株の相続税はいくらかかる? 評価や計算方法、節税について税理士が解説
被相続人(亡くなった人)が保有する株を引き継ぐとき、株価に応じて相続税が発生することがあります。ただし、株によってかかる相続税額は、現在の株価だけでなく株の種類などによっても変わります。この記事では、株の相続税はどのように決まるのか、節税対策には何があるのか、相続に強い税理士が解説します。
被相続人(亡くなった人)が保有する株を引き継ぐとき、株価に応じて相続税が発生することがあります。ただし、株によってかかる相続税額は、現在の株価だけでなく株の種類などによっても変わります。この記事では、株の相続税はどのように決まるのか、節税対策には何があるのか、相続に強い税理士が解説します。
目次
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株にかかる相続税は、一定の計算方法によって算出されます。計算の大まかな流れを見ていきましょう。
株の相続税を算出するときは、1株あたりの評価額(株価)を、法律で決められた方法を用いて算出するところから始まります。この手続きを評価と言います。
株の相続税は算出した株の評価額が低ければその分低くなりますが、株を低く評価しすぎた場合(例えば本来1株5万円の株を1万円で評価したなど)、後に延滞税や過少申告加算税といった本来払わなくていい税金が課される可能性があります。そのため、株の評価は、きちんとした手続きにもとづいて行わなければいけません。
株の評価方法は、上場されている企業の株(上場株式)か、上場されていない非上場企業の株(非上場株式)かで大きく分かれます。
■上場株式の場合
上場株式の場合、株が株式市場に公開されている(一般の投資家が自由に売買できる状態になっている)ため、取引相場というものがあります。評価するときは、その取引相場を利用します。
取引相場は、証券取引所にある株式相場表や上場企業のHP、インターネット(「会社名 株価」で検索)などで調べられます。また、相続手続きの際、証券会社から受け取る残高証明書で確認することも可能です。
相続税を算出するときは、次の①~④のうち最も低い金額を取ります。
なお、相続した株がA株とB株である場合には、それぞれの銘柄ごとに評価します。
■非上場株式の場合
非上場株式の場合、上場株式のように株式市場に公開されておらず、取引相場がないため、評価するときは財産評価基本通達という国税庁が決めた方法を用います。
評価方法にはいくつかあり、相続によって株を引き継いだ人が、どのような株主かによって用いる方法が違います。株の発行会社の経営支配力を持っている同族株主等なら「原則的評価方法」、それ以外の株主なら「配当還元方式」で評価します。
・原則的評価方式
原則的評価方式は、株の発行会社を業種・従業員数、総資産価額、取引金額をもとに、大会社、中会社、小会社のいずれかに区分し、それぞれの会社において定められた方法で評価をする方法です。
大会社:類似業種比準方式
中会社:類似業種比準方式と純資産価額方式の併用
小会社:純資産価額方式
※類似業種比準方式:株を評価する会社と業種が類似している類似業種の株価をもとに評価する方法
※純資産価額方式:評価対象会社の純資産価額を発行済株式数で割って株価を求める方法
・配当還元方式
配当還元方式とは、その株を所有することで受け取る配当金額から評価する方法です。直前期末以前2年間の配当金額を1/2にした金額を、10%の利率で還元して評価します。同族株主以外の株主の場合、発行会社の規模にかかわらず用います。
・評価対象会社の状況によっては異なるルールが適用される
評価対象会社の状況によっては、異なるルールが適用されます。例えば、その会社が開業前または休業中の場合は、株主によらず純資産価額方式を採用します。清算中の場合は清算分配見込額により評価します。
次に、1株あたりの評価額に、それぞれの保有株数を掛けて全体の評価額を算出します。例えば1株2,000円のA株を1,000株、1株6,000円のB株を3,000株持っている場合は以下のとおりです。
A株:2,000円 × 1,000株 = 2,000,000円
B株:6,000円 × 3,000株 = 18,000,000円
合計:20,000,000 円
株を相続した場合の相続税の税率は、株以外の預貯金や不動産などを含めたすべての相続財産の評価額によって違ってきます。
つまり、株以外の財産の評価額に、株の評価額が加算されるため、株の評価額によってはより高い税率がかかることがあります。株を売却して納税資金にしようと考えている場合には、評価額によっては納税資金が不足する可能性もあるため注意が必要です。
相続税の計算例を紹介します。ここでは、上場株式C株10,000株のみを相続、かつ法定相続人が1人の場合を見ていきましょう。
C株の株価を調べ、以下の数字がわかったとします。
①相続発生日の終値:9,700円
②相続発生月の毎日の終値の月平均額:9,500円
③相続発生月の前月の毎日の終値の月平均額:9,200円
④相続発生月の前々月の毎日の終値の月平均額:8,600円
①~④のうち最も低い金額を採用しますので、ここでは④で計算します。
C株の相続税評価額 = 8,600円 × 10,000株 = 8,600万円
相続税 =(8,600万円 - 法定相続人1人の場合の基礎控除3,600万円)× 相続税の税率20% - 控除額200万円 = 800万円
相続税の申告と納税は、相続発生から10カ月以内に行う必要があります。発生日が2月16日であれば、C株を引き継いだ人は12月16日までに800万円の相続税を申告・納税しなければいけません。
なお、人によっては「納税資金が不足しているので、株を売却したい」と考えるかもしれません。ただ、株を売却する場合は、手数料の他、売却益は譲渡所得として20.315%の所得税と住民税がかかる点に注意する必要があります。
