遺産分割協議書の効力とは? 必要な場面・効力発生日・注意点などを解説
遺産分割協議書には法的拘束力があり、当事者である相続人はその内容に従って遺産を分ける義務を負います。想定どおりの効力が生じるように、遺産分割協議書の文言は慎重に検討して作成しましょう。本記事では遺産分割協議書の効力について、必要な場面・効力発生日・注意点などを弁護士が解説します。
遺産分割協議書には法的拘束力があり、当事者である相続人はその内容に従って遺産を分ける義務を負います。想定どおりの効力が生じるように、遺産分割協議書の文言は慎重に検討して作成しましょう。本記事では遺産分割協議書の効力について、必要な場面・効力発生日・注意点などを弁護士が解説します。
目次
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「遺産分割協議書」とは、遺産の分け方に関する相続人の合意内容をまとめた書面です。相続人全員で締結する必要があります。
遺産分割協議書は、契約書などと同様に、法律行為を内容とする法的書面です。したがって、締結当事者であるすべての相続人は、遺産分割協議書の内容に従って遺産を分ける義務を負います。
遺産分割協議書を作成することは、遺産の分け方について「言った言わない」のトラブルを防ぐためにも重要です。遺産分割協議書を作成しないと、一部の相続人から「そんな内容で合意した覚えはない」と再度の遺産分割協議を要求された場合、遺産分割がやり直しになってしまうリスクがあるので、注意が必要です。
遺産分割協議書は遺産の分け方を証明できる書類であるため、さまざまな相続手続きにおける提出書類とされています。したがって、複数の相続人がいる場合は、多くのケースにおいて遺産分割協議書の作成が必要です。
遺産分割協議書が必要となる相続手続きとしては、以下の例が挙げられます。
不動産を相続した場合は、その所在地の法務局または地方法務局において相続登記の手続きを行う必要があります。
不動産を相続する人が遺産分割協議によって決まった場合は、相続登記の手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要です。
亡くなった被相続人の預貯金や有価証券については、口座がある金融機関において相続手続きを行う必要があります。
預貯金または有価証券を相続する人が遺産分割協議によって決まった場合は、金融機関の相続手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要です。
自動車を相続した場合は、登録先の運輸支局において名義変更手続きを行う必要があります。
自動車を相続する人が遺産分割協議によって決まった場合は、名義変更手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要です。
相続財産等の総額が基礎控除額(3000万円+法定相続人×600万円)を超える場合、または「配偶者の税額の軽減」もしくは「小規模宅地等の特例」の適用を受ける場合には、相続税の申告を行う必要があります。
相続税の金額は、まず相続財産等に対する総額を計算した後、実際に相続・遺贈等によって取得した財産額に応じて按分して、各相続人に割り当てます。
そのため、相続税の申告に当たっては、具体的な相続分を証明する書類を提出しなければなりません。遺産分割協議によって遺産の分け方を決めた場合には、遺産分割協議書の提出が必要です。
遺産の分け方や遺産分割協議書の作成についてわからないことや不安なことがあれば、早めに弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
遺産分割協議書の効力は、いつから発生するのでしょうか。
遺産分割の効力は、相続開始の時(=被相続人が死亡した時)に遡って生じるとされています(民法909条本文)。
したがって遺産分割協議書の効力発生日も、その締結日にかかわらず、被相続人の死亡時となります。
遺産分割によって第三者の権利を害することはできません(民法909条但し書き)。
たとえば遺産分割が完了する前に、相続人の一人であるAが第三者であるBに対して、相続財産である不動産の法定相続分に応じた共有持分を譲渡したとします。
この場合、Bが譲渡を受けた共有持分の登記をしていれば、その後の遺産分割によってAが不動産を相続しないことになったとしても、Bは共有持分を保有できます。
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相続の相談が出来る弁護士を探す遺産分割協議書は、締結当事者である相続人を法的に拘束し、原則として撤回や取消しは認められません。
ただし、相続人が合意すれば遺産分割をやり直すことができるほか、一定の条件を満たす場合に限り、遺産分割協議書を取り消せることがあります。
