田舎の空き家や山林を相続したくない! その対処法は? 弁護士に聞く
いらない古い空き家や山林などの土地を相続することになったら、どうすればいいのでしょうか。いったん相続をすれば管理責任も発生し、固定資産税も払い続けなければいけません。多湖総合法律事務所(神奈川県相模原市)代表弁護士の多湖翔さんに話を伺いました。
いらない古い空き家や山林などの土地を相続することになったら、どうすればいいのでしょうか。いったん相続をすれば管理責任も発生し、固定資産税も払い続けなければいけません。多湖総合法律事務所(神奈川県相模原市)代表弁護士の多湖翔さんに話を伺いました。
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――誰が所有者なのかわからない土地が増えていると聞きました。何が問題でしょうか。
日本では現在、所有者がわからない土地の面積は、九州よりも広く、国土の約22%に上ります。所有者不明の土地はそのまま放置されてしまい、周辺環境が悪化します。また、その土地は誰に許可をとればいいのか分からないため、都市開発や街づくりの計画が進みません。2011年に東日本大震災で被災した地域も、所有者不明の土地が多く復興の妨げとなりました。
所有者不明の土地が生まれるのは、相続時に登記が行われないことなどが原因です。そこで、2024年4月から相続登記の義務化がスタートします。また、所有者不明の土地の発生を防ぐため、相続した不要な土地を国に引き渡すことができる「相続土地国庫帰属制度」が4月から始まりました。
――大きな社会問題になっているんですね。解決策として相続登記が義務化されるとのことですが、不要な空き家や山林の相続に悩む人も多いと思います。
空き家などの不要な土地を相続すると、固定資産税がかかるだけでなく、多くの問題が生じてきます。使わないからと管理もせずに放置すれば、近隣住民から「雑草の種が畑に飛んできて困る」「倒壊しそうで危ないから何とかしてほしい」など苦情の電話がかかってくることもあります。
自然災害が起きた時にも、所有する土地に何かあれば管理責任を問われる恐れがあります。実際、相模原市の豪雨災害で、山林の土砂崩れが発生し「土砂が流れ込んだ民家の住民から損害賠償を請求されそうだ」という山林の所有者から相談を受けたことがありました。
こうしたリスクを考えると、単に利用価値がないだけでなく、「持っているだけで怖い」「面倒だから相続したくない」と考える相続人もいるでしょう。
――どうすればよいでしょうか。
いらない土地や山林が遺産として残されているのであれば、まずほかの相続人に相続してもらえないか遺産分割協議で話し合ってみるとよいでしょう。
相続人全員に拒否され、自分としてもどうしても相続したくないのであれば、相続放棄が選択肢の一つとなります。
――土地を相続放棄すると、預貯金などプラスの財産もすべて相続できなくなります。どのような基準で判断すればよいでしょうか。
一般的に相続放棄をしたほうがいいのは、預貯金といったプラスの財産と借金などのマイナスの財産を比べ、明らかにマイナスのほうが大きいときです。亡くなった方に借金があって滞納分の請求が来ているような場合は、検討することになります。
また、弁護士への相続放棄の相談で多いのは、亡くなった方と疎遠だったり、音信不通だったりしたケースです。「生前の付き合いもなかったのに、かかわりたくない」というのが、相談者の気持ちでしょう。
いらない空き家や山林の相続放棄を選ぶ人は、ほかにプラスの遺産があまりない場合が多いです。預貯金がたいして残されていないのであれば、利用価値がないにもかかわらず固定資産税もかかり、管理義務も生じる土地を相続することはデメリットの方が大きいです。ただし、数千万円の遺産がほかにある場合は、ほとんどの人が相続を選択すると思います。
――相続放棄をしても「空き家の管理責任は残る」と聞いたことがあります。
これまで、相続放棄後の管理責任についてはあいまいでした。しかし、2023年4月から施行された民法改正によって、責任者が明確になりました。
今回の改正により、相続放棄の後に管理責任が残るのは「現に占有している」者に限定されます。「現に占有している」とは、その家に実際に住んでいたり、倉庫代わりに大量に荷物を置いていたりするような人です。たとえば、親と離れて東京に暮らしていた相続人の子どもが、地方にある実家を相続放棄しても、管理責任を問われる心配はなくなりました。
これまであいまいだった管理責任の所在が明確化して、クリアになったのは非常に良い話で、相続放棄する人の安心にもつながると思います。
――相続放棄した場合、ほかの相続人に伝える必要はありますか。
相続放棄は、遺産分割協議とは違ってほかの相続人の合意も必要なく、自分ひとりで放棄を決めることができます。放棄したことをほかの相続人に伝える義務もなく、黙っていても法的には問題ありません。
