相続税対策9つの方法を厳選 節税のために準備しておくこと 注意点も解説
相続税は生前からの準備次第で税額が大きく変わります。残された家族が多額の相続税に四苦八苦したり、トラブルになったりしないためにも、最低限知っておきたい相続税対策や注意点を、税理士がお伝えします。
相続税は生前からの準備次第で税額が大きく変わります。残された家族が多額の相続税に四苦八苦したり、トラブルになったりしないためにも、最低限知っておきたい相続税対策や注意点を、税理士がお伝えします。
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相続税対策とは、相続税を節税する方法です。正味の遺産総額が基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えると、超えた分が相続税の課税対象となります。そして、相続税の金額は相続財産の評価額に応じて決まります。
生前に相続財産を少なくする対策をしておけば、相続税も少なくなります。また、相続税を支払うための納税資金を準備しておくと安心です。
相続税対策でまず、押さえたいポイントは次の3つです。
具体的な対策を以下で見ていきましょう。
次のような相続税対策が考えられます。
詳しく説明していきます。
贈与税には「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」の2つがあります。広く行われているのは暦年課税制度です。
暦年課税制度は、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません。110万円を超えても、18歳以上の人が親や祖父母からもらった財産の贈与税は軽減されます。税率は表のとおりです。
暦年課税制度の年間110万円以内という非課税枠を使って生前から時間をかけてコツコツ子や孫に贈与をすれば、相続財産を減らし、最終的に相続税も減らせます。
注意しなくてはいけないのは、贈与者の死亡日以前7年間に贈与された分は、贈与したときの時価で相続財産に加算するというルールがあることです。これまでは死亡日以前3年間の贈与分でしたが、2023年度の税制改正で7年間に変更されました。2024年1月1日以降、段階的に期間が延長され、2031年1月1日から完全に7年間の加算になります。この間、死亡日以前3年超7年以内の4年間に贈与された分については「4年間の贈与額の合計-100万円」が加算対象額となります。
「亡くなる直前に贈与した財産は相続税がかかる」ということを念頭に、早めに対策をするようにしましょう。
一度に多額のお金を子や孫に贈与すると、贈与税がかかります。しかし、次の特例制度を使えば、一定額まで非課税で贈与ができます。
これらの特例は暦年贈与と併用することができ、併用すればさらに相続財産を減らす効果が期待できます。また、いずれの特例も適用期限があります。教育資金は2026年3月末、結婚・子育て資金は2025年3月末、住宅取得等資金は2026年12月末までです。
特例を使った贈与の注意点は、もらったお金を目的通りに使わないと課税されるので注意が必要ということです。また、子どもや孫が必要のたびにもらう生活費や教育費はもともと贈与税がかからないので、特例を使って贈与するのであれば、遠い将来に使うであろう教育資金や結婚・子育て資金でないと、あまり意味がありません。
被保険者である故人が生前に保険料を負担した生命保険金を受け取ると、相続税がかかります。しかし、受取人が相続人ならば「500万円×法定相続人の数」まで相続税は非課税です。
相続人となる子を受取人にすれば、非課税の枠内でお金を遺せます。そのお金を使って相続税の納税資金にあてれば、相続税の納税資金に困らなくなるかもしれません。
ただし、「保険料負担者と被保険者=被相続人」「受取人=相続人」でないと非課税枠が使えないので注意が必要です。また、相続放棄すると非課税枠は使えません。
更地や空き家を収益物件として活用すると節税対策になります。賃貸アパートやマンションは、自宅や別荘よりも相続税評価額が下がるからです。入居者がいて自分の土地とはいえ自由に使えない分が評価額に反映されます。
自分が所有する土地に賃貸用の建物を建て、第三者に貸している場合の土地のことを「貸家建付地」と言います。下の図のように、貸家建付地と貸家は、評価額を下げることができます。
借地権の割合は、土地が路線価の対象になっていれば路線価の末尾に付されているアルファベットが借地権割合です。Aが90%、Bが80%、Cが70%……となっており、Gの30%まであります。土地が路線価ではなく倍率地域にある場合には、倍率表に借地権割合が記載されています。また、借家権は入居者が建物を借りる権利のことで、全国で30%と設定されています。