他方、相続した株を、相続発生から3年10カ月以内に売却した場合には、売却した株に係る税金を安くできる「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の制度があります。
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株の相続税の相談ができる税理士を探す株の相続税も他の財産同様、事前に対策を打つことで節税も可能です。具体的な節税対策を紹介します。
生前に株を贈与して相続財産を減らし、節税を図る方法です。安い株価のときに贈与できる、株を贈与することで配当金を受け取る権利も渡せるなどもメリットとして挙げられます。ただし、生前贈与が成立するには、株をもともと持っている人に贈与ができる判断能力があると認められた場合に限ります。
贈与には暦年贈与と相続時精算課税制度の二つの方法があります。なお、これらは併用できない点に注意が必要です。
■暦年贈与
暦年贈与とは、年間110万円の基礎控除を活用した方法です。贈与税がかからない110万円以内で株の贈与を一年ずつコツコツ行い、相続財産を減らせば節税につながる可能性があります。なお、生前贈与加算(相続税の評価額に特定の期間内に暦年贈与された財産を加算すること)の対象となる期間は2024年からは段階的に7年以内となります。
贈与のタイミングによっては株価が高いなどで節税につながらないことがあるため、贈与する際には事前に贈与税がいくらかかるか試算するとよいでしょう。
■相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に対し、財産を贈与した場合に選択できる制度です。
この制度には、年間110万円以下の贈与であれば非課税となる「基礎控除」と、この基礎控除を除く贈与財産が累計2500万円まで非課税の「特別控除」という2つの控除があります。特別控除の累計が2500万円を超えた場合、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります。
また相続が発生した場合には、「特別控除」(基礎控除を除く累計2500万円の控除)は相続税財産に加算されます。ただし、この加算金額は贈与時の時価になるため、株を贈与した後に株価が上昇したとしても贈与時の時価で相続税が計算されることになります。そのため、贈与後に株価が大幅に上昇した場合は、相続税の大きな節税につながります。
相続時精算課税制度を選択するときは、事前に贈与税と相続税をともに試算することをおすすめします。難しい場合には、税理士に相談するとよいでしょう。
上場していないオーナー経営者の株を相続する場合は、なるべく株の評価額を引き下げておくのも有効な方法です。
例えば、配当金額を下げる、役員報酬を上げる、含み損のある不動産を売却する、発行済株式数を増やす(純資産価額方式で株価を算出する場合)などがあります。
ただし、いずれの方法も適切な範囲内で行わないと、損金の算入が認められないなどで節税につながらない可能性があるため注意が必要です。
株の相続に関する節税対策には、国の支援策としての税制の特例を活用する方法もあります。
■法人版事業承継税制
法人版事業承継税制とは、非上場株式の贈与もしくは相続が、事業の後継ぎに対して一定の要件を満たした状態で行われたときに、その非上場株式の贈与税や相続税の納税が猶予・免除される特例です。
■相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例
相続した非上場株式を、証券取引所を通さずその発行会社に譲渡し、発行会社から対価として金銭等を受け取った場合、一部の金額が配当所得とみなされて税金が課される場合があります。このときの配当所得は総合課税となるため税率は累進課税となり、譲渡所得金額(発行会社から対価として受け取った金銭等から取得費や譲渡費用を控除した金額)に応じて最高55.945%の税率で計算されます。
一方で、一定の条件を満たす場合には、配当所得とみなさず、譲渡所得として課税する特例があります。この場合、税率が譲渡所得金額の20.315%と一定になるため、配当所得とみなされる場合よりも課税負担が減りやすくなります。特例が適用されるには、相続発生から3年10カ月以内に行われた譲渡であるなどの要件を満たす必要があります。
なお、次に紹介する「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」の適用を併用することも可能です。
■相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続財産を譲渡した場合、相続税を負担した相続人の税負担を軽減するために、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」があります。
前述したように、譲渡による所得が発生した場合、譲渡所得金額に応じて税金が課せられます。株の場合の譲渡所得金額は、発行会社から対価として受け取った金銭等から取得費や譲渡費用を控除した額です。
この特例が適用されると、取得費に相続税の一部を加算でき、譲渡所得金額がその分下がるため、譲渡によって発生する所得税が安くなります。適用されるには、譲渡が相続発生から3年10カ月以内に行われているなどの要件を満たす必要があります。
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株の相続税の相談ができる税理士を探す株を相続するときには、以下のような手続きが必要です。
