相続手続きを行政書士に依頼するメリット できること、できないこと 費用相場まで解説
相続手続きで困ったときは、どの専門家に相談すればよいでしょうか。弁護士や税理士、司法書士への相談が一般的ですが、行政書士もさまざまな相続手続きを業務として行っています。相続手続きにおいて行政書士に依頼できること、できないこと、依頼した場合の費用などについて、行政書士の資格も有する司法書士が解説します。
相続手続きで困ったときは、どの専門家に相談すればよいでしょうか。弁護士や税理士、司法書士への相談が一般的ですが、行政書士もさまざまな相続手続きを業務として行っています。相続手続きにおいて行政書士に依頼できること、できないこと、依頼した場合の費用などについて、行政書士の資格も有する司法書士が解説します。
目次
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行政書士は、行政書士法に基づく国家資格者で、主に次の3つの業務を行います。
漠然としていて具体的なイメージが湧きづらいかもしれませんが、行政書士の業務範囲は非常に幅広く、相続手続きにおいてもさまざまな業務に対応できます。相続で行政書士が対応できる代表的な業務は以下のとおりです。
相続手続きにおいて、始めに必要になるのが相続人の調査です。被相続人(以下、亡くなった人)や相続人の戸籍謄本を取得して相続人を確定させる作業です。
亡くなった人については、出生から死亡までの連続した戸籍謄本(除籍謄本や改製原戸籍を含む)が必要で、ケースによっては両親や兄弟の出生から死亡までの戸籍謄本も必要になります。これらを不足なく取得するには戸籍を読み解く知識が必要です。相続人が多い場合や相続関係が複雑な場合は、行政書士に依頼したほうが効率的でしょう。
戸籍謄本を取得して相続人が確定したあとは「相続関係説明図」を作成します。相続関係説明図とは、亡くなった人を中心として、その相続人が誰で何人いるのか、亡くなった人と相続人はどのような続柄なのかを示した図です。家系図に似ていますが、家の歴史を辿るものではなく、亡くなった人の相続関係を図示するものです。
そして、相続関係説明図と戸籍謄本などを法務局に提出して法定相続情報一覧図の申出を行います。この申出を行うと、法務局が戸籍謄本をチェックして相続関係が説明図どおりであることを確認し、その説明図に認証文を付けた「法定相続情報一覧図の写し」を交付してくれます。
この写し1枚で戸籍謄本や住民票の代わりになるため、その後の相続手続きで提出する書類を大きく減らすことができます。また、無料で何通でも交付してもらえますので、複数の相続手続きを同時に進めたいときには非常に便利です。
法定相続情報一覧図の申出については、弁護士や司法書士などのほか、行政書士にも代理権が認められています。
相続財産の詳細が不明な場合には、行政書士に相続財産の調査や財産目録の作成を依頼することができます。具体的には、銀行や証券会社に対する残高証明書や取引明細書の請求、不動産の名寄せや評価証明書の取得、保険会社に対する契約内容の照会などです。
これらの調査をもとに亡くなった人の財産目録を作成します。正確な財産目録があると、その後の遺産分割協議や名義変更の手続きがスムーズになります。
相続財産について、具体的に誰がどの財産を引き継ぐのかを決める話し合いを「遺産分割協議」と言います。協議は相続人全員で行う必要があり、1人でも欠けた状態で行われた場合は無効となります。そして、協議の結果を書面にまとめたものが遺産分割協議書です。
この協議書は、後日紛争が生じた際の証拠になるだけでなく、名義変更を行うときの提出書類としても必要です。この遺産分割協議書の作成も、行政書士が行える業務の一つです。
亡くなった人名義の預貯金の解約払戻しは、銀行の窓口に相続届や戸籍謄本、法定相続情報一覧図の写し、遺産分割協議書などの書類を提出して行います。
相続人が自分で手続きすることも可能ですが、銀行の窓口は平日しか開いていないうえに、予約しないと書類の提出すら受け付けてもらえないケースがほとんどです。行政書士に依頼すれば、戸籍謄本など書類の準備から解約払戻しまで、すべてを代行してもらえます。
自動車の所有者が亡くなったときは、運輸支局で名義変更の手続き、すなわち相続による移転登録が必要です。相続によって自動車の保管場所が変わる場合は新たに車庫証明も取得する必要があります。また、運輸支局の管轄が変わる場合は自動車を持ち込んでナンバープレートを交換し、新たに取り付けたナンバープレートに封印をしてもらわなければなりません。行政書士であれば、これらすべての手続きを代行することができます。
亡くなった人が個人として食品営業許可や建設業許可、宅地建物取引業免許などの許認可を受けて事業を行っていた場合は、この許認可についても相続手続きが必要になります。相続人が事業を引き継がない場合は廃業の届出を行い、事業を承継する場合には相続や変更の届出を行います。
