目次

  1. 1. 2022年の路線価のポイントとコロナの影響
  2. 2. 「マンション節税」の最高裁判決のポイントと今後の注意点
  3. 3. 路線価とは何か? 相続した土地を路線価で評価する理由

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――今年の路線価は全国的に回復傾向にあります。この推移をどのように感じますか。

「コロナ禍の影響は緩和されたが、コロナ以前とまったく同じではない」と感じています。個別に路線価を見ると「郊外は上昇したが、オフィス街は下落した」という傾向があるようです。働き方そのものが変わったことが影響していると思います。

コロナ禍以降、在宅勤務が浸透し、郊外の賃貸物件や分譲物件の需要が増加しました。一方、通勤・出社の激減から、会社はオフィスを持つ必要がなくなりました。結果、オフィス街の賃貸需要が減少しています。今年の路線価には、こういった働き方の変化が反映されたのではないでしょうか。

――昨年までの2年間、コロナ禍が深刻でした。相続税申告の実務に影響はありましたか?

お客様の中には、コロナ禍のさまざまな影響で必要資料の収集や相続人の間での話し合いが遅れたために申告期限までに必要書類を用意できず、申告・納付期限の延長制度を利用された方は一部いらっしゃいました。

また、国税庁は路線価の基準日である1月1日以降に大幅な地価の下落がある地域については、路線価を下方修正する「減額補正」により見直す方針でしたが、結果として、特に大きな影響はありませんでした。地価が2割以上下落した地域がほとんどなかったからです。

路線価は、土地の一般の取引価格、時価の80%程度に収まるように設定されます。もし20%以上の時価の下落があったら、減額補正が行われます。コロナの影響が深刻だったので、減額補正があるかもしれないと感じていました。しかし、実際に減額補正になったのは大阪市中央区のほんの一部にとどまりました。そのため、実務ではほぼ通常通りの申告を行っていました。コロナで時価は下がったものの、2割以上下落するほど深刻ではなかった、ということです。

今年4月、マンション節税について最高裁判所の判決が下りました。首都圏のマンション2棟を相続した遺族が、路線価をもとに不動産を評価をして「相続税0円」と申告したところ、税務署はこの申告を否認し、不動産鑑定で再評価したうえで3億円超を追徴課税しました。最高裁は税務署の例外的な課税を認める判断をしました。路線価を使った評価は、相続税申告での原則的な評価方法なのに、なぜ否定されたのでしょうか。

「合法的な節税も、やり過ぎると租税回避とみられるリスクがあります」と話す清三津裕三税理士
「合法的な節税も、やり過ぎると租税回避とみられるリスクがあります」と話す清三津裕三税理士

――4月の最高裁判決のポイントを教えてください。

ポイントは次の二つです。

  • マンションの購入が相続税の軽減を主目的にしたものだった
  • 評価の結果、税負担の軽減が見過ごせないレベルとなった

税務署側が再評価の根拠とする相続税法の例外規定「財産評価基本通達」6項は、「原則通り評価すると税負担の公平性の点から著しく不公平となるときは、国税側で評価方法を決める」というものです。つまり、今回の事案は「税務署にとって見過ごせないほど、課税が不公平になるおそれがあった」といえます。

ただ、不動産を活用した相続税対策は古くから存在しました。「地主が銀行からお金を借り、自分の持っている畑などに賃貸アパートを建てる」といった対策は、これまで多くの方が合法だと思っていたのです。

ところが、タワーマンションによる節税が登場してから国税庁の見解が一変しました。タワーマンションが、単なる不動産というより節税商品として活用されるようになったためです。「購入時の時価1億円が相続税評価額だと2000~3000万円程度に圧縮できる」という高い節税効果だけではありません。都心の優良物件であれば、相続や贈与の後に売ると、購入時あるいはそれ以上の価格がつきます。

不動産投資という点では、タワーマンションはほぼノーリスクです。常に空室リスクを抱え、売りたいときに売れない郊外の賃貸アパートとはまったく違います。このことから、いわゆる「タワマン節税」が富裕層に注目されました。そして、タワーマンションによる節税の横行を、課税当局は見過ごせなくなったのです。