これに加え、相続した土地の相続税評価額を減額できる「小規模宅地等の特例」を使えば、賃貸事業用の土地の場合、評価額は、200㎡を上限に50%下がります。小規模宅地の特例を使う場合は、相続税の申告が必要です。
気をつけたいのは、空き室があるとその分相続税評価額が上がってしまい、入居者がいなければコストがかさんで赤字になってしまう点です。また賃貸収入で預貯金が増えれば、今度は相続財産が多くなります。
自宅の不動産を相続する場合、小規模宅地等の特例を使えば、評価額を330㎡まで80%減らせます。ただし、この特例を使えるのは、次の人たちです。
3は「過去に持ち家に住んだことがない」など厳しい条件が求められます。一方、2は申告期限までに住み続け、かつ所有していれば特例を使えます。つまり、亡くなった人と同居していた人が自宅を相続すれば、それだけで自宅の相続税評価額を下げられるのです。
注意点としては、親子で同居を開始したとしても価値観や生活の違いから、トラブルになる可能性があるということです。また相続税がたとえ0円であったとしても申告は必要ですし、申告期限が過ぎるまで不動産を売却することはできません。
墓地や仏壇、仏具といった祭祀財産には、相続税がかかりません。生きている間に墓地や仏具を買っておけば、その分、相続税を抑えられます。
気をつけるべきポイントとしては祭祀財産が礼拝用ではなく、投資目的だった場合は相続税がかかるということです。また購入する際にローンを組んでも債務控除とはなりません。
20年以上連れ添った配偶者に自宅や居住用物件の購入資金を贈与すると、2000万円まで贈与税がかかりません。この制度で自宅の一部を妻や夫に生前贈与すれば、相続財産を減らせます。
ただ実際には配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使ったほうが、節税効果は高くなります。また不動産取得税などのコストがかかります。
今後、値上がりすることが見込まれる不動産や株式があるなら、相続時精算課税制度であらかじめ贈与すると良いでしょう。
相続時精算課税制度で贈与した財産は贈与税が累計2500万円まで非課税(特別控除)です。この制度で贈与した財産は基本的に相続税の課税対象となります。しかし相続税の計算の基準となる金額は、相続開始時の評価額ではなく、贈与時の評価額となります。値上がり確実な財産を生前に贈与すれば、差額の分だけ相続税を抑えられるのです。
たとえば、親から子どもに、時価2500万円の株式を相続税精算課税制度で贈与したとしましょう。相続する段階になって、相続税が課税されるのは贈与した時の2500万円だけで、その株式が値上がりしていたとしても、値上がり分には課税されません。
なお、2024年1月1日以降の贈与から、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が設けられました。累計2500万円の特別控除とは別に、年間110万円以内なら贈与税も相続税も非課税で申告不要となります。この110万円の非課税枠は死亡直前でも相続財産への加算対象とはなりません。
ただし下記の通り気をつけなければならないポイントがあります。
相続税のかからない基礎控除額も死亡保険金の非課税枠も、法定相続人の数で増減します。法定相続人の数が多ければ多いほど、控除額も大きくなります。課税される相続財産を減らして節税することができるのです。養子縁組で子どもを増やせば、基礎控除額も死亡保険金の非課税枠も大きくなります。
しかし3人以上養子縁組しても、最大2人までしか法定相続人としてカウントされません。また孫養子の相続税は2割増しになります。節税対策としての養子縁組ですが、子になる人の心情にも十分な配慮が必要です。
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相続の相談が出来る税理士を探すいろいろな相続税対策がありますが、特に気を付けるべきポイントは以下になります。
賃貸マンションに関して2022年4月、納税者が計算した相続税評価額が最高裁によって否定されました。国税庁が主張する、より高い相続税評価額が認められたのです。
相続財産は原則、相続や贈与で取得した財産の評価方法について国税庁が示した「財産評価基本通達」によって評価することとなっています。そして、建物と土地それぞれの評価方法は、次のように定められています。
この結果、建物も土地も、相続税評価額は一般的な時価である実勢価格より低くなります。
一方、財産評価基本通達は、6項で次のような規定を設けています。