許認可のなかには、相続人が事業を引き継ぐ場合でも、亡くなった人について廃業の届出をしたうえで、あらためて許認可を取り直さなければならないものもあります。
許認可の手続きは行政書士の専門業務ですので、亡くなった人が許認可を受けて事業を行っていた場合には、その事業を引き継ぐか否かにかかわらず行政書士に相談するとよいでしょう。
遺言書には公証人が作成する「公正証書遺言」、遺言者本人が自分で作成する「自筆証書遺言」と大きく2つの種類があります。いずれも行政書士が代わりに作成することはできないものの、遺言書の案文作成や公証人との打ち合わせのサポートは可能です。
特に、自筆証書遺言は、形式が法律に違反していたり、内容が不明確だったりすると無効になるおそれがあります。自筆証書遺言を作成する際は、行政書士など専門家のサポートを受けたほうが安心です。
行政書士は遺言書の作成をサポートするだけでなく、遺言執行者になることもできます。遺言執行者とは遺言の内容を実現する役割を担う人を指し、相続財産の管理や遺言の執行に必要なすべての行為をする権利と義務があります。
相続人や家族、友人などを遺言執行者に指定することもできますが、遺言執行者の責任は軽いものではなく、執行のためには一定の知識が必要です。身近に適任者がいなければ、法律の知識があり、中立的な立場である行政書士などの専門家を選任しておいたほうがよいでしょう。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る司法書士を探す一方で、行政書士が対応できない業務もあります。法律上ほかの士業のみに許されている以下の業務は行うことができません。
相続財産のなかに不動産がある場合は、相続を原因とする所有権移転登記、いわゆる「相続登記」が必要となります。相続登記を業務として行うことができるのは司法書士です。法律上は弁護士も行うことができますが、相続登記を専門にしている弁護士はほとんどいません。
相続登記は2024年4月1日に義務化され、相続によって不動産を取得した人は3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。相続財産に不動産があるときは早めに司法書士に相談するとよいでしょう。
行政書士は遺産分割協議書の作成を代行できますが、その内容は相続人が自分たちで話し合って決めたものでなければなりません。行政書士が特定の相続人の代理人として協議に参加したり、特定の相続人が有利になるように交渉したりすることはできません。
協議が成立しなかった場合には家庭裁判所で遺産分割調停を行います。協議や調停で相続人の代理人になれるのは弁護士のみで、行政書士は関与することができません。
相続放棄とは、相続人としての権利や義務を一切引き継がずに放棄することです。相続放棄をすると、借金などのマイナス財産だけでなく、預貯金や不動産などプラスの財産も受け取ることができません。
相続放棄は、死亡の事実を知り、かつ、自分が相続人であることを知った日から3カ月以内に家庭裁判所へ申述書を提出して行います。この手続きを代理できるのは弁護士のみです。申告書の作成だけであれば司法書士も対応できますが、行政書士はできません。
相続財産の総額が基礎控除額を超える場合には相続税の申告が必要となります。基礎控除額は「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」で算出できます。
相続税の申告には相続財産の評価方法や小規模宅地の特例措置など専門的な知識が必要となり、この申告を相続人に代わって行うことができるのは税理士または税理士登録した弁護士のみです。
相続でどれだけの税金を納める必要があるかは、相続手続きを進めていくうえで重要なポイントになります。相続税の申告が必要な場合や申告の要否がすぐに判断できない場合は、まず税理士に相談することをお勧めします。
相続手続きは相続人が自ら行うこともできますが、行政書士に依頼すると以下のようなメリットがあります。
相続手続きは何度も経験するものではなく、手続きの内容も簡単とは言えません。行政書士はさまざまな相続手続きに対応できます。手続きが苦手な場合や忙しくてまとまった時間がとれない場合は、相続人の調査から各種の名義変更まですべての手続きをまとめて依頼することも可能です。
行政書士事務所の中には、相続手続きを一括で代行する「おまかせパック」を用意しているところもあるため、事前に事務所のホームページなどで料金体系を確認してみてください。
相続手続きでは、戸籍謄本をはじめ多くの書類を取得する必要があります。また、遺産分割協議書などの作成には法的な知識が必要となります。これらの書類に不足や不備があれば修正や再提出に時間がかかり、相続手続きが滞ってしまいます。
