受けるための要件
この特例を受けるための要件は以下の通りです。
・配偶者が相続した場合
特に要件はなく、配偶者はこの自宅に住んでいなくてもこの特例の適用を受けられます。
・同居していた親族(子など)が相続した場合
この場合、相続税の申告期限(相続のあった日の翌日から10カ月以内)まで所有し続け、かつ住み続けていれば適用が受けられます。
・同居していない親族(子など)が相続した場合
別居していても、家を持たずに賃貸住宅に住んでいる子などが実家を相続した場合に使えるので、「家なき子特例」ともいわれています。反対に、持ち家がある別居の子には適用されません。その理由は、持ち家がある子は「住むところに困っているわけではないので特に評価額を下げなくても、税金が高ければ相続した自宅を売却すれば良いでしょう」という考え方があるからです。
このケースでは適用要件はかなり厳しく、以下の要件をすべて満たす必要があります。
・被相続人に配偶者も同居親族もいない
・過去3年以内に自己、自己の配偶者、3親等以内の親族などが所有する家に住んだことがない
・相続開始時に居住していた家を過去に所有していたことがない
・相続税の申告期限まで所有し続ける
以上のように、被相続人の自宅の相続については、政策的な配慮がされているのです。
その他にも不動産の相続では、アパートやマンションのように人に貸す建物が建っている「貸家建付地」や、他人が家を建てるために貸している「借地」なども、一定の計算式にしたがって評価額を引き下げることができます。
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不動産は、保有している間も税金がかかり続けます。
毎年1月1日時点の不動産の所有者には、市町村から「固定資産税」が課税されます。その不動産が都市計画施行地内(市街地の形成を促進する地域)にある場合は、併せて「都市計画税」も課税されます。
税率は次の計算式で求められます。
固定資産税=課税標準×1.4%(標準税率)
都市計画税=課税標準×0.3%(制限税率)
課税標準とは、市町村の固定資産課税台帳に登録された評価額のことで、評価額は3年毎に見直されます。
標準税率とは、言葉どおり標準的な税率のことで、固定資産税の税率は市町村によって1.4%を上回って決めてもかまいません。それに対して制限税率は上限が定められており、都市計画税の場合は0.3%を超えることができません。
固定資産税と都市計画税は、住宅用の敷地については軽減措置が設けられています。
自宅、アパート、マンションなどの人が住む「居住用建物」が建っている土地は、「小規模住宅用地」として、1戸当たり200㎡(約60坪)以下の部分については、固定資産税の課税標準が評価額の6分の1、都市計画税の課税標準が同じく3分の1に軽減されています。また200㎡を超える部分についても、一般住宅用地としてそれぞれ3分の1、3分の2に減額されます。(ただし住宅の床面積の10倍が限度)
なお、固定資産税などの納税義務者は1月1日時点の所有者なので、年の途中で不動産を売却した場合でも納税義務者は変わりません。税金の負担の割合をどうするかは、売主と買主で話し合うことになります。
5. 不動産売却時の税金
相続した不動産を売却した際に売却益(=譲渡所得)が生じた場合は「譲渡所得」として所得税がかかります。
初めに譲渡所得と税金の計算のしくみを解説します。
まず譲渡所得を以下の計算式で算出します。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)
取得費とは、不動産の購入代金やその後の改良費(キッチンやユニットバスの交換など)から、登記費用、仲介手数料など購入時の諸費用や、建築年数が経つにつれて価値が減少する分(=減価償却の累計額)を差引いた額をいいます。
また譲渡費用とは売却の時にかかった仲介手数料、解体費用などをいいます。
次に、譲渡所得に対して税率をかけて税額を計算します。
税額=譲渡所得×譲渡所得税率
譲渡所得税率は、短期譲渡と長期譲渡によって異なります。
短期譲渡とは、所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年以下の場合の譲渡をいいます。
この場合の譲渡税率は39%(所得税30%、住民税9%)と高い税率になります。(復興特別所得税が加算)
長期譲渡は、所有期間が譲渡した年の1月1日時点で5年を超える場合の譲渡をいいます。
この場合は、20%(所得税15%、住民税5%)です。(復興特別所得税が加算)
なお、相続の場合の所有期間は、相続人が相続した時を起算日とするのではなく、その不動産を取得した人(父、祖父、曾祖父など)の取得日を引き継ぎますので、一般的には長期譲渡となるケースが多いと考えられます。
5-1. 不動産の取得費が分からない場合(概算取得費)
実は、相続した不動産を売却すると、税金がかかるケースが多いといわれています。
前述の通り、譲渡所得は売却価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算しますが、相続した不動産の場合、取得費が分からないことが少なくありません。亡くなった父や祖父がその不動産を購入した場合には購入当時の契約書が残っている可能性もありますが、契約書を失くしてしまった場合や、代々相続で引き継いできた不動産は取得費が分かりません。その場合には、売却価格の5%を概算取得費とすることになっています。
事例で税額を比較してみましょう
【ケース1】売却価格3,000万円 取得費2,000万円 譲渡費用200万円、所有期間が5年を超える場合
譲渡所得=3,000万円-(2,000万円+200万円)=800万円
税額=800万円×20%=160万円(復興特別所得税が別途かかる)
【ケース2】売却価格3,000万円 取得費不明 譲渡費用200万円、所有期間が5年を請える場合
譲渡所得=3,000万円-(150万円※+200万円)=2,650万円
税額=2,650万円×20%=530万円(復興特別所得税が別途かかる)
※取得費は売却価格3,000万円の5%を概算取得費とする
上記のように、税額に大きな差が出てしまいます。
譲渡所得の申告は売却した翌年の2月16日から3月15日の間に行うので、それまでは納める税金を手元に残しておかなければいけません。そのために、相続した不動産の売却を検討する場合には、あらかじめ税額と税金支払い後の手取り金額の目安を把握しておく必要があります。
5-2. 譲渡取得の税金が軽減される特例がある
相続した不動産を売却する場合に、譲渡所得に対する税金が軽減される特例があります。
それが「空き家の譲渡所得の特例」です。
一定の要件を満たす空き家を売却する場合、相続日から3年を経過する日が属する年の年末まで(ただし2023年12月31日まで)に売却をすると、譲渡所得から特別控除として最高3,000万円を控除できるというものです。一定の要件とは、以下の通りです。
・相続開始直前において被相続人が居住していたこと。ただし被相続人が老人ホームに入居している場合でも介護認定を受けていれば適用の対象となります。
・相続開始直前において、被相続人以外に居住していた人がいなかったこと
・相続時から譲渡時まで、事業、貸付、居住用に使用されていなかったこと(ずっと空き家のままだったこと)
・昭和56年5月31日までに建築された建物であること
・売却金額が1億円以下であること
・建物付きで売却する場合は現行の耐震基準を満たす建物であること
・空き家を解体して更地で売却する場合も、適用要件を満たしていれば対象となります。
6. まとめ
不動産に関わるさまざまな税金も、課税されて初めて知るのではなく、あらかじめ分かっていれば心の準備もできます。
また特例を知っていれば、税額を減らすことも検討できます。例えば、実家の空き家を相続した場合、相続から3,000万円の控除の適用期限内に売却すれば、税金を減らすことができますが、適用期限を過ぎてから売却すると控除が受けられずに多額の税金を払わなければならなくなってしまいます。
実家の相続に関しては「相続した実家を売却するときの注意点 費用の計算法や税金の特例を解説」でも詳しく記してありますので、こちらもぜひお読みください。
税金を知り、上手に付き合うための学習のきっかけにしていただきたいと思います。
(記事は2019年9月1日時点の情報に基づいています)