(1)誰にどの財産をどの程度相続するのかを記した遺言書の有無を確認。遺言書がある場合はそれに従う。遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がいくつ株を相続するのか決める
(2)証券会社に連絡して、被相続人(亡くなった人)の株の保有状況がわかる書類(証券会社からのお知らせや通帳履歴など)を確認する。それでもわからない場合には、証券保管振替機構(ほふり)に登録済開示請求依頼を行う
(3)被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍、住民票除票の写しなどを準備する
(4)残高証明書を手配する(依頼・相続人代表が相続発生日現在のものを請求可能)。相続が発生した日の終値の他、株の相続税評価額の基準となる月平均額の終値も出してもらう
(5)相続発生日から4カ月以内に準確定申告(相続人が被相続人の生前の所得を代わりに申告・納税すること)をする
(6)株の名義を被相続人から相続人に変更をする(名義変更)
(7)相続発生日から10カ月以内に相続税の申告・納付をする
株を相続するときには、証券会社で相続の名義変更手続きを行うための書類を準備する必要があります。主なものは以下のとおりですが、場合によって他にも必要な書類が求められることもあるため、詳しくは証券会社に確認しましょう。
・証券会社の名義変更依頼書
・被相続人の戸籍謄本、住民票除票の写し、または法定相続情報一覧図
・相続人の戸籍謄本、または法定相続情報一覧図
・遺言書または遺産分割協議書の写し
・相続人全員の印鑑証明書
また、通常、証券会社に相続人名義の振替先口座が必要になるため、口座がない場合には開設します。
株の相続税は、規定の計算式を使って算出できるとはいえ、多くの専門知識が必要になります。特に非上場株式は計算が難しいこともあるので、基本的には税理士に相談するのがおすすめです。
税理士に依頼すれば、手続きに関する手間を省けるとともに、納税に関する多くのリスクを避けられるようになります。株の相続税に関して税理士に相談するときは、まず相続案件の実績が豊富な税理士を探すのがポイントです。多くの案件に携わっている税理士であれば、多様なケースに柔軟に対応できます。
そのうえで、実際に話をするときに、「株の相続税が、どのくらいかかるか?」「自社株対策には、どのような方法がよいのか?」「納税資金は足りるか?足りない場合の対策はどうするか?」などを聞くと良いでしょう。
なお、税理士に相続税計算や申告手続きを依頼するときにかかる費用は、相続財産の0.5~1%程度が相場です。
ただし、財産調査の手間が大きい場合や、申告作業の過程で新たに株が見つかって相続財産の額が増える場合、追加料金が発生する可能性があります。事前に見積もりを出してもらったうえで、内容について不明な点があれば聞くようにしましょう。
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株の相続税の相談ができる税理士を探す株を相続しても、他の相続財産とあわせて基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)以下なら相続税がかかりません。
例えば、夫・妻・長男・長女の家族で仮に夫が亡くなった場合、基礎控除は4,800万円(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人3人)です。そのため、株を含めた相続財産が4,800万円以下なら相続税は発生しません。
また、非上場株式の場合には、発行会社が金融機関などからの借入金が多い債務超過状態の場合には評価額が0円となります。この際も、株の相続税はかかりません。ただし、株を持っている経営者が会社へ資金を貸している場合、その貸付金は相続財産の対象になるため、注意が必要です。
株をそのまま相続するのと現金にしてから相続するのではどちらがいいかは、すべての相続財産の内容、具体的な株の銘柄や株価、納税資金の額などによって変わります。
株をそのまま相続する場合と現金にしてから相続する場合では、そもそも相続税の評価額の計算方法が異なります。現預金は100%課税されることになるため、相続税が高くなりがちです。
一方、株は常に値動きをしており、評価時に株価が高ければ、その分相続税の負担は大きくなります。その納税資金をまかなうために売却をしようとしたら、今度は値下がりしていて納税資金が思ったほど手に入らない場合もあります。
株と現金どちらがよいかはケースバイケースですが、株の相続においては、知識や経験が豊富な人の方がリスクを軽減できる可能性が高いでしょう。
自社株の引き下げ対策などを試みても自社株の評価額が高く、相続税が払えないこともあるでしょう。相続税は一時に現金で納付するのが原則ですが、延納や物納の制度があります。
延納は、相続税額が10万円を超え、納付期限までに金銭で納付することが困難な場合、納付を先送りできる制度です。物納は延納でも金銭で納付することが困難な場合に、相続財産そのもので納付ができる制度です。
ただし、延納や物納は、納付期限までに申請が必要なほか、さまざまな条件があるため、実際の活用にはハードルがあります。できるだけ事前の対策(株価を下げる、保険や融資で備えておくなど)で納税資金を確保しておくことをおすすめします。
株は一日でも値動きするものです。そのため、株価が上がっても下がっても、相続税の負担で納税資金と相殺されてしまうこともありえます。
株をスムーズに相続するには、事前の対策ができるかがポイントです。ただ生前贈与をはじめ、これらの対策は時間的な制限が多くあります。いまのうちからできそうなことがあれば、早めに行動しましょう。
(記事は2024年6月1日時点の情報に基づいています)
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