相続の手続きで税理士は必要か? 判断基準をわかりやすく解説
相続は「手続きにはじまり、手続きに終わる」と言えるほど、さまざまな手続きが必要となります。中でも相続税申告は期限がある重要な手続きです。税理士に依頼すべきかどうかを判断するための基準や実際に依頼するときの注意点について、相続現場に20年以上携わる税理士が解説します。
相続は「手続きにはじまり、手続きに終わる」と言えるほど、さまざまな手続きが必要となります。中でも相続税申告は期限がある重要な手続きです。税理士に依頼すべきかどうかを判断するための基準や実際に依頼するときの注意点について、相続現場に20年以上携わる税理士が解説します。
目次
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相続が発生すると、相続人(遺産を相続した人)は相続税を納めなければいけませんが、そのときに税理士の力は必ずしも必要というわけではありません。相続人自身が相続税を計算して申告することも可能です。
しかし、申告するには、すべての相続財産や債務などを漏れなく把握し、計算する必要があります。この手続きは非常に複雑で、具体的に何をすれば良いのかわからず時間や労力を必要以上にかけてしまったり、頑張って書類を作成したものの不備があってトラブルにつながったりするケースも少なくありません。
税理士は、税に関する深い知識をもとに、相続税の申告を代わりに行う専門家です。税理士の力を借りると申告にかかる手間や時間が省けるメリットがあります。
一方、税理士に依頼しなくても良いケースがあります。例えば、相続財産が明らかに基礎控除を下回っているときは相続税申告が必要ないため、税理士に依頼しなくても問題ないでしょう。相続における基礎控除は、「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」です。
ただし、本人が基礎控除を下回っていると思っていても、実際は超えている場合もないわけではありません。そのまま放って置くと無申告になり、後に延滞税が発生するリスクがあるため、少しでも不安がある場合は早めに税理士に相談したほうが無難です。
相続で税理士に依頼する必要は必ずしもありませんが、依頼するとさまざまなメリットが得られます。
税理士に依頼するメリットとして、まず相続税の申告がスムーズにできることが挙げられます。
もし相続人が自分で申告するとなると、複雑な相続税の計算や申告書類の作成をすべて行う必要があります。
相続税の申告・納税は相続が発生してから10カ月以内に行わなければなりません。もし、期限に遅れた場合は、ペナルティとして延滞税が発生します。
被相続人(亡くなった人)が亡くなるまでには介護や看護があり、亡くなったあとは葬儀もありで、やっと一息つけるのは大体四十九日を終えてから。そこでようやく、相続税申告に必要な遺産分割の話し合いを始める人が多く見られます。申告・納税期間は10カ月ですが、それよりも短い期間で準備せざるを得なくなっている人が少なくないのが実情です。
短い期間で、慣れない相続税の計算・申告書類の作成を正しく行うのはとても大変なことです。しかし、税理士に依頼するとスムーズに申告ができます。万一、申告後に新たな財産が見つかった場合でも、安心して対応を任せることができます。
また、申告後に税務調査が入ったとしても、税理士がついていれば代わりに対応をお願いすることが可能です(ただし、基本的には追加料金を払う必要あります)。
特例などを適用して、財産の評価額を下げ、節税につなげてもらえるのも税理士に依頼するメリットです。
相続税は個々の財産を評価して評価額を出し、税金を計算します。このため、評価額をできるだけ引き下げられれば節税することが可能です。
この評価額を下げる方法の一つが「特例の適用」です。特例には、自宅の土地の評価額が8割引きになる「小規模宅地等の特例」、相続人が配偶者の場合に最高1億6,000万円(または配偶者の法定相続分相当額とのいずれか多い金額)まで相続税がかからない「配偶者の税額軽減」などがあります。
このような特例を受けるためには、法律で決められた細かい条件に合っているかどうかの判断が不可欠ですが、税理士に依頼すれば条件の確認から判断・申告までサポートしてもらえます。
税理士に依頼すると、相続税申告の際に、二次相続対策も合わせて行うことができます。
