銀行口座の相続 名義変更する際の注意点と手続きの流れ
亡くなった人が銀行口座を持っている場合には、相続人はその口座の名義変更をしなくてはいけません。この名義変更には、さまざまな書類が必要となり、書類に不備があると何度も銀行の窓口に足を運ぶことになってしまいます。銀行口座の名義変更について、注意点や手続きの流れを司法書士が解説します。
亡くなった人が銀行口座を持っている場合には、相続人はその口座の名義変更をしなくてはいけません。この名義変更には、さまざまな書類が必要となり、書類に不備があると何度も銀行の窓口に足を運ぶことになってしまいます。銀行口座の名義変更について、注意点や手続きの流れを司法書士が解説します。
目次
「相続会議」の司法書士検索サービスで
銀行口座の相続には大きく2つの方法があります。
今回の解説では、特段の記載がなければ、2つの方法を総称して名義変更と言います。なお、一部の銀行や金融商品によっては、2.の方法しか認められない場合もありますので、具体的な方法は各銀行にお問い合わせください。
口座の名義人が死亡し、その死亡の事実を銀行が知ったときは、その口座は凍結されて一切の入出金ができなくなります。名義変更するためには、戸籍謄本取得などの事前準備、銀行への連絡、必要書類の提出といった手続きが必要で、早くても1カ月程度はかかります。
すぐに預金の引き出しが必要な場合には後述する仮払い制度もありますが、銀行口座の名義変更にはある程度の時間がかかることは知っておいたほうがよいでしょう。名義変更の注意点や手続きの流れについて、以下で詳しく解説します。
キャッシュカードがあり、相続人が暗証番号を知っていれば、被相続人(以下「亡くなった人」)の死亡後もATMで預金を引き出すことは可能です。しかし、これを行うことには次のようなリスクがあります。
相続放棄ができなくなる
相続はプラス財産だけでなくマイナス財産も承継します。
そこで、相続の方法として、プラスもマイナスも一切の財産を承継する「単純承認」、プラスがある場合に限り承継する「限定承認」、マイナス財産が多かったり相続手続きに関わりたくない場合に行われる「相続放棄」の3種類があります。預金を引き出すことは単純承認とみなされて、のちにマイナス財産が発覚しても限定承認や相続放棄が認められない可能性があります。
相続人間のトラブルの原因に
亡くなった人の死亡日以降に一部の相続人が預金を引き出した場合、その使い方によってはほかの相続人とのトラブルに発展する可能性があります。葬儀費用など明確な使途があり、領収書などの証拠となるものがあればいいですが、使途不明金があると相続人間で不信感が生まれる原因となります。
亡くなった人の死亡日以降に引き出された預金も相続財産ですから、当然に遺産分割協議の対象になりますし、相続税が発生する場合には申告すべき財産に含まれることになります。後々のトラブルを防止するためにも死亡後の預金引き出しはできるだけ行わないほうがよいでしょう。
口座が凍結されると、その口座から一切の入出金ができなくなります。つまり、公共料金やクレジットカードの支払いについて口座からの引き落としができなくなり、株などの配当金や不動産を貸している場合の賃料など振り込みによる受け取りもできなくなります。名義変更の手続きに入る前に、その口座で決済されている料金や取引について通帳の履歴等でしっかり確認することが大切です。
銀行口座も相続財産の一部ですから、相続税申告が必要な場合には死亡時の預金残高が課税対象となります。申告書には残高証明書を添付する必要があり、通帳を紛失してしまって入出金の履歴がわからない場合には取引履歴を照会することもあります。
相続税の申告は亡くなった人の死亡日から10カ月以内に行う必要がありますので、残高証明書の取得や取引履歴の照会は名義変更より前に行ったほうがよいでしょう。
全国47都道府県対応
相続手続きに強い司法書士を探す亡くなった人の自宅などを捜索して通帳やキャッシュカードを確認するほか、遺言やエンディングノート、郵便物、同居していた家族からの聴き取りなどによって、亡くなった人が利用していた銀行名を調査します。
全国の銀行を横断的に調査する方法はありませんが、利用していたか、利用していた可能性のある銀行名だけでもわかれば、支店や口座番号が不明でも、戸籍謄本等の証明書を提出して、その銀行の全支店で亡くなった人名義の口座がないか調べてもらうことが可能です。
