目次

  1. 介護を続けてきた人は遺産を多く受け取れることも
  2. 介護以外で寄与分が認められるケース
  3. 遺言書の作成が相続トラブル防止のカギ

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私は高齢の母と同居しながら10年にわたり介護を続けてきました。その母が亡くなり、私と、遠方に住む妹が母の財産を相続することになりました。母の遺産は自宅と銀行の預金が2,800万円、そのほか株式など1,500万円です。妹が「母の遺産の半分は自分に相続権がある」と言ってきましたが、私が介護を主に担ってきたにもかかわらず同じ額の遺産をとられるのは納得がいきません。母は遺言書を遺していなかったのですが、妹の言う通り半分ずつ分けないといけないのでしょうか。(50代女性)

今回のご相談のように「親の介護を巡る相続問題」は、珍しい話ではありません。特に、長年親の面倒を見てきた子どもと、そうでない子どもがいる場合、遺産の分け方をめぐって意見が食い違うことは少なくありません。

今回の相続人は、ご相談者と妹さんのお二人ですね。前提として、遺言がない場合、法律上はお二人とも遺産をそれぞれ2分の1ずつ相続する権利(法定相続分)を持っています。そのため、「遺産の半分を相続する権利がある」という妹さんの主張は法的には正当なものです。

ご相談の内容からは外れますが、母親の遺産となるご自宅やその他の財産が基礎控除額4,200万円を超えた場合、相続税が発生します。税金のことも気になるかと思いますが、今回は「介護の貢献は相続に反映されないのか」という点に絞って解説します。

生前に故人の財産を増やしたり、維持したりすることに貢献した相続人は、他の相続人よりも多くの遺産を相続する権利が認められています。これを「寄与分(民法第904条の2)」といいます。今回のケースでも寄与分が認められれば、ご相談者の取り分は増え、妹さんの取り分は減ることになります。

ただし、寄与分として認められるためにはハードルがあります。具体的には、親子や親族の間で一般的に行われる相互扶助の範囲を超えた「特別な貢献」が求められます。

主な要件は6つあり、すべて満たす必要があります。

  • 亡くなった人にとって必要不可欠な行為だったこと
  • 無償か、わずかな報酬で行われていたこと
  • 通常期待される社会通念上の家事負担を超える特別な貢献であったこと
  • 一時的ではなく一定期間継続的にされたこと
  • 相続人が寄与行為に専念していたこと
  • 亡くなった人の財産を維持または増加させたと認められること

過去に、以下のように裁判で介護についての寄与分が認められたケースがあります。

相続人である息子の妻が、義父に対して13年間にわたる介護のなかで、同居の親族としての扶養義務の範囲を超えて、入院中の看護や死亡直前の半年間の介護を行ったことについて、相続財産の維持に貢献したと認められた(東京高裁平成22年9月13日決定)

この裁判の事例は、2019年7月から法制化された「特別の寄与分」(民法第1050条)に関するもので、相続人ではない親族が介護した分について寄与分を認めたものです。相続人がした介護について寄与分を認めたものではないため、厳密には相談者の事例とは異なるケースですが、今回の相談者のような相続人による親の介護について寄与分が認められるかの判断の参考になります。

裁判で寄与分を認めてもらうためには、財産の維持や増加に直接貢献したという証拠も必要です。例えば、介護に関する日記や医療機関の診断書、介護費用の領収書、交通費の記録などが、寄与分を証明する手段になります。

ただし、実際に裁判で寄与分が認められるためのハードルは高く、認められたとしても期待するほどの金額にはならないケースも少なくありません。そのため、長い時間をかけて裁判で争うより、相続人の間の遺産分割協議で寄与分を認めてもらうのが理想的です。寄与分を主張する際は、貢献の内容や金額を具体的に示し、他の相続人が納得できるように説明することが重要です。

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もし、ご相談者が介護以外でも母親の生活に貢献していた場合、それも寄与分として認められる可能性があります。例えば、「家業の手伝い」(無償で親の商店や農業を手伝い、経営を拡大させて利益を増加させた)、「金銭的支援」(親の生活費や医療費を長期間負担した)、「財産管理」(仕事を辞めて親の不動産管理の仕事に専念し、賃貸経営を手伝った)などが介護以外で寄与分が認められる事例です。

ただし、どれだけ遺産を余分にもらえるのかという寄与分の計算は専門的で複雑です。

今回のケースは、相続トラブルとしてよくある典型例です。実は、こうした問題を防ぐ最も有効な方法は、故人が生前に遺言書を残しておくことでした。

遺言書があれば、介護をしてくれた子に多めの遺産を渡すことも可能です。遺言書は、故人の「誰にいくらの財産を相続させたいか」という意思を確実に反映させるための重要な書類であり、相続人同士の無用な対立を防ぐ手段にもなります。

気を付けないといけないのは、遺言書は法律で形式が決まっていることです。正しい形式で作成しないと無効となってしまうリスクがあり、また、文言一つで意味が変わってしまう場合もあります。せっかく遺言書を作成したのに結局トラブルになる、という事態を避けるためには専門家に相談しながら進めることが重要です。

生前にしっかりと準備しておくことが、家族のトラブルを未然に防ぐ最善の方法だといえるでしょう。

今回の相談のように、遺言書に限らず、ご家族の生前に早めに専門家へ相談することで、適切な準備を進めることが可能です。例えば、私たち税理士にご相談いただいた場合、必要に応じて法律の専門家である弁護士と連携し、チームとしてサポートを行います。

(記事は2025年3月1日時点の情報に基づいています。質問は筆者の実体験を基にした創作です)

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