相続対策できること14選 節税と「争族」回避のために準備しておくこと

相続であらかじめ対策しておきたいのが相続税対策と家族でもめないための相続争い(争族)対策です。相続税や遺産分割でトラブルが生じがちです。いずれも親が亡くなってからでは手の打ちようがありません。最低限知っておきたい相続対策を、税理士がお伝えします。円満な相続に向けた準備の際にきっと役立つはずです。
相続であらかじめ対策しておきたいのが相続税対策と家族でもめないための相続争い(争族)対策です。相続税や遺産分割でトラブルが生じがちです。いずれも親が亡くなってからでは手の打ちようがありません。最低限知っておきたい相続対策を、税理士がお伝えします。円満な相続に向けた準備の際にきっと役立つはずです。
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「将来、自分が亡くなったあと、家族に円満に相続してほしい」と思うなら、生前に相続対策をしたほうが良いでしょう。ここで言う相続対策とは、主に「相続税対策」「争族対策」を指します。
相続税対策とは、相続税を節税する方法です。正味の遺産総額が基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えると相続税がかかります。そして、相続税は相続財産の評価額で金額が決まります。
生前に相続財産が少なくする対策をしておけば、相続税も少なくなります。また、相続税を支払うための納税資金を準備しておくと安心です。
争族対策とは、相続における家族同士の争いを防ぐことです。不動産など分けにくい財産があったり、もともと家族同士が不仲だったりすると遺産分割で揉めやすくなります。より円満な相続にするなら、生前の争族への対策が必要です。
相続税対策でまず、押さえたいポイントは次の3つです。
具体的には、次のような対策があります。
贈与税には「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」の2つがあります。広く行われているのは暦年課税制度です。
暦年課税制度は、相続人となる人が親などから1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。110万円を超えても、18歳以上の人が親や祖父母からもらった財産の贈与税は軽減されます。税率は表のとおりです。
暦年課税制度の年間110万円以内なら税金がかからない非課税枠を使って生前から時間をかけてコツコツ子や孫に贈与をすれば、最終的に相続税も減らせるのです。
一度に多額のお金を子や孫に贈与すると、贈与税がかかります。しかし、次の特例制度を使えば、一定額まで非課税で贈与ができます。
大まかな内容は、次の表のとおりです。
被保険者である故人が生前に保険料を負担した生命保険金を受け取ると、相続税がかかります。しかし、受取人が相続人ならば「500万円×法定相続人の数」まで相続税は非課税です。
相続人となる子を受取人にすれば、非課税の枠内でお金を遺せます。そのお金を使って相続税の納税資金にあてれば、相続税の納税資金に困らなくなるかもしれません。
更地や空き家を収益物件として活用すると節税対策になります。賃貸アパートやマンションは、自宅や別荘よりも相続税評価額が下がるからです。入居者がいて自分の土地とはいえ自由に使えないぶんが評価額に反映されます。
借地権の割合は、土地が路線価の対象になっていれば路線価の末尾に付されているアルファベットが借地権割合です。Aが90%、Bが80%、Cが70%……となっており、Gの30%まであります。土地が路線価ではなく倍率地域にある場合には、倍率表に借地権割合が記載されています。
これに加え、相続した土地の相続税評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」を使えば、賃貸事業用の土地の場合、評価額は、200㎡を上限に50%下がります。
自宅不動産をする場合、小規模宅地等の特例を使えば、評価額を330㎡まで80%減らせます。ただし、この特例を使えるのは、次の人たちです。
3は「過去に持ち家に住んだことがない」など厳しい条件が求められます。一方、2は申告期限までに住み続け、かつ所有していれば特例を使えます。つまり、亡くなった人と同居していた人が自宅を相続すれば、それだけで自宅の相続税評価額を下げられるのです。
墓地や仏壇、仏具といった祭祀財産には、相続税がかかりません。生きている間に墓地や仏具を買っておけば、そのぶん、相続税を抑えられます。
20年以上連れ添った配偶者に自宅や居住用物件の購入資金を贈与すると、2000万円まで贈与税がかかりません。この制度で自宅の一部を妻や夫に生前贈与すれば、相続財産を減らせます。
今後、値上がりすることが見込める不動産や株式があるなら、相続時精算課税制度であらかじめ贈与すると良いでしょう。
相続時精算課税制度で贈与した財産は贈与税が2500万円まで非課税です。贈与した財産はすべて相続税の対象ですが、相続税の計算の基準となる金額は、相続開始時の評価額ではなく、贈与時の評価額となります。つまり、差額のぶんだけ相続税を抑えられるのです。
たとえば、親から子どもに、当時2500万円の株式を相続税精算課税制度を活用して贈与したとしましょう。相続する段階になって、相続税が課税されるのは贈与した時の2500万円だけで、その株式が値上がりしていたとしても、値上がりぶんには課税されません。
相続税のかからない基礎控除額も死亡保険金の非課税枠も、法定相続人の数で増減します。法定相続人の数が多ければ多いほど、相続税が減るわけです。
養子縁組で子どもを増やせば、基礎控除額も死亡保険金の非課税枠も大きくなります。
円満な相続の準備も欠かせません。次のような対策をしておくと良いでしょう。