法定相続人が誰なのかを調べるために戸籍謄本を取得します。具体的には、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍を含む)、相続人の戸籍謄本(抄本でもよい)が必要です。法務局で法定相続情報一覧図の申出をしておくと、銀行には戸籍謄本の代わりに一覧図のみを提出すればよいので、提出書類が減り手続きが楽になります。
亡くなった人が遺言を書いている場合には、遺言の内容に従って銀行口座の名義変更を行うことになります。生前に遺言を書いたという話を聞いたことがあれば、思い当たる場所を探してみてください。銀行の貸金庫に保管してあったり、遺言信託で銀行が預かっていたりする場合もあります。公正証書遺言を作成していれば公証役場、自筆証書遺言保管制度を利用していれば法務局へ請求することで遺言の有無や内容を確認することもできます。
なお、自宅等で発見された自筆証書遺言については、開封する前に家庭裁判所で検認という手続きを受ける必要がありますので注意してください。
具体的に誰がどの口座を引き継ぐか、すべて解約し払戻しを受けるのであればどんな割合で分けるのかを相続人全員で話し合います。この話し合いは、必ず相続人全員で行う必要があり、誰か一人でも欠けた状態で決めてしまうと無効となります。
この話し合いで決まった内容をもとに遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名(記名)し、実印にて捺印します。
亡くなった人の死亡によって口座が凍結された場合、名義変更手続きが終わるまで預金の引き出しができなくなります。
しかし、亡くなった人の医療費や葬儀費用の支払い、借金の返済、残された相続人の当面の生活費など預金の引き出しがすぐに必要な場合もあります。このような場合には、民法改正によって令和元年7月からスタートした「預貯金の仮払い制度」を利用します。
この制度を使えば、【 亡くなった人の死亡時の預金残高×3分の1×払戻しを受ける相続人の法定相続分 】を限度として、各相続人が単独で払戻しを受けることができます(ただし、同一金融機関からの払戻しは150万円が上限)。新しく始まったばかりの制度なので、必要書類などは各銀行に問い合わせて確認してください。
亡くなった人が利用していた銀行の支店窓口か相続事務センターに電話をして、口座の名義人が亡くなったことを伝えます。この時点で口座は凍結されますので注意してください。
手続き案内のために来店を要求されることもありますし、そのまま電話で必要書類を案内してくれることもあります。手続き案内の資料一式を送ってくれる銀行もありますが、手続きに不安がある場合は、窓口で直接案内を受けたほうがよいかもしれません。
銀行から指示された必要書類がすべて準備できたら、銀行に連絡して予約をしたうえで窓口に提出します。予約なしに持って行っても受け付けてもらえないこともありますので必ず予約するようにしましょう。銀行口座の名義変更で一般的に必要となる書類は次のとおりです。なお、印鑑証明書や法定相続情報一覧図など公的書類の有効期限については、3カ月または6カ月としている銀行が多いです。有効期限については必ず確認するようにしましょう。
必要書類をすべて提出して2週間から1カ月程度で手続きが完了します。亡くなった人の口座を引き継ぐ名義変更であれば、名義が変更された通帳を受け取ります。解約して預金の払戻しを受ける場合であれば、相続人が指定した銀行口座に払戻し金が振り込まれて、解約済みとなった亡くなった人名義の通帳が郵送されてきます。
ゆうちょ銀行は書類の提出が2段階になっており、解約払戻しを受ける方法も一般的な銀行の手続きと少し違います。
銀行口座の名義変更には、口座が凍結される前に確認しておくべき事項が多く、実際の手続きの際にはさまざまな書類の提出が必要です。また、銀行の窓口は平日しか開いていませんし、あらかじめ予約をしておかないと書類の提出すら受け付けてもらえないことが多いです。
司法書士などの専門家に依頼すれば戸籍謄本等の必要書類の取得から名義変更まですべて代行してもらえます。手続きに不安がある、忙しくて手続きがなかなか進まないといった場合は、ぜひ一度司法書士などの専門家にご相談ください。
(記事は2022年11月1日時点の情報に基づいています)
「相続会議」の司法書士検索サービスで