しかし、「私は相続放棄したので、空き家の相続権はあなたに移ります。不要なら相続放棄という方法もありますが、期限は『相続開始を知った日から3カ月以内』です。弁護士に相談することもできます」と伝えた方が親切ではないかと思います。役所から固定資産税の支払い請求書が来て、空き家の相続人になっていたことを突然知ったら、どうしたらいいか分からず、パニックになってしまいます。
以前訪ねてこられた相談者は、遠縁の親族から「借金の相続放棄をしたから」とだけ連絡をもらったものの、わけが分からずそのままにしていました。3カ月のルールや相続放棄のことを知らなかったのです。相談に来られた時にはすでに時遅しで、多額の負債を背負うことになり自己破産することになってしまいました。
こうした事態に陥らないよう、相続放棄者は、相続権が移る人に相続放棄した事実だけでなく、「どうすればいいのか」まで伝えるとよいと思います。
――相続放棄をせず、不要な土地を相続してしまった後に手放すためにできることは。
まずは売却です。空き家であれば建物を残したまま売却できないかを検討するとよいでしょう。相場よりも安価な値段に設定すれば、売却できる可能性があります。もし建物がある状態で売却ができなければ建物を解体し、更地にして売却を試みてもよいでしょう。
ただし、解体には数百万円の費用がかかりますし、更地にすると固定資産税が高くなるので、更地にしたら売却できるかどうか慎重に見極める必要があります。
――売れない場合は?
相続した不要な土地を国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」への申請を検討してみましょう。これは、2023年4月27日に始まったばかりの制度です。
ただし、すべての土地を国に引き取ってもらえるわけではなく、条件があります。建物のある土地、汚染されている土地、所有権について争いがある土地などはそもそも申請することさえできません。申請することができても、管理が大変な崖がある土地などは不承認となってしまいます。
――この条件を満たす土地なら、そもそも売却ができるのでは?
確かにそうかもしれません。まだ始まったばかりの制度なので、申請や承認までのハードルがどれほど高いのか未知数のところがあります。例えば、「勾配30度以上・高さ5メートル以上の崖がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用・労力を要する」土地は承認されないのですが、「過分な」がどれくらい過分であるかが何とも言えません。今後、実例が積み重なることで、判断の目安がわかってくると思います。
――相続放棄に話を戻しますが、相続放棄を弁護士に相談するメリットは?
相続放棄をするにあたって、よくあるトラブルは、相続財産に債務があった場合の債権者との争いです。たとえば「相続開始を知った時から3カ月以内」という期限について、起点となる日付がいつかについて、揉めることがあります。弁護士であれば、そういったトラブルが起こらないように相続放棄の手続きを進めますし、仮に裁判になっても代理人を務めることができます。
また、相続放棄の3カ月の期限が迫っている場合、「相続財産の調査に時間がかかる」といった状況であれば、家庭裁判所に請求することで、期間を伸ばしてもらえる可能性がありますので、弁護士に対応を依頼して下さい。また、期間が過ぎた後でも「相続放棄の動機となる債務の存在を知らなかった」場合など、相続放棄が認められるケースもあります。家庭裁判所に対し合理的な説明が必要となりますが、弁護士であれば適切に対応をとれます。
相続放棄に限らず、遺産相続では、相続人同士で揉めるケースが多々あります。「私のほうが介護をしたのだから多めにもらえるのは当然」「親の預金財産を使い込みしたに違いない」など、「ボタンの掛け違い」によって感情面での対立が起きてしまいます。弁護士は話もできなくなった相続人同士の間に入り、法律に従って冷静に解決していくことができます。相続で何かトラブルが生じてお悩みの場合、ひとりで悩まずに早めにご相談に来て頂ければと思います。
2017年に神奈川県相模原市に開設。代表の多湖翔弁護士を含め男女4名の弁護士が在籍している。地域に根ざした親しみやすい総合法律事務所として、相続・遺産問題や離婚・不倫などの男女問題、債務整理、交通事故、刑事事件、企業法務、企業顧問など、幅広い案件に対応。ベビーベッドが設置された個室で相談ができるなど子をもつ相談者の方への配慮もある。
(記事は2023年6月1日現在の情報に基づきます)
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