二次相続とは、被相続人から財産を相続した人が亡くなったときに発生する相続のことを言います。夫・妻・長男・長女の4人家族の場合で、仮に夫が亡くなり、その後妻が亡くなったとしたら、夫が亡くなった最初の相続が一次相続、次の妻の相続が二次相続となります。
相続税では、一次相続の申告の際に、二次相続のことも合わせて考えることが大切です。なぜなら、一次相続で税金がかからなかったとしても、二次相続で思わぬ税金がかかる場合があるためです。
例えば、一次相続で節税する方法の一つに、配偶者である妻が「配偶者の税額軽減」の適用を最大限に活用する方法があります。
一般に、妻が相続した財産が1億6,000万円以下の場合、配偶者の税額軽減を適用すると相続税がかかりません。しかし、一次相続で妻が相続した財産のうち妻が亡くなったときに残っている財産は、妻独自の財産とともに次の相続(二次相続)の課税対象となります。
その結果、一次相続と二次相続のトータルの相続税がかえって多くなる場合があります。特に、妻独自の財産だけで基礎控除を超えるような場合には注意が必要です。
こうした事態を避ける方法として、夫と妻と同居している長男が跡継ぎで、いずれ自宅を相続するときは、一次相続の時点で長男が自宅を相続することがあります。この場合、自宅の評価額によっては一次相続で相続税を支払うものの自宅は長男所有になるため、二次相続で相続税が課税されません(ただし、遺言書がない場合には、妻・長男以外の相続人全員の同意が必要になります)。
つまり、遺産の約4割を占めるといわれる土地と家屋について、一次相続・二次相続のダブルで相続税が課されるのを防ぐとともに、二次相続での遺産分割トラブルを回避する効果も期待できます。
税理士に依頼すると、このような二次相続におけるリスクの把握と対策ができるようになります。
税理士に依頼すると、税理士が提携する専門家につないでくれることがあります。
相続において、税金に関する手続きや相談は税理士が対応できますが、税理士ができない業務もあります。例えば、相続財産が自宅の土地・建物などの不動産の場合、名義変更手続きのための相続登記をしなければいけませんが、これに対応できるのは司法書士です。
また、相続トラブルでもめたとき遺産分割の話し合いに対応できるのは弁護士、測量や未登記の不動産について対応できるのは土地家屋調査士となります。
税理士に依頼すると、こうした各専門家を紹介してくれることがあり、自分で探す手間を省けます。また、税理士が登記の際に必要な戸籍謄本を司法書士に直接共有するなど、相続人が本来すべき専門家とのやりとりを税理士が代わりに行ってくれるので、よりスムーズに専門家の力を借りることが可能です。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る税理士を探す相続で税理士に依頼した方が良いケースは、以下のような場合です。
相続財産が「基礎控除 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」を超える場合、相続税の申告が必要です。すべての財産を漏れなく申告しなければなりませんが、不動産の評価など複雑なものや特例の判断が難しいケースがあり、慣れていない場合には申告を誤りやすい可能性があるため、税理士に依頼した方がよいでしょう。
基礎控除を超えるかわからずに、そのまま放って置くと、もし財産がもれていたり少なく計算されていたりすると、申告期限に間に合わず延滞税など余計に税金を支払うことになりかねません。税理士に依頼すれば、相続財産をきちんと把握してもらえます。特に自分で計算したところ、基礎控除額ギリギリだった場合は、税理士に依頼した方が安心です。
相続税の計算や申告書の作成は、時間や手間の負担が大きく、初めての人には難しいものです。特例など適用できるかどうかの判断もしなければなりません。適切な特例を使って節税しつつも、きちんと相続税の申告・納付をするためには、税理士に依頼した方が確実でしょう。
相続で税理士に依頼しなくても良いケースは、以下のような場合です。
相続財産の合計が、基礎控除以下であることが明確にわかり、相続税がかからないことが確実であれば、税理士に相談せずとも通常トラブルは起きないでしょう。
このほか、次の条件をすべて満たす場合は依頼をしなくても申告できるでしょう。
繰り返しになりますが、自力で申告をする場合は、時間と手間がある程度かかることに留意する必要があります。
相続で税理士に依頼するなら、相続に強い税理士がおすすめです。ただ、税理士であれば誰でもよいわけではありません。医者に内科や外科の専門分野があるように、税理士にも得意分野があり、相続税の経験が豊富な税理士は多くはありません。ここでは、相続税を得意とする税理士の基本的な探し方を紹介します。
