相続税対策での不動産購入の注意点 「投資家目線」の選択とは 不動産コンサルタントに聞く
「相続した不動産をどうすればいいかわからない」といった不安を感じる人も多いでしょう。しかし相続が始まってしまってからでは、できる対策は少なくなってしまいます。不動産相続に関するトラブルと事前にできる対策について、不動産会社「ウィンドゲート」代表の尾嵜豪さんに尋ねました。
「相続した不動産をどうすればいいかわからない」といった不安を感じる人も多いでしょう。しかし相続が始まってしまってからでは、できる対策は少なくなってしまいます。不動産相続に関するトラブルと事前にできる対策について、不動産会社「ウィンドゲート」代表の尾嵜豪さんに尋ねました。
――近年、不動産相続に対する関心は高まっていますか。
2015年に相続税の基礎控除額が4割も引き下げられました。それに伴い、相続税対策への関心が高まっていると思います。基礎控除が少なくなったことで、都内に不動産があるだけで相続税の対象になってしまうケースもあり、弊社への相談も増えています。相続が発生したり、トラブルに発展したりしてから、慌てて「何をすればいいかわからない」と相談される人が多いです。
――どのような相談が多いのでしょうか。
相続税の支払いのために不動産の現金化を急ぐケースや、共有状態の不動産に関する相談があります。ただ不動産相続は、不動産の立地、相続人の関係、資産額など相続人の置かれた状況ごとに悩みも異なるので、一概に「どのパターンが多い」とは言えないのが現状です。
「まったく知らない地方の土地を相続したが、どうすればいいのかわからない」「不動産しか遺産がない。どうやって相続人で分割すればよいのか」「相続した農地をどう活用すればいいか」といった相談があります。
――解決に導いた相談事例について教えて下さい。
「相続した共有名義の土地を売却したい」という相談が、Aさんからありました。
この相談者Aさんのケースでは、父と親戚Bさんが共有名義で所有していました。その後父が亡くなったことにより、Aさんが、その土地の父の持分を相続することになりました。Aさんとしては「その不動産を第三者に売却したい」けど、共有名義人であるBさんが「売りたくない」という状態でした。
そこで、Aさんが保有する不動産の持分をウィンドゲートが買い取り、Bさんと交渉し、次のように提案しました。
「弊社の方でAさんの不動産の持分を買い取ったのですが、この持分をBさんに買い取ってもらえないでしょうか。そうすれば共有名義が解消され、Bさんの単独所有となります。資産価値が高まるので、Bさんにとってもメリットがあります」
当初、Bさんからの回答は「手元の現金が足りないので難しい」というものでした。ならばと、弊社の方で不動産ローンを組める金融機関を探し、Bさんにご紹介しました。その後Bさんに不動産ローンの借入金で持分を買い取ってもらうことができ、共有名義の土地の持分を無事に売却することができました。
――個人で解決するのは難しいのでしょうか。
正直、共有名義の不動産の売却はノウハウや知識がないと難しいです。当事者間の交渉だと、つい感情的になりがちで話し合いが進まない恐れがあります。さきほどの事例のように、持分の買い取りを巡って「お金がない」といった状況も起こりえます。不動産の立地や相続人の関係によっても解決方法が変わるので、個人で解決するのはハードルが高いところです。
――相続税対策としての不動産購入が人気です。
不動産を所有していると、相続税評価額を圧縮できる点で有効です。現金より相続税評価額が大きく下がります。従って、相続税の基礎控除より多くの資産があり、一定額以上の相続税を納税しなければならない人にはおすすめです。
ただ、不動産を購入する際は相続税額を減らす観点だけでなく、「投資家目線」で見るのが大切です。
つまり、将来にわたり収益を生む物件か、資産価値を維持できる物件かどうかをきちんと見極める必要があるということです。いくら相続税を抑えられたとしても、月日がたつにつれ資産価値がどんどん落ちるような「”負”動産」では相続人が負担を背負うだけになります。
空室ばかりの地方のアパートを相続したら、売るに売れないし、毎月給料から赤字を補塡しなければならないという事態に陥る恐れもあります。
――では、どんな不動産を買えばいいのでしょうか。
相続税評価額を圧縮する効果は、時価と相続税評価額の乖離が大きいタワーマンションなどが適しています。ただ、相続税対策のためだけにタワマンを購入してはいけません。タワマンは価格の変動が大きいので、市況次第では、その価値が大きく下がってしまう恐れががあるからです。
そういったリスクを避ける方法として、タワマンの低層階の購入を弊社としては勧めています。高層階より購入価格が安い傾向がある低層階は、価格変動というリスクを抑えながら相続税評価額を減らせます。価格が抑えられる分、富裕層以外にも売却できるので、流動性の高さも魅力の一つです。
一方で、地方の戸建てやアパートなどは、相続税評価額が下がりにくいうえ、価値が下がってしまうリスクがあるので注意が必要です。また、物件自体の当たり外れを見分けるのが難しいので、不動産初心者が購入すると、失敗する原因になりかねません。
――地方の土地を相続し、困っている人も多いです。
相続する土地の場所や状況に応じて、最適な方法を選ばなければなりません。
隣地に買ってもらったり、太陽光や駐車場として活用したり、といった方法をとるケースもあります。解体後にアパート建設をするように勧める不動産会社もいますが、立地によっては入居が見込めないので要注意です。
――地方の土地相続について、解決事例を教えて下さい。
農地に太陽光パネルを設置した事例があります。農地を売却する場合は、農業委員会や自治体の許可を取らなければならないケースがほとんどです。そのため、手放したくても売れない農地が多くあります。
そこで、農地に支柱を立てて太陽光発電の設備を設置する「営農型太陽光発電」をご提案しました。農地で太陽光発電を行うには原則として農地転用の許可を得なければならないのですが、この方法では一時転用の許可があれば、農地として活用しながら発電収入も得ることができます。太陽光パネルを設置するには、施工業者の調整はもちろんのこと、電力会社との手続きも必要です。こういった手続きに煩わしさを感じさせないためにも、ご提案から調整まで一貫してサポートしています。
――相続に関する相談は、どれぐらいのタイミングにすればいいのでしょうか。
なるべく早いタイミングがいいですね。相談が早ければ、基礎控除内で贈与したり、法人名義で不動産を所有して相続税対策をしたり、遺言書の作成したり、家族信託を考えたりなど、選択肢も広がり多くの手段を選べます。
また、例えば認知症になると相続対策が難しくなってしまいます。成年後見制度を利用することもできますが、不動産の売却や購入ができないケースがほとんどで、多くの相続人が苦労しています。
相続トラブルに発展するリスクも低減できるので、なるべく早く専門家に相談してほしいです。
相続税対策として不動産の購入を考えているのであれば、不動産の物件価値やマーケットを熟知した専門家への相談が大切です。法律に関する相談を弁護士にするように、不動産もプロフェッショナルに相談したほうがよいと思います。
渋谷を中心とした東京都心の不動産売買や賃貸、相続など取り扱う不動産会社。不動産を活用した生前対策や相続トラブルをコンサルタント目線でサポートする。居住物件から投資物件など幅広い不動産を取り扱っていることが強み。地方の不動産にも対応可能。
(記事は2022年12月1日現在の情報に基づきます)