また、手続きに漏れがあると遺産分割協議をやり直さなければいけない場合もあります。行政書士に依頼して確実に相続手続きを進めることで、余計な手間を省くことができます。
士業だけでなく信託銀行などの金融機関でも相続手続きの代行サービスを行っています。金融機関という安心感はありますが、費用は行政書士や司法書士に比べると割高になるケースが多いです。また、相続登記や自動車の名義変更がある場合は、金融機関が紹介する司法書士や行政書士に別途で依頼することになるため、その分の報酬もかかります。
相続人や相続財産の調査、遺産分割協議書の作成などは弁護士にも依頼できますが、取扱業務に他の相続人との交渉や紛争解決を含んでいるケースが多く、報酬相場が高く設定されています。相続トラブルがなく、できるだけ費用を抑えたい場合は行政書士に依頼するといいでしょう。
次の3つのチェックポイントすべてに当てはまる場合は、まず行政書士に相談するのがよいでしょう。
相続財産に不動産がある場合は相続登記が必要になるため、まずは司法書士に相談するとよいでしょう。また、相続財産の総額が基礎控除額を超えている場合には、亡くなってから10カ月以内に相続税の申告と納付をしなければならないため、できるだけ早く税理士に相談しましょう。相続人の間で争いが起きていたり、話し合いにまったく応じてくれない相続人がいたりする場合には、最初から弁護士に相談したほうがスムーズに解決するかもしれません。
どの専門家に相談すべきかわからない場合は、他士業と連携している専門家に相談することで、あらゆる相続手続きにワンストップで対応してもらえる可能性があります。行政書士事務所の中にも司法書士や税理士と連携しているところがあるため、相談時に確認してみてください。
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相続の相談が出来る司法書士を探す行政書士の報酬は自由化されており、一律の報酬は存在しません。日本行政書士会連合会『令和2年度報酬額統計調査の結果』によると、相続手続きに関する業務の報酬相場は次のとおりです。
【遺言書の起案及び作成補助】
平均6万8727円 最頻値5万円
【遺産分割協議書の作成】
平均6万8325円 最頻値5万円
【相続人及び相続財産の調査】
平均6万3747円 最頻値5万円
【遺言執行手続】
平均38万4504円 最頻値30万円
上記はあくまで目安となる報酬額です。相続関係が複雑だったり、取得または作成する書類が多かったりすると、それに応じて報酬額も高くなる場合があります。正式に依頼する前に見積書を作成してもらうか、事務所ごとに定めている報酬規定を提示してもらうと、報酬額の目安をつけやすくなるでしょう。
相続手続きを依頼する行政書士を選ぶ際は、主に3つのポイントをおさえましょう。
行政書士は業務範囲が広いため、専門としている分野も事務所によって大きく変わります。建設業許可や宅地建物取引業免許など許認可を専門にしている事務所、ビザ申請や帰化申請を得意としている事務所、車庫証明や登録申請など自動車関係の業務を中心としている事務所などさまざまです。
まずは事務所のホームページなどを確認し、相続手続きに注力している事務所を探してみましょう。
相続手続きのなかには行政書士では対応できない業務もあります。相続税の申告が必要になったら税理士、相続財産に不動産があれば司法書士、相続人の間で紛争が起きそうであれば弁護士といったように、必要に応じてほかの士業と連携をとってくれる行政書士のほうが安心して依頼できるでしょう。
一番大切なポイントは、依頼者に対して誠実で丁寧な説明をしてくれるかどうかです。どのような手続きが必要で、どのくらいの期間を要するのか、それに対する報酬がいくらなのか、明確に説明してくれる行政書士を選びましょう。
相続手続きに関する依頼は弁護士や税理士にするのが一般的ですが、行政書士も相続の専門家としてさまざまな書類を作成できるだけでなく、預貯金の解約払戻しや自動車の名義変更、遺言執行など、さまざまな業務を代行できます。
幅広い手続きに対応できるため、手続きが苦手な場合やまとまった時間がとれない場合に依頼するメリットは大きいですし、手続きのやり直しや漏れを防ぐこともできます。また、金融機関や弁護士に依頼するケースに比べて費用を安く抑えられます。
相続トラブルや相続税申告、相続登記が発生する場合は弁護士や税理士、司法書士の力を借りることになりますが、これらが発生しない場合は、まずは行政書士に相談してみるのがよいでしょう。
(記事は2024年10月1日時点の情報に基づいています)
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