この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。
【引用元】相続税法財産評価基本通達(国税庁)
つまり、「財産評価基本通達にしたがって評価した価額が過度に低くなるなら、通達ではなく国税庁が定めた方法で評価する」と言っているのです。
上記の最高裁のケースで扱われた相続財産は、国税庁によって6項の対象とされたものでした。納税者が通達に従って路線価方式で評価した金額は、国税庁の目から見てあまりに低かったのです。「路線価方式での評価額ではなく、不動産鑑定士が評価した実勢価格に近い評価額で課税すべし」というのが国税庁の主張でした。最高裁判決は、国税庁の判断を認めたものとなります。
このように6項で通達による評価が否定されるケースはかなり稀です。しかし、だからといって油断はできません。「やりすぎ節税」は要注意です。
こうしたマンション節税に歯止めをかけるため、国税庁は相続税の新たな算定ルールを定め、マンション1室の相続税評価額が最低でも時価の6割になるよう引き上げました。2024年1月以降に相続、遺贈または贈与で取得した分について適用されます。
相続税対策の多くは、お金の支出を伴います。対策しすぎると老後資金が少なくなり、生活が苦しくなるおそれがあります。相続税がかからないことを知らないばかりに、不安と焦りだけが募り、やらなくていい対策に現金を出してしまうケースもあります。
相続税対策の前に、相続税を試算しましょう。相続税がかからないなら、対策は必要ありません。対策するにしても、老後資金とのバランスを考えたほうが安心です。
ここまで相続税対策をみてきましたが、より円滑な相続にするなら、生前の「争族対策」も必要です。争族対策とは、相続における家族同士の争いを防ぐことです。不動産など分けにくい財産があったり、もともと家族同士が不仲だったりすると遺産分割で揉めやすくなります。以下、具体的な争族対策を解説します。
遺言でどの財産を誰に渡すのかを決めておけば、遺産分割協議が要らなくなります。名義変更だけで済むので、相続人の手間を省けます。ただし、完全に平等に分配するのは難しいものです。付言事項などで「なぜこの財産をあの相続人に引き継がせたいのか」を明らかにしておくといいでしょう。
日本は死を忌み嫌う文化が強い国です。相続の話を持ち出すと、「縁起でもない」と家族に言われるかもしれません。しかし、死はある日突然やってきます。感情的に死後の話を避けたばかりに、遺産分割で揉め、家族仲が悪くなるかもしれません。何より、思いは生きている間でなければ伝えられないのです。元気なうちに、相続について家族で話し合い、お互いの気持ちや希望を確認しておきましょう。
相続が始まったら、遺言書の捜索と相続人の調査、財産の調査をしなくてはなりません。この中で非常に大変なのが、財産の調査です。持ち主亡きあと、相続人は相続財産を日記や郵便物などから洗い出します。しかし、それでも全財産が見つかるわけではありません。後日、思わぬところから現金の束が出てくるかもしれません。
また、最近はオンラインの銀行や証券に資産を預けるケースが増えています。こういったデジタル資産を相続人が把握するのは困難です。あとから財産が見つかれば、遺産分割協議や相続税の申告をやり直さなくてはなりません。家族の負担を減らすためにも、相続財産の一覧を作成しておくと良いでしょう。
相続税対策③で解説した生命保険金は、分割しにくい相続財産があるときにも役に立ちます。賃貸不動産や自社株など、分けにくい財産があると遺産分割で揉めがちです。共有にすれば、子や孫が相続でトラブルになる可能性が高くなります。けれども、特定の人が引き継げば、不満が出る原因となります。
こうした場合、生命保険金に加入し、不動産や自社株を相続する人以外が生命保険を受け取れるようにすれば、不満が出にくくなります。また、分けにくい財産の承継者を生命保険の受取人にすれば、代償分割の分割金を払いやすくなります。
不動産や高級車といった実物資産を生前に処分するのも、相続争いを防ぐ対策になります。売却して現金に換えれば、遺産分割しやすくなるからです。納税資金の準備にもなります。
ただし通常、現預金は実物資産よりも評価額が高くなります。売却すると相続税が高くなる可能性も意識しておいたほうが良いでしょう。
生前にできる相続税対策や争族対策をご紹介しましたが、何がベストかは家ごとに異なります。やみくもに対策を講じると、あとでトラブルになるかもしれません。「わが家にふさわしい相続対策は何か」で悩んだら、相続税に強い税理士に相談すると安心です。
(記事は2024年1月1日時点の情報に基づいています)
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