土地の権利書を紛失しても相続登記はできるか? 必要書類や手続きを司法書士が解説

不動産を相続することになったが、その土地の権利書(権利証)がない――。このような場合、相続登記は可能なのでしょうか? また、名義変更にはどんな書類が必要なのでしょうか。司法書士が解説します。
不動産を相続することになったが、その土地の権利書(権利証)がない――。このような場合、相続登記は可能なのでしょうか? また、名義変更にはどんな書類が必要なのでしょうか。司法書士が解説します。
目次
「相続会議」の司法書士検索サービスで
土地の権利を表す書類について、「権利書(権利証)」という名称を聞いたことがあるかもしれません。実はこれらは俗称であり、正式名称は異なります。
平成18年以前は、売買や相続など、所有権を取得する登記などが完了した際に、法務局から『登記済証』が発行されていました。これが、通称「権利証」と呼ばれている書類です。登記済証には、申請内容のほかに、登記官による「登記済」の押印があります。
不動産登記法の改正により、平成18年以降は『登記済証』に代わり『登記識別情報」が発行されています。登記事務の簡素化や効率化、インターネット経由での登記申請を可能にすることなどが主な目的です。
『登記識別情報』とは、数字やアルファベットの組合せからなる12桁の符号です。不動産ごと、登記名義人となった申請人ごとに定められ、登記名義人となった申請人に通知されます。不動産売却などの際に、本人確認の目的で法務局に提出が求められます。登記識別情報は、一般的に権利の所有者以外は知りえないため、登記の真正性を確保するための情報として使用されます。
登記識別情報は非常に重要な情報です。銀行口座の暗証番号と類似するものと考えるとよいでしょう。第三者に見られると問題が起こる可能性があることから、厳格な取り扱いがされています。書類で登記識別情報が交付された場合は、12桁の符号については、袋とじがされており、そのままでは見ることができないように加工されています。
また、登記済証と登記識別情報は、取り扱いが少し異なります。例を挙げると、登記識別情報は通知された書面などに効力があるわけではないため、12桁の符号さえ合っていれば、コピーやメモであっても問題はありません。一方、登記済証は原本を保管する必要があり、コピーしたものは登記の添付書類として使用できません。
このように、登記済証と登記識別情報は、権利の所在を示す重要な書類(情報)ですから、紛失した場合でも再発行はいっさいできない規定になっています。
なお、登記済証や登記識別情報を紛失(失念)したからといって、権利がなくなったり,その登記が抹消されたりすることはありません。重要な書類(情報)ではありますが、無くしてしまったからといって、登記された権利に影響することはありません。
また、通常はそれらの書類や情報を添付すべき登記を申請する場合であっても、事前通知などの方法により、登記を行うことができないわけではありません。困ったときはお近くの司法書士に相談するとよいでしょう。
では、権利証(登記済証/登記識別情報)を紛失した場合、相続登記はできるでしょうか。実は、相続登記においては、権利証(登記済証/登記識別情報)を使用しないため、特に問題はありません。
売買や贈与などの不動産登記は、原則として当事者の双方が共同で申請します。
双方が共同申請することで、不動産についての権利移動が真実に合致していることを担保しています。権利を譲渡する側の参加も義務付けることで、虚偽の登記が行われる可能性は低くなります。
また申請にあたり、登記名義人以外は所持していない権利証の提出を求めることで、権利譲渡者の本人確認を厳格化することができ、登記申請の真実性がより高まります。
このように、権利証は登記制度において重要な役割があります。
それでも、相続登記において権利証を使用しないのは、売買などと異なり、相続登記は相続人からの単独申請によって行われるからです。
相続を原因とする所有権移転の場合、権利を失う側の被相続人は死亡しているため、登記申請を行うことはできません。そのため、相続登記は相続人による単独申請となり、被相続人の戸籍謄本などの添付を求めることで、登記申請の真実性を担保します。
相続登記において必要な書類について説明します。
相続登記手続きは一般的に、法定相続分で申請する場合と、遺産分割協議で決まった割合に従って申請する場合の、どちらかのケースが多いです。
それぞれの場合について、必要な書類が異なります。
法定相続分に応じた割合で相続登記を申請する場合、一般的に必要な書類は以下のとおりです。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍など
・被相続人の住民票の除票(抹消された住民票のこと)、または戸籍の附票(住民票の移り変わりを記載したもの)
・相続人全員の現在戸籍など
・相続人の住所証明書(住民票など)
・固定資産評価証明書
相続登記は原則として、被相続人の戸籍などを、現在のものだけでなく、出生までさかのぼって集めます。戸籍は法律が変わった場合に改正され、新しいものが作られてきました。その際、古い戸籍で除籍されている人は新しい戸籍に記載されません。例えば、改正前に生まれ、結婚して除籍になった子がいた場合、新たな戸籍にはその子が記載されません。
従って、現在戸籍だけでは相続関係を調べられないため、出生から死亡までのすべての戸籍謄本などを取得して、相続人を確定させる必要があります。
遺言による相続登記では、提出が求められる戸籍は被相続人の死亡時の戸籍(除籍)謄本と相続人の現在の戸籍謄本のみになります。
そのほかに提出する書類については、遺言書以外は法定相続割合で登記する場合と異なることはありません。なお、遺言書は、法務局で保管していない自筆証書遺言と秘密証書遺言については、検認済みのものが求められます。
遺言による相続登記において提出する書類をまとめると、以下のとおりとなります。
・被相続人の戸籍(除籍)謄本
・相続人の現在戸籍等
・被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
・相続人の住所証明書(住民票など)
・固定資産評価証明書
・遺言書
なお、所有権移転登記が完了すると、新たな登記識別情報が発行されます。
全国47都道府県対応
相続の相談が出来る司法書士を探す上記のように、相続登記において権利証は原則として不要です。
ただし、登記簿上の住所と被相続人の住所のつながりを示す書類が存在しない場合に、相続人から提出する上申書(申し述べをする文書)に添付する書類として、権利証の添付が求められるケースもあるようです。不明な点がある場合や、困ったことがある場合は、お近くの司法書士に相談してみましょう。
(記事は2021年6月1日時点の情報に基づいています。)
「相続会議」の司法書士検索サービスで