相続人全員が合意すれば、遺産分割をやり直すことができます。すでに相続が完了して各自の所有となった財産を、再び持ち寄って分け直すことは、所有者である相続人の自由だからです。
ただし遺産分割協議のやり直しによる遺産の再分割は、新たな財産の移転とみなされ、贈与税や所得税が課されることがあります。すでに相続税を納付している場合も同様です。
遺産分割をやり直すべきかどうかは、課税についても慎重に検討した上で判断しましょう。
以下のいずれかに該当する場合には、遺産分割協議書を取り消すことができます。
①錯誤に陥っていた場合(民法95条)
遺産分割の内容や動機について重要な認識違い(=錯誤)があった場合は、遺産分割への同意を取り消すことができます。
ただし、動機の錯誤については他の相続人に表示していたことが必要です。また、錯誤が表意者の重大な過失による場合は、原則として取消しが認められません。
②詐欺・強迫を受けていた場合(民法96条)
他人から詐欺または強迫を受けて遺産分割に同意した場合は、その同意を取り消すことができます。
ただし、相続人以外の第三者による詐欺を受けた場合は、他の相続人がその事実を知り、または知ることができたときに限って取消しが認められます。
また、詐欺による遺産分割の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できません。
③成年被後見人・被保佐人・被補助人が遺産分割に同意した場合(民法9条、13条4項、17条4項)
遺産分割についての同意のうち、以下のものは取り消すことができます。
・成年被後見人がしたもの
・被保佐人が、保佐人の同意を得ずにしたもの
・家庭裁判所によって、遺産分割につき補助人の同意を得るべき旨の審判を受けた被補助人が、補助人の同意を得ずにしたもの
遺産分割を行う際には、後日のトラブルを防止するため、以下の各点に注意しましょう。
遺産分割は、すべての相続人の間で行う必要があります。1人でも不参加の相続人がいると、遺産分割がやり直しになってしまうので注意が必要です。
また、遺産分割の完了後に相続財産が判明すると、その遺産の分け方について揉めてしまうおそれがあります。
後日のトラブルの再燃を防ぐため、遺産分割を行う前の段階で、あらかじめ相続人と相続財産を漏れなく確定しましょう。
判明しているすべての遺産について漏れなく分割方法を記載し、1回で遺産分割を完了させましょう。
万が一後から遺産が判明した場合の取り扱いについても、遺産分割協議書に明記することが望ましいです。相続する人を指定する、法定相続分に応じて分けるなどのルールを決めておくのがよいでしょう。
遺産分割協議書の効力について、よくある質問と回答をまとめました。
たとえば以下の場合には、遺産分割協議書が無効となります。
①相続人の一部が参加していなかった場合(民法907条)
遺産分割協議書は、相続人全員の間で締結する必要があります。1人でも参加していない相続人がいる場合には、その遺産分割協議書は無効です。
②相続人に意思能力がなかった場合(民法3条の2)
遺産分割協議書の締結当時において、認知症などで判断能力が低下し、意思能力がない状態の相続人がいた場合、その遺産分割協議書は無効です。
※成年後見人など、権限ある者が本人を代理して締結した場合を除く。
③未成年者である相続人について、特別代理人の選任を怠った場合(民法826条、113条)
親権者と未成年者がともに相続人である場合は、未成年者の特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません。特別代理人の選任を怠り、親権者が未成年者を代理して行った遺産分割に同意することは「無権代理」に当たるため、未成年者本人に対して効力を生じません。
遺産分割協議書の作成方式について、特に法律上のルールはありません。したがって、手書きで遺産分割協議書を作成することもできます。
ただし、遺産分割協議書が複雑な内容となる場合は、手書きでは誤記などのリスクが高いため、PCソフトなどを用いて作成する方がよいでしょう。遺産分割協議書の作成方法が分からない場合は、弁護士にご相談ください。
遺産分割協議書は、締結当事者である相続人全員を法的に拘束するほか、多くの相続手続きにおいて必要書類とされています。撤回や取消しは原則として認められないので、内容を慎重に検討した上で遺産分割協議書を締結しましょう。
遺産分割協議書の作成方法が分からない場合や、遺産分割トラブルが発生した場合には、弁護士にご相談ください。
(記事は2023年11月1日時点の情報に基づいています)
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