目次

  1. 1. 家族信託と民事信託の違い
    1. 1-1. そもそも「家族信託」「民事信託」とは?
    2. 1-2. 「商事信託」との違いは?
  2. 2. 民事信託を活用できるケースとは
  3. 3. 家族のための民事信託を利用する手順
  4. 4. 家族のための民事信託を相談できる専門家
  5. 5. まとめ

書き出しにあるとおり、家族信託と民事信託は同じものと言えます。両方とも法律による定義はありません。少なくとも信託を利用する場合、これらの違いを意識する必要はありません。
「家族信託」は商標登録されているようですが、使用について制限をすることはないとも聞いています。ただ、「民事信託」と呼ぶか、「家族信託」と呼ぶのかは、一定の傾向があります。弁護士は「民事信託」と呼称することが多く、それに対して司法書士は「家族信託」と呼称することが多いという印象です。また、弁護士や司法書士が信託について所属している団体によって、「民事信託」と言ったり「家族信託」と呼んだり……という傾向もあるようです。

財産の所有権を、財産から利益を受ける権利と、財産を管理・運用、処分できる権利に分け、財産を管理・運用、処分できる権利をあらかじめ子どもなどに渡す契約のことを「家族信託」または「民事信託」と言います。

例えば、父親と長男との間で、実家の不動産についての家族信託契約を結んだケースを例にあげます。実家の不動産を所有する父親が認知症になり、施設入所の費用のために実家不動産を売却しようとする場合、家の財産の管理を任された長男が家を売却できます。財産から利益を受ける権利は父親にあるので、家を売ったお金は、父親のものとして施設に入る費用に使えます。

また、「商事信託」という言葉もあります。これも法律による定義はありません。しかし専門家の間では広く使われています。家族信託あるいは民事信託(以降「民事信託」に統一します)と商事信託には次の違いがあります。

民事信託は、信託の中心人物である受託者が家族によって担われることがほとんどです。そのため「家族信託」と言ったほうが実感に近いのかもしれません。一方、商事信託は、信託銀行や信託会社が受託者になります。商事信託は信託の受託を業務として行うため、受託者になるには国の認可(登録)が必要になります。また、信託銀行や信託会社が受託する際には当然ながら報酬が発生します。

それに対して民事信託の受託者は身内ですから、受託者の報酬を無報酬とすることも多くなります。また、事業としてやるわけではないので、国の認可(登録)も必要ありません。

民事信託は、財産を持っていてその財産から利益を受ける人に代わって、その人の家族が、その人のために、財産の管理や処分をするという財産管理の方法です。

民事信託を活用できる場面としてもっとも典型的なのは、高齢者の親が認知症になってしまって、自分で自分の財産を管理や処分することができなくなる備えとして、その子が親のために財産を管理するというものです。

そのほかの場面としては、「遺言の代わりに遺言者の財産の帰属先を決めておく」「障がいがある子供のために、親の財産を障がいのある子以外の子に信託する」「自分の死後の財産の最初の帰属はAとして、さらにAが亡くなったらBとする…など、財産の連続的な承継先を決めておく」などのほか、上記とは趣きが異なりますが「中小企業のオーナーが、企業の株式を信託して事業承継に利用する」などがあります。

ここでは民事信託の典型的ケースであり、おそらく大半の利用目的である「高齢者の財産管理」を例にあげて説明します。

民事信託(家族信託)の一例
民事信託(家族信託)の一例

父は高齢で認知症発症が危ぶまれます。認知症になってしまうと、自分の預金でも引き出しができなくなります。不動産の管理や処分もできません。また高齢者を狙った詐欺に遭うリスクもあります。

そこで、委託者の高齢者・父は、金銭と不動産を信託財産として信託します。信託財産の管理や処分をするのは受託者の息子です。財産の名義は息子になります。信託後は息子「だけ」が信託財産の管理や処分をすることになります。一方、信託期間中は財産から発生する利益は、引き続き受益者である父のものとなります。父が亡くなったら信託は終了し、残余の信託財産は帰属権利者の息子のものとなります。

これにより父の存命中は、父は財産の管理の負担がなくなり、詐欺に遭うリスクもなくなります。なぜなら父の名義の財産ではなくなるからです。他方、信託財産からの利益は引き続き父が受けることに変わりはありません。
さらに、父が亡くなると信託財産は息子のものとなります。この意味で遺言の代わりになります。

信託は法律としても難しいため、自身でやろうとせず、まずは専門家に相談するのがお勧めです。専門家と相談して「どんな希望があるのか」を伝えます。相談の結果、民事信託ではなく、他の手段、例えば遺言あるいは後見などを勧められる場合もあるでしょう。民事信託一本やりではなく、他の手段の提案力も持っている人のほうが専門家としても安心できるでしょう。

次に、契約書を作成してもらいます。不動産であれば登記をするので、通常は司法書士も関わります。また、公正証書にする場合は公証人も関わります。さらに「信託口口座」を開設するためにそれを受け入れてくれる金融機関も関係します。これらすべての関係者を一元的に調整してくれる専門家でなければなりません。

公正証書にすることは必須ではありませんが、相談した専門家以外の法律専門家に見てもらった方が安心できるかもしれません。さらには金融機関の多くは、公正証書で契約書を作成しないと、「信託口口座」の開設をしてくれません。
契約書・不動産登記・信託口口座の3つがそろえば、信託はスタートできます。

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民事信託に通じている専門家は多くはありません。民事信託関連のコラムや書籍の執筆者などを参考にされるのもいいかもしれません。また、ネットなどで検索するのもいいかもしれません。

なお金融機関によっては、相談を受けた際に専門家を紹介してくれる場合もあります。「信託口口座」の開設を受け付けている金融機関に問い合わせてみるのもひとつの方法です。専門家の資格としては、弁護士もしくは司法書士になるでしょう。

最近の財産管理やその承継に係る相談を見ていると、民事信託の相談は増加傾向にあります。しかし、民事信託は財産管理の方法に過ぎず、例えば認知症になってしまった高齢者の生活の世話や施設への入所手続きなど、身上監護をする機能はありません。身上監護をご家族でやるのは構いませんが、信託するとすべてが解決するものではないことは念頭におかなければなりません。
また、財産を管理・承継する方法は信託以外にもあります。民事信託一択ではなく、他の手段も併せて弁護士や司法書士に相談するといいでしょう。

(記事は2022年1月1日時点の情報に基づいています。)