遺言でどの財産を誰に渡すのかを決めておけば、遺産分割協議が要らなくなります。名義変更だけで済むので、相続人の手間を省けます。
ただし、完全に平等に分配するのは難しいものです。付言事項などで「なぜこの財産をあの相続人に引き継がせたいのか」を明らかにしておくといいでしょう。
日本は死を忌み嫌う文化が強い国です。相続の話を持ち出すと、「縁起でもない」と家族に言われるかもしれません。
しかし、死はある日突然やってきます。感情的に死後の話を避けたばかりに、遺産分割で揉め、家族仲が悪くなるかもしれません。何より、思いは生きている間でなければ伝えられないのです。
元気なうちに、相続について家族で話し合い、お互いの気持ちや希望を確認しておきましょう。
相続が始まったら、遺言書の捜索と相続人の調査、財産の調査をしなくてはなりません。この中で非常に大変なのが、財産の調査です。
持ち主亡きあと、相続人は相続財産を日記や郵便物などから洗い出します。しかし、それでも全財産が見つかるわけではありません。後日、思わぬところから現金の束が出てくるかもしれません。
また、最近はオンラインの銀行や証券に資産を預けるケースが増えています。こういったデジタル資産を相続人が把握するのは困難です。
あとから財産が見つかれば、遺産分割協議や相続税の申告をやり直さなくてはなりません。家族の負担を減らすためにも、相続財産の一覧を作成しておくと良いでしょう。
相続税対策③でお伝えした生命保険金は、分割しにくい相続財産があるときにも役に立ちます。
賃貸不動産や自社株など、分けにくい財産があると遺産分割で揉めがちです。共有にすれば、子や孫が相続でトラブルになる可能性が高くなります。けれども、特定の人が引き継げば、不満が出る原因となります。
しかし、生命保険金に加入し、不動産や自社株を相続する人以外が生命保険を受け取れるようにすれば、不満が出にくくなります。また、分けにくい財産の承継者を生命保険の受取人にすれば、代償分割の分割金を払いやすくなります。
不動産や高級車といった実物資産を生前に処分するのも、相続争いを防ぐ対策になります。売却して現金に換えれば、遺産分割しやすくなるからです。納税資金の準備にもなります。
ただし通常、現預金は実物資産よりも評価額が高くなります。売却すると相続税が高くなる可能性も意識しておいたほうが良いでしょう。
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生前対策に強い税理士を探すいろいろな相続税対策がありますが、注意点もあります。デメリットも意識しなくてはなりません。
2022年(令和4年)の4月、賃貸マンションに関し、納税者が計算した相続税評価額が最高裁によって否定されました。国税庁が主張する、より高い相続税評価額が認められたのです。
【関連記事】相続税の過度な節税対策に最高裁が警鐘 節税目的で不動産購入する場合は注意を
相続財産は原則、財産評価基本通達によって評価することとなっています。そして、建物と土地それぞれの評価方法は、次のように定められています。
この結果、建物も土地も、相続税評価額は一般的な時価である実勢価格より低くなります。
一方、財産評価基本通達は、6項で次のような規定を設けています。
6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
【引用元】相続税法財産評価基本通達(国税庁)
つまり、「財産評価基本通達にしたがって評価した価額が過度に低くなるなら、通達ではなく国税庁が定めた方法で評価する」と言っているのです。
そして今回、最高裁で扱われた相続財産は、国税庁によって6項の対象とされたものでした。納税者が通達に従って路線価方式で評価した金額は、国税庁の目から見てあまりに低かったのです。「路線価方式での評価額ではなく、不動産鑑定士が評価した実勢価格に近い評価額で課税すべし」というのが国税庁の主張でした。今回の最高裁判決は、国税庁の判断を認めたものとなります。
このように6項で通達による評価が否定されるケースはかなり稀です。しかし、だからといって油断はできません。「やりすぎ節税」は要注意です。
相続税対策の多くは、お金の支出を伴います。対策しすぎると老後資金が少なくなり、生活が苦しくなるおそれがあります。相続税がかからないことを知らないばかりに、不安と焦りだけが募り、やらなくていい対策に現金を出してしまうケースもあります。
相続税対策の前に、相続税を試算しましょう。相続税がかからないなら、対策は必要ありません。対策するにしても、老後資金とのバランスを考えたほうが安心です。
相続税対策は上記の他にも、注意すべき点がいくつもあります。
相続税対策① 生前贈与を使う
相続税対策② 贈与税のかからない特例で贈与する
相続税対策③ 相続税がかからない生命保険を契約する
相続税対策④ 不動産活用をする
相続税対策⑤ 親子で同居する
相続税対策⑥ 墓地や仏具などを生前に買って相続財産を減らす
相続税対策⑦ 配偶者に居住用不動産を贈与する
相続税対策⑧ 相続時精算課税制度で贈与する
相続税対策⑨ 養子縁組をする
相続税対策を行うには、家族の理解や協力が必要です。勝手に行動したり、相手の気持ちを確認せずに無理やり実行したりすると、後々トラブルが発生します。
節税は無理なくできる範囲にとどめましょう。「家族仲良く円満に、故人の思いと財産を引き継ぐにはどうしたらいいか」を意識したほうが、気持ちよい相続になります。
生前にできる相続対策をご紹介しましたが、何がベストかは家ごとに異なります。やみくもに対策を講じると、あとでトラブルになるかもしれません。「わが家にふさわしい相続対策は何か」で悩んだら、相続税に強い税理士に相談すると安心です。
(記事は2022年8月1日時点の情報に基づいています)
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