今回の事案は、90歳代だった被相続人が明らかに生前に払い終わらない銀行の借り入れでマンションを買ったことや、銀行の貸出稟議書に「相続対策のために不動産購入を計画」と記載があったことなどから、節税目的だとみなされました。ただ、もっとも問題になったのは「課税の公平性」でした。

もしマンションによる節税対策をしなければ、相続税の課税価格は6億円超で、相続税額は3億円弱になるはずでした。財産の規模が同じ6億円でも、今回の事案の相続人と対策なしで相続した人とでは、税負担額が3億円弱も違います。だから、最高裁は「課税の公平性にかかわる」として、税務署側の言い分を認めたのです。

――これからマンション節税を考えている人は、何に注意したらいいでしょうか。

相続税の節税だけを目的とした不動産投資は控えた方がいいでしょう。税務調査で指摘され、修正申告をすることになれば、過少申告加算税や延滞税といったペナルティーを払うことになります。なお、購入する不動産が節税目的でなく、自宅として住むための物件であったり、事業として利用することを目的として購入する物件であったりすれば、例外規定が適用されるリスクは少ないであろうと考えています。

また、そもそも不動産投資には、空室リスクや価値下落リスク、返済リスクがあります。投資をするなら、こういったリスクを考慮し、投下資金以上の収益が得られるようにしたほうがいいでしょう。そうでないと、節税どころか返済できなくなり、資金繰りに苦しむおそれがあります。事前に、総合的な助言のできる専門家に相談した方が安心です。

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相続税や贈与税では、財産を時価で評価することとなっています。しかし、この時価は取引時価ではなく路線価方式や倍率方式による評価額です。なぜなのでしょうか。

――路線価の目的を教えてください。

路線価は、相続税や贈与税を申告するときの財産評価の指標です。相続人が相続税の申告作業の負担を減らすために設けられました。

相続税法は「時価で財産を評価すべし」としています。しかし、時価を把握するのは大変です。そして申告は10カ月以内に済ませなくてはいけません。そこで簡便的に評価を行えるよう設けられたのが路線価です。

――「路線価での評価額は時価の約8割だ」と言われます。なぜですか。

土地の時価には幅があります。例えば、同じ土地でも、所有者が売り急いでいるのか、買う人はどうしてもその土地にこだわっているのかなど、さまざまな要因で時価は変わります。また、相続税・贈与税の計算では、相続開始の日にかかわらず、1月1日から12月31日まで同じ路線価を使います。この1年の間にも地価の変動はあります。

路線価による評価額は、こういった変動があっても安心して使えるものでなくてはなりません。専門的には「評価の安全性」と表現されますが、どんな状況でも路線価は時価を超えないよう、時価の8割程度に設定されているのです。

――「自分で申告するか、税理士に依頼すべきか」は、どう判断したらいいですか。

「相続した土地がほぼ正方形」「相続財産が少なくシンプル」「作業する時間がある」。こういったケースなら、自分でできるかもしれません。税務署に聞きながら進めればいいのですから。ただ実際、一人で申告できるケースは限られます。土地評価は専門的で、一般の方のほとんどは相続税申告に慣れていないためです。

同じ100平方メートルの土地でも、形によって評価額は変わります。奥行きの長短や整形地でない土地は形を考慮することにより評価は下がり、我々専門家でも評価に手間がかかります。また、自宅の土地なら、要件を満たせば評価が8割引きとなる小規模宅地等の特例が使えるかどうか、慎重な判断が必要です。

所得税の申告であれば、自分で税の勉強をして申告するのであっても、毎年することなので努力が報われます。一方、相続税の申告は通常、一生に1度か2度しか経験することはありません。そのために専門的な評価の方法などを苦労して勉強するよりは、うまく税理士ら専門家を利用するほうがいいのではと思います。

(記事は2022年7月1日時点の情報に基づいています)

清三津裕三(税理士)

税理士法人山田&パートナーズ パートナー 税理士

清三津裕三税理士

1995年中央大学商学研究科修了。同年、山田&パートナーズ会計事務所(現 税理士法人山田&パートナーズ)入社。個人・法人の相続・事業承継など資産税を中心とした申告及びコンサルティングを担当。顧客及び金融機関向けセミナーの講演多数あり。税理士法人山田&パートナーズは総合型税理士法人として、人員数700名超、全国16か所に拠点を持ち、個人から法人まで税務についての幅広いサービスを提供している。

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