知人からの口コミや紹介で税理士に依頼するケースは、多い傾向にあります。どのような税理士か、やり方や報酬などについて依頼した人からよく聞いてみましょう。
GoogleやYahoo!などの検索エンジンで【相続 地域名 税理士】で検索する方法もあります。追加の条件(男性・女性など)があれば、検索ワードに追加して検索します。
検索エンジンの結果だけでは、比較が難しい場合があります。そこで、相続に強い税理士の情報がまとまっているポータルサイトを活用するのも一つです。朝日新聞社運営のポータルサイト「相続会議」でも、全国から相続税を得意とする税理士を探すことができます。
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相続の相談が出来る税理士を探す実際にどのような税理士なのか、人の紹介やWebサイトだけではよくわからないということもあります。実際に事務所に足を運び、話を聞いて確認する方法もおすすめです。ただし、あまり比較しすぎると時間がかかり、申告作業が遅れる可能性もあるので注意しましょう。
上記の方法で探した税理士の中から、実際に依頼する税理士を決めるときには、良い税理士かどうか見極めるための視点が必要です。最初の相談時に以下のポイントを確認してみましょう。
まずは「相続税申告」の実績が豊富であるかどうかです。
相続は、財産や家族構成などが同じようであっても、一つとして同じものはありません。そこで生きるのが実績や経験ですが、税理士によってさまざまです。相続案件が苦手で積極的に引き受けていない税理士もいます。
相続税申告の実績が豊富か確認するには、初回の相談時に手続きに関するアドバイスがわかりやすいか、こちらの質問に的確に回答してくれるか、などを見ると良いでしょう。
次に、二次相続までふまえた遺産分割のアドバイスをしてくれるかどうかです。
相続税申告では、二次相続まで視野に入れた検討が欠かせません。前述したように一次相続における節税策が、二次相続を視野に入れると、必ずしも得策でない場合がありえます。
こうした点ももらさずに伝えてくれる税理士かどうか見ることも重要です。
税理士報酬が明瞭かどうかも確認しましょう。
何にいくら払うのかわからないのは、トラブルのもとになり得ます。見積書を出してもらい、金額の詳細を相場とかけ離れていないかと合わせて事前にチェックすることが大切です。
自分の不安に寄り添ってくれるかも大切なポイントです。
長い人生でも、相続はめったにあるものではありません。特に初めての相続であれば、わからないことばかり、というのは普通のことです。
相続に強い税理士は、そうした事情をよく知っていますので、相談したときに自分の不安に寄り添ってくれているか、わからないことに対して丁寧に対応してくれているかを確認することも、税理士を見極めるときの大切なポイントです。
税理士に依頼する場合、どのくらい報酬がかかるのかは気になるところです。
相続税申告の場合、遺産総額の0.5~1%程度の事務所が多く見受けられます(初回の相談は無料のところが大半です)。
ただし、不動産が多い、複雑な財産調査が必要などで追加の料金がかかる場合があります。
また、申告作業の過程で、依頼時にはわからなかった預金や株式などの財産が新たに見つかることもあり、財産が増えて報酬が変更になる場合もあります。
そのため、事前に概算でも見積書を出してもらい、もし追加の料金が発生する場合には説明の時期やおおよその金額を提示しておいてもらうと良いでしょう。
相続で税理士に依頼するメリットは、一言で言えば「安心感」です。確実に申告でき、かつ、不安に寄り添う相談相手となってくれます。
いざ相続が起こると、「手続きが大変で……」と悩む人は少なくありません。特に初めての相続で何をいつまでにすべきかわからず困った、相続税の申告が必要だと気づかず期限を過ぎてしまった、という人もときおり見られます。
相続が発生してからすべての手続きが終わる名義変更まで、早くて半年から1年ほどかかりますが、争いやトラブルなく、スムーズに完了できれば心身の負担は格段に減ります。その円滑なサポート役となるのが税理士です。
一つでも多くの相続が、円満に完了することを心より願っています。
(記事は2024年5月1日時点の情